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その百十九 長政の疑念

掲載が遅れて申し訳ありません。


関ヶ原の発端に新たな疑問が発生して、過去の掲載分の修正を平行して行なっております。


修正が完了したところで、第何話を修正したかご案内させていただきます。

本丸一階の広間は、居残っていた大名、武将たちが懇意の者達と関ヶ原での武勇や今後の褒賞のことなどを話し合う声で騒然としていた。


そんな中にあって神妙な雰囲気の一群があった。


関ヶ原で一番手柄を立てたはずの福島正則の周辺だった。


正則は同年代で日頃から昵懇の黒田長政、細川忠興と弟分の浅野幸長らと車座になって話し込んでいた。


父親に似て切れ者の黒田長政が関ヶ原後に思うところを述べはじめた。


「あの唐突に始まった関ヶ原での地獄から七日、ようやく頭の中が整理されてき申した」


正則が頷いた。


「まさに突然のことで御座った。我等皆、大垣城に集結した三成どもとの籠城後詰め戦を覚悟しておったのだからな。

何日何十日かかるやも知れぬ籠城戦に備え、清洲の米を全て運び込む手はずであった。

それが内府が到着するやいなやたいした状況検分もせぬまま急かされるように関ヶ原に打って出された」


幸長も大いに頷いて、「何より心配だったのは治部少めが秀頼様を無理やり戦場に担ぎ出して来てはおらぬかということであり申した」、と関ヶ原での野戦が突然の出来事であったことに同意して見せた。


「今思うに ・・・・ 」


長政は視線を遠くに置いたまま己が心に固まり始めた推考を披露した。


「西軍の首領が本当に三成だったのか怪しいと思うておる。

関ヶ原で我らと対峙した西軍はまったくもって見事な布陣であった。

霧も去りやらぬ間にいきなり合戦の幕が切って落とされたが、霧が晴れるのを待っていたなら果たして我等は正気でいられたかどうか。

内府はそのことを事前に知っていて井伊直政に霧中の抜け駆けを仕掛けさせ、強行に戦端を開いたのではあるまいか」


正則も無言で同意の意を示した。


「確かに霧が晴れるのを待っておったら西軍の布陣に一歩も動けず睨み合いとなるか、一目散に退散していたかも知れぬな」


「左様、一分の隙も無い見事な布陣であった。あれは完全に待ち伏せされていたのだ」


「違いない、山上に大筒まで据えておったのだからな」


「小早川の寝返りが無かったらどうなっていたかと思うと、ひやひやもので御座る」


皆それぞれに東軍の勝利が薄氷を踏むものだったことに同意した。


「戦べたの三成ごときにあれほどまでに見事な布陣など出来るはずが無い。あれはすべて大谷刑部少(ぎょぶのしょう)の策であろう」


「 ・・・・ 」


「恐ろしい奴であった」


「如何に三成とて大谷が味方につかねば正面きって徳川に挑もうとなど思わぬであろう」


長政は西軍の布陣やその後の戦闘状況から三成が西軍決起の首領であったとされることに疑いの目を向けていた。


「調べによると西軍の中で真っ先に決起したは大老の宇喜多中納言であるとのことであった。

かかる合戦は大老の宇喜多と軍師の大谷が前のめりとなったのを三成が不承不承首領に担がれたものなのではあるまいか ・・・・ 」


長政の推理は皆のまったく予想しないものであった。


「確かにそれなれば大谷が関ヶ原で腹を切り、宇喜多がいまだ雲隠れして出て来ぬことにもうなずける」


「伝え聞くところでは三成は自ら進んで捕縛されたとのことである」


「その真意は?」


「名誉も城も一族も、何もかも失ったあ奴には守るべきものは何も御座らぬはず。自害もせず捕縛されたはまっこと不思議で御座る」


「 ・・・・ 豊臣を内府の野心から守るためだとしたら」


「 ・・・・ 」


「確かに関ヶ原の戦勝以降、徳川の連中の増長振りは目に余る」


「いつの間にか上様(・・)だしな」


そのときざわざわと騒々しい本丸広間に家康の使い番の大きな声が響いた。


「尾張清洲福島正則様、甲斐府中浅野幸長様、石田治部少(じぶのしょう)詮議に加わられたしと上様(・・)がお呼びで御座る」


それを聞いた正則は、「それみろ、また上様(・・)ときた、徳川の奴ら天下でも取ったつもりだ」


長政が正則を諌めてそっと申し送った。


「豊臣の身内の者だけを呼びつけるは何がしかの魂胆があってのこと、くれぐれも態度にはお気を付けられよ ・・・・ 」


「豊臣の身内ならほれ、一番手があそこにおろう」


正則はあごをしゃくって広間の隅で一人押し黙っている小早川秀秋を指した。


一斉に皆の視線を浴びた秀秋はいっそう肩身をちぢこまらせた。


世が世なら豊臣の後継者として天下に君臨していたはずの秀秋であった。


太閤(・・)の晩年に淀の方が子を産んでさえいなければ ・・・・


秀秋は門前での三成の物言いを真に受けて三成から恨まれていると誤解して更なる自己嫌悪に精神を(さいな)まれていくのであった。

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