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その百三十一 無血開城

「大坂城で籠城戦など、淀の方がお許しにな訳なかろう ・・・・ 」


毛利輝元の提案を片桐且元はぴしゃりとはねつけた。


当の輝元とて徳川を相手に籠城戦をする気など毛頭無かった。


ただ強行に徹底抗戦を唱える立花宗虎と叔父の毛利元康の手前、淀の方が承諾せぬのを承知の上で提案したのだ。


同席した立花宗虎が且元に食って掛かった。


「城攻めの名人であらせられた太閤殿下が、その全てを注ぎ込んで造り上げた大坂城をもって戦えば、如何な徳川とてけっして攻め込めるものではありませぬ。

我が立花が誇る鉄砲隊がその力を存分に発揮するのは頑強な砦に篭っての迎撃戦で御座います。

現に朝鮮では幾多の籠城戦で明の大軍を殲滅してきたではありませぬか。

たとえ相手が十万だろうと二十万だろうとそんなことは関係ありませぬ。

敵が大軍勢であればあるほど標的は多くなりまする。

狙撃手が身を隠したまま速射できる籠城戦に於いては、標的が多ければ多いほど無駄弾丸が減らせるということになりまする。

敵は死体の山が積み上がっていくことに恐怖し、和議か撤退を余儀なくされるでありましょう」


宗虎の言い分は至極もっともであった。


大坂城と立花鉄砲隊を組み合わせれば向かうところ敵無しであろう。


まだ豊臣に臣従する者も多く、如水や清正も健在なこのときに、覚悟を決めて家康と対決していれば、

たとえ結果が痛み分けになったとしても豊臣が滅亡することは避けられたに違いない ・・・・


しかしお茶々の選択肢には、わが子秀頼を対決の前面に据えるなどということは、けっして有り得ないことだった。



・・・・ 弟の万福丸の二の舞にはさせられぬ ・・・・



それまでのやり取りを上段の上座で黙って聞いていたお茶々が、強硬に籠城戦を主張する宗虎に向かって言葉を投げかけた。


「立花宗虎、・・・・ 」


お茶々の凛と通った声に居合わせた者達が居ずまいを正した。


「そもそもそなたが大津城ごときに梃子摺(てこず)らずに大垣に集結した治部少(じぶのしょう)達と共に関ヶ原に参戦いたしておれば、このような最悪の事態には至らずに済んだであろう。

何故、大津城ごとき二、三千の兵で取り囲んでおいて関ヶ原に馳せ参じなかったのじゃ」


これには宗虎も返答のしようが無かった。


数日前、孝蔵主(こうぞうす)に申し開いたのと同じことをもごもごと口走った ・・・・


「大津には淀の方の妹御のお初様が立て篭もっておられましたゆえ思い切った攻撃が出来なかったので御座いまする ・・・・ それに敵を背後に置いたままで先には進まぬのが定石」


それを聞いたお茶々が宗虎をこきおろした。


「たわけ者が。たとえ親兄弟であろうと敵味方とならば命を奪い合うのが戦国の倣いであろう。

女の身のわらわですらそれしきのこと承知しておる。

そなた、太閤殿下の治世で平和ぼけしたか。

日の本一勇猛果敢と聞こえた立花宗虎が聞いてあきれるわ!」


お茶々にここまで言われては宗虎も引き下がらざるを得なかった。


頃合と見て且元が落とし処を説いて含めた


「輝元殿。此度の騒乱は内府殿と治部少(じぶのしょう)が豊臣政権の執政の座を奪い合った私闘である。

其の方も疑われて困るような野心が無いのならさっさと西の丸を引き払って毛利の所領に帰られるがよい。

大坂城を戦場(いくさば)にするなど亡き太閤殿下は決して許されぬであろう。

左様承知いたすがよい」


輝元は己が望み通りに且元が評議の場を差配してくれたのでほっとして引き下がった。



・・・・ これで毛利の安堵は間違いない ・・・・



大坂城の明け渡しは豊臣姓を合わせ持つ福島正則によってつつがなく進められ、天下の堅城は無血開城した。


家康はすでに奥平信昌を所司代に置き京都まで支配下に収めていた。

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