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その百二十四 魂胆

夜半に血相を変えた本多正信が家康のところにやってきた。


「上様、治部少輔を鳥居成次にお預けになったと聞き及びましたが何故でございまするか」


「ああ、もうそなたの耳に届いたか」


家康はきまり悪そうにとぼけた。


「三成めは今しばらく生かしておく必要があると申し上げたはず。

鳥居に預けるは殺せと命じているのも同じでございませぬか」


「まあまあ、殺せとは命じてはおらぬ。命じておいて後から鳥居を取り潰す訳にはいかぬであろう」


「 ・・・・ 」


「そういうことだ、正信」


「 ・・・・ 伏見城に鳥居元忠を居残らせたは元忠を始末するためであったと ・・・・ 」


「左様、かねてより鳥居を徳川から排除する機会を覗っておった。

伏見城へ居残らせたはまさに一石二鳥であった。

鳥居本人もわしから疎んじられておることは承知しておったはずじゃ」


「しかし三男の成次までも失脚させずとも ・・・・ 」


「まあ、そういう役回りの定めということだ」


「 ・・・・ 」


正信は主君家康が天下を目前として、いよいよ天下人の非常さを身に纏い始めたことを感じた。


かつて羽柴秀吉が殺戮を好まぬ気の良い親父から、冷酷な支配者に豹変していったように ・・・・



その頃すでに精も根も使い果たし疲れきった三成は鳥居成次に預かりの身となっていた。


すでに三成は今宵限りの命と観念していた。


何しろ三成が預けられた鳥居成次は鳥居元忠の三男。


鳥居元忠は関ヶ原の前哨戦に三成が直接手を下して落とした伏見城の城代であった。


城を落とされた元忠は腹を切って果てた。


三成はまごう事なき父の仇である。


それを家康は成次に預けたのである。


「殺せ」と命じたか、「殺してもよい」、と許したかのいずれかに違いない。


馬に乗せられ成次が陣屋とした小さな屋敷に運び込まれた三成にはまず風呂が与えられた。


鳥居の家来が見張るなか、小物が丁寧に三成の垢を落とした。


前の晩の正純のところでは風呂までは与えられていなかったので三成はずいぶんさっぱりして生き返った心地がした。


・・・・ 清めてから殺すつもりか ・・・・


風呂を上がると渡り廊下と庭に面した小さな座敷に通された。


一人で座らされた三成の前に膳が運ばれて来た。


急場の陣屋にしては充分に心を尽くされた食事が並び、それが決して最後の食事として出されたものではないことが分かった。


ここに来て三成も当家の主に自分を殺すつもりが無いことを察した。


幾分か体調も持ち直した三成は久方ぶりに腹が満ちるほど食した。


膳が下げられると障子の外の監視の者達に動く気配が感じられ障子が開いた。


すらりとして端正な顔つきをした男が立っていた。


面識は無かったがこの人物が主の鳥居成次であろうことはすぐに察しがついた。

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