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その百十一 一人対十万

八日間に及ぶ激戦と砲火を浴びて無残に崩れかけているかに見えた大津城も本丸の内部は綺麗なものであった。


その本丸奥の書院で三成は家康と徳川の謀臣の面々と対峙していた。


さすがは名家の誉高い京極家のこしらえた書院である。


城中とは思えぬ緻密で繊細な造りに平時であればさぞや心が鎮まるであろう造作である。


つい先日、三成が京極高次を自軍に引き入れるときに高次と酒を酌み交わしたのもこの部屋であった。


さっきまでの罪人扱いが嘘のような客人扱いに、家康に下心があることは明々白々であった。


三成は口を強く結んだまま半眼で家康の顔を凝視していた。


目論見通りにはぺらぺら喋らぬぞ、という意思表示であった。


しばらくの沈黙の後、口火を切ったのは家康であった。


「治部殿 ・・・・ 、関ヶ原での戦振り、見事で御座った」


家康の言葉に嘘や誇張は無く、目に怒りや恐れの色も無かった。


「互いに死力を尽くして戦い申した。勝った者と敗けた者が辿る運命は残酷なまでに違えど、徳川を相手にあそこまで遣り遂げられた治部殿にも悔いは御座らぬであろう ・・・・ 」


「 ・・・・ 悔いることなら吐いて捨てるほど御座る。ただ、過ぎたことをあれこれ(おもんばか)っても詮無き事。

某には時間が御座らぬゆえ頭の中は豊臣家の先々の事で一杯で御座る」


三成は家康の野心の程を差し計ろうと駒を進めた。


家康は手応え有りと踏んで三成に提案を持ちかけた。


「有り体に申す。この家康、治部殿からお伺いしたき事がいくつかあり申す。

おそらく治部殿にもこの家康に問いたきことが御座ろう。

如何(いかが)であろう、ここは互いに相手の問いに答える代わりに自分も問いたいことを問い返すというのは。

もちろん互いに全て真正直に答える必要は御座らぬ。

ただし、 ・・・・ どちらかが問いに答えぬ場合にはそれで打ち切りである。

二度とお目に掛かることも御座らぬであろう。

この提案、治部殿に受けていただけるや否か」


三成は家康の巧みな条件提示に腹が立ったが表には出さずに自問した。


大名達から一方的に吊るし上げられる状況よりかは家康の本心に迫れるかも知れない。


大名達の面前で家康の野心を暴こうとしても無理やり口を閉ざされればそこまでであった。


「 ・・・・ よろしい、その御提案お受け申す」


三成の腹が決まった。


正純はともかく、相手は老獪な家康と智将井伊直政、そして謀臣本多正信である。


・・・・ ちと手強(てごわ)かろう ・・・・


三成は不利な状況を警戒したが怯むことは無かった。


失うものは何も無い。


名誉さえ。


・・・・ ここで徳川の野心に少しでも(くさび)を打ち込んでおけるなら ・・・・


三成にとっての関ヶ原の後半戦が始まろうとしていた。




(ただ)一人の ・・・・

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