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その百三十六 三成の遺言

「佐和山のお殿様はわたくしのような者を相手に、実にたくさんのことをお話し下さいました」


そういっておいねはどこから何を話し始めればよいのか思案した。


北政所には数日を費やして話し終えたばかりである。


目の前の憔悴しきった秀秋は、そんな気力も時間も持ち合わせてはいないように覗えた。


おいねはつとめて小早川に関わることに整理して話すようにした。


「佐和山のお殿様は松尾山のことでも、佐和山のことでも、小早川様をお恨みするようなことは一切申されておりませんでした」


うなだれて聞いていた秀秋が顔を上げた。


「三成様は明智の怨念を巧みに利用した徳川様に、大谷様の策略がことごとく裏を斯かれたと申されておりました。

残念ではあるが策士策に溺れるであったと ・・・・ 」


そのことには秀秋も心当たりがあった。


「小早川を主君の意思に背いてまで東軍に走らせたは明智の家老の娘。

西国の強豪、立花を大津に足止めしたは明智の元家臣の京極。

大坂で三成様を窮地に陥れた細川の奥方は明智の姫君。

最後の最後に戦局の均衡を打ち破る決定的な役割を果たされた脇坂のお殿様も元は明智。

豊臣は明智があっての豊臣とも、申されておりました。

明智の滅亡の上に成り立つ豊臣が、因果応報、明智の怨念に敗れたのだと ・・・・ 」


秀秋の目に元来の思慮深い光が戻り始めた。


「大谷様の築かれた、後手必勝の待ち受け戦とやらは、それは完璧であったとも申されておりました。

双方が霧が晴れるのを待っていたなら、西軍の威容に開戦の火蓋は切られずに済んでいたのではないかとも。

しかし徳川様はそれらを承知の上で、自分自身を囮に関ヶ原に現れ、自ら戦端を開かれたと。

小早川様の軍を必ず東軍に引き込む確固たる裏付けがあったのであろうと」


秀秋は松尾山での出来事を思い出して身震いして悔しがった。


「あの時、平岡と稲葉を主馬の進言通りにたたっ切っておれば ・・・・ 」


「たとえ小早川の軍が東軍に傾こうとも大谷様は手を打たれていたそうに御座います。

家康様の切り札の小早川を抑え切ることで、もはや西軍の優勢間違いなしと。

日和見の軍団は徳川に見込み無しと見切りをつけて西軍に傾くと ・・・・ 

・・・・ ところが、まさかの脇坂と。 

大谷様と共に越前、北陸を転戦してきた盟友の脇坂のお殿様がまさかあそこで寝返ろうとは流石の大谷様も見抜けなかったであろうと。

秀秋様、 ・・・・ 関ヶ原で西軍が負けたのは小早川のせいでは御座いませぬ。

小早川の軍を退けつつあった大谷軍の一番もろい側面を、僅か千の兵で突いた脇坂様の裏切りこそが決定的。

三成様は間違いなくそのように申しておりました」


「 ・・・・ 石田殿は佐和山でのことについても某を許すと」


「許すも許さぬも御座いませぬ。三成様は小早川のお殿様に、この難局をしぶとく生き延びて豊臣家の支え手になっていただくのだ、

それを是非とも伝えよとわたくしめを遣わしたのでございます」


おいねの話を聞き終えた秀秋はおいねの傍に進み手をとった。


「よくぞ、 ・・・・ よくぞ知らせてくれた。この秀秋、悪い夢から目が覚め申した」


大大名の殿様から、かくも厚く礼を言われたおいねは恥ずかしそうに、でもとても誇らしげに見えた。



・・・・ これで佐和山のお殿様の御遺命を全うできる ・・・・

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