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その百四 思いがけない同志

「関白秀次様が御健在であったなら、太閤殿下亡き後にこれほど容易(たやす)く内府に付け込まれずに済んだはずで御座った」


「 ・・・・ 」


三成の椀にニラの卵とじ雑炊をよそる与次郎の女房を前に三成は敗れた原因を自問自答していた。


「全てはあの時から狂いはじめた」


三成は丁度良くさめた椀の中身ををすすった。


卵とじといっても(うずら)の卵でこしらえたのでニラばかりである。


「誰が考えても太閤殿下が御他界あそばしたときに成人したお世継ぎがなかった事が騒乱の原因」


「 ・・・・ 」


与次郎の女房はおいね(・・・)という名であった。


豊臣家(・・・)という伽藍(がらん)だけのことを考えれば、内府の次男の秀康殿に豊臣を継いでいただいておれば内府とて手放しで豊臣を支えてくれていたことであろう。

又は、たとえ宇喜多殿であろうと秀秋殿であろうと、とにかく成人した跡取りさえいたなら内府もおいそれと野心むき出しには出来なかったはずである」


三成はおいねにそのような話が理解出来るわけないだろうと承知していた。


ただ聞く者がいてくれた方が良く考えがまとまったのだ。


「お茶々様が殿下と(それがし)の思惑通りに鶴松君に続いて秀頼君をお産みになられたことが豊臣の不幸の始まりと云うのは何という皮肉」


「 ! 」


お茶々(・・・)の名前においねが反応した。


「 ・・・・ お家よりお血筋が大事。お殿様はそうおっしゃるのでございますか」


初めておいねが三成に問うた。


三成はおいねが精一杯話し相手になろうとしてくれていることが些かうれしかった。


「もしこのまま豊臣が滅びるようなこととならば、心ならずもお茶々様は秀頼君を産んだことで浅井(あざい)の仇を討ったことになろう」


「まあ、・・・・ お茶々様が浅井の恨みを晴らすなどと信じられませぬ」


おいねは遠慮がちに言った。


今度は三成が黙った。


小谷(おだり)のお茶々様は長政様のお子などでは御座いませんでしょう。

尾張の織田様のお血筋だと思います。

だって二人目の姫君にお初(・・)と名付けるなんて百姓だっておかしな事だと気が付きます。

浅井のお殿さまの織田様へのあてつけにございましょう」


「何と、」


三成はおいねの言葉に驚いた。


「織田様が小谷の城を攻め落とされたとき、浅井の若君が惨い遣り様で殺されましてございます。

お市様のおなかを痛めた弟君は死罪を免れましてございます。

父親を疑ってお茶々様につらく当たられた長政様の母御(ははご)様は毎日指を一つずつ切り落とされるという惨い殺され方をされたそうにございます。

これはいよいよお茶々様は信長様の娘に相違ないと思っておりました」


三成はおいねの聡明さに驚いた。


これより数日のあいだ、三成はこの命の恩人の与次郎の妻おいねを聞き役に関ヶ原(・・・)の真実を探るのであった。

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