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その百三十五 三本木

「石田殿は某が裏切ったと思っておる、某のことを恨んでおるのじゃ ・・・・ 」


秀秋はそう言って泣き崩れた。 


おねねは優しく諭すように秀秋に語りかけた。


「佐吉はそなたを恨んだりしてはおらぬ。そなたの身を案じて突き放すような物言いをしたのじゃ ・・・・ そなたにはそれが解らぬのか」


焦燥しきって些か精神に異常をきたしかけた秀秋には、おねねの言葉も届いていないようだった。


考えあぐねたおねねは傍らの孝蔵主にもう一人の客をここへ通すように申し付けた。


しばらくして、おねねと秀秋が待つ、中庭が見渡せる部屋の前でおんなが一人手を付いた。


もう一人の客は若いおんなであった。


秀秋にも見覚えがあるおねねの着古しを身に付け、武家髪に結ってはいるがどことなく板についていない感じもした。


おねねはそのおんなにも部屋の中へ入るようにすすめた。


おずおずと末席についてまた手を付いたおんなは、三成が北政所に遺言を託した古橋村のおいねであった。


顔を上げたおいねに秀秋は初対面であるはずなのに不思議な懐かしさを感じた。



・・・・ 若き頃の北政所(おかか)様に似ておる ・・・・



「この娘は佐吉が長浜の近郷の村で、捕縛される寸前まで匿い世話をしてくれた者でおいねと申す」


おいねはちらと秀秋をみてまた手を付いて平伏した。


「おいね、挨拶はもう良い。なかなか上出来じゃ。いつでも内府殿をお迎え出来よう」


「 ! 、内府殿がここへ立ち寄ると?」、秀秋が驚いておねねに尋ねた。


「かならずな ・・・・ 」、といっておねねはにっこりとおいねを見た。


「ここにおわす若い殿方は、こう見えてもれっきとした大名でありまする、それに豊臣家の第二位継承者でもあるのじゃぞ」


「 ・・・・ 小早川 ・・・・ 秀秋様」


おいねが名を当てた。


「さすが佐吉が見込んだ娘じゃ。おっと、もう立派な奥方であったな」


そういわれておいねは初々しく少し照れた。


「固くならずとも良い、みな身内じゃ。

おいねや、これから豊臣を背負って徳川と立ち向かわねばならぬこの若者に、そなたが佐吉、いや佐和山の殿様から申し付かった遺言を聞かせてやってはもらえまいか」



運命の不思議な糸に手繰り寄せられて、傷心の秀秋は三成の遺言を心に刻むことになる ・・・・

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