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その百十五 家康の疑念


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家康が問う番である。


片ひじを膝に乗せて少し前のめりになった家康が、


「治部殿 ・・・・ 、聞いておればさっきから大老どもの心配ばかりではないか。

そなた、いつからそれほど他人思いになられた。

それほどまでに他者を(おもんばか)る器量があったのなら、多くの人望が得られ土壇場で裏切りにあうようなことなどなかったであろう。

少しは我が身を案じられた方がよろしいのではないか」


家康は三成に命乞いをさせたかったのである。


その上で豊臣政権の中枢にいた者でしか知り得ない極秘情報を聞き出したかった。


なかなか命乞いをしない三成に家康が痺れを切らせた。


「なぜそこまで豊臣に忠義を尽くされる。

関ヶ原で徳川に味方した大名とて、そなたと同じ太閤殿下の御恩を受けた者達ばかりではないか。

それでも己が宗家を維持継続させんが為、徳川の権勢に皆(なび)いたのだ。

そは卑怯にあらず。

多くの家臣を背負う大名ともならば当然の道である。

己が忠義や友情如きの為に一族郎党を路頭に迷わせるような道など、まっとうな頭の持ち主ならば選ぶはずが無い。

類稀(たぐいまれ)な才覚の持ち主であるそなたに、その程度の道理が解らぬはずがなかろう。

いったい何がそなたをそこまで忠義に走らせておるのだ」


家康は三成の忠義を逆手に取って目的を半ば達しながらも、三成の(かたく)ななまでの忠誠心が不思議でならなかった。


「いったいそこまでして守ろうとする豊臣とは何なのだ ・・・・ 」


家康の疑念が危険な領域に迫りつつあった。


「 ・・・・ すべては大公殿下の御遺志で御座る。内府殿もよく御承知のはず」


三成は慎重に言葉を選びながら答えた。


家康は激高した。


「太閤は死んだのだ!

信長公が死んだとき太閤は何をした。

信忠殿のほかに成人した兄弟が何人もいたにも関わらず、直系にこだわるふりをして幼い三法師君を担いだではないか。

哀れ織田秀信(三法師)はそんな豊臣に義理を通して盾となり、岐阜城を攻め落とされ今頃は高野山で経を読んでおるわ!」


「だから秀頼さまから天下を奪い取ってもよいと仰せか」


三成が冷たく言い返した。


「 ・・・・ 」


息を切らせた家康が押し黙った。


その様子を正信は細めた目で見ていた ・・・・ これだから迂闊に人前で詮議など出来ぬのよ ・・・・ 


家康は危うく己が野心を吐露してしまうところだった。


見かねた正信が助け舟を出してよこした。


「淀の方が織田家の濃ゆい御血筋であろうことは、ずいぶん前から存じ上げており申した」


正信はさも以前より知っていたかのように口ぶりで語った。


本当はつい最近、片桐且元から得た極秘情報である。


「それにしても解せぬのは秀頼様が信長公の御嫡流であるのならなぜそれを隠そうとされたのか。

当の御本人の淀の方すら知らされておらぬとは相当な秘め事であったということで御座ろう。

淀の方はお市様の子ゆえそもそもが織田の御血筋で御座った。

それなのに秀頼様が信長公の直系では困る理由が他に何かあったのでは御座るまいか」


正信はさすがに痛いところを突いてきた。


かつて天下布武を掲げ朝廷を殲滅しようとした御敵信長の直系が武家の頭領となることは朝廷の好むところではなかった。


信長と朝廷の経緯(いきさつ)を知る家康と正信がそれを利用しないはずがなかった。


・・・・ 徳川討伐の勅命が取り消された理由はやはり徳川の密告であったか ・・・・


三成の顔に苦痛の色を読み取った正信は勝ち誇ったような笑みを浮かべ座りなおした。


・・・・ しかしこれはこれで良い、今更お茶々様の御血筋を辿られようと既に失うものは何も無い ・・・・


「太閤殿下は信長公よりお預かりした天下を再び織田家にお返しするおつもりだったので御座る。

誰よりも織田の血が濃いお茶々様を側室に迎えられたのもその為。

お茶々様を通して太閤殿下は敬愛して止まなかった信長公と一体となり次の世に生まれ変わられようとなされたので御座る。

某はそのお手伝いをしたまで。それは命を掛けるに値する大仕事で御座い申した」


事実だけが持つ迫真の説得力が三成の言葉にはあった。


家康も、正信も、正純も直政にもすとんと腑に落ちる三成の告白であった。



秀頼の奇跡の血統の秘密は守られた ・・・・

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