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その百三 発端

「殿下、秀次様御本人に謀反の心積もりなど御座ろうはずがありませぬ。利休殿に腹を召させたときといい此度の無理強いといい殿下はもうろくされたので御座いまするか」


三成は伏見城で太閤秀吉に直言した。


そのようなことを面と向かって秀吉に言えたのは三成と北政所ぐらいのものであった。


秀吉は三成の顔をまじまじと見つめた。


「心配いたすな。もうろくはしておらん。そのうち其の方にも全て話して聞かせるときが訪れよう。

だから今はわしの言うとおりにいたしてはくれまいか。これにおよんで秀次を生かしておくわけにはいかぬのじゃ」


秀吉は命令ではなく三成に協力を求めた。


三成は太閤の秀次排除には世継ぎ問題どころではない、何か深い訳があるのではと察した。


「ならばこの際、秀次様の御処分に連座して秀次様を担ごうとしたした不貞の輩も葬り去っておくのが後々の為かと存知まするが ・・・・ 」


三成は細川忠興、山内一豊、伊達政宗ら秀次へ肩入れしていた大名をこの際大幅に減封、移封して力を削いでおくことを勧めた。


「佐吉よ、秀次の不安を煽って謀反を焚きつけておる黒幕を誰と心得ておる」


「従兄妹である最上の駒姫の輿入れをてこに関白家に入り込もうとした伊達様とお見受けいたしまするが」


秀吉はぷいと横を向いて黙った。


三成が答えを(たが)えたときのお決まりの動作である。


「それでは伊達様は目くらまし役にすぎず影で差配するは徳川様、ではいかがですか」


秀吉は三成の正面に向き直って満足そうに頷いた。


「さすがは治部少輔、よくぞ見抜いた」


三成は続けた。


「お茶々様が秀頼君をお産みおそばされたことは殿下と(それがし)の念願成就に御座います。

しかしそれに乗じて豊臣家に後継者問題を引き起こそうとする者がいるのも事実。

まだ幼い秀頼君が御成人あそばすまでの中継ぎとして、朝廷の覚えめでたき秀次様はまさにうってつけのお方にございました」


「左様、秀次の不安を煽って人心の乱れを起こそうとするような者が現われずんばな」


「この際、徳川を討って禍根を断ち切っては」


「証拠が無い。家康殿はそんなへまは致さぬ御仁じゃ。開き直って伊達と組まれては一朝一夕には滅ぼせぬ。

騒動の最中にわしが死ねば心変わりするものが次々現われ風向きが変わってしまうやもしれぬ。

徳川殿の政治上手はわし以上であると心得よ」


「では、手足だけでも奪っておかれてはいかがでしょうか」


秀吉は瞑目して言い渡した。


「細川忠興、山内(やまのうち)一豊は切腹、最上義光は謹慎、伊達政宗は南部に移封させよ」



しかし秀吉と三成の反撃とて家康の策略には織り込み済みであった。


忠興、一豊は家康のとりなしで罪を免れ、以降家康に頭が上がらなくなった。


伊達正宗もぬらりくらりと言い逃れ咎めは沙汰止みとなった。


哀れ家康の計略で助かる命(・・・・)を一町の差で奪われた駒姫の死は、最上と豊臣に深い遺恨だけを残すこととなった。


最上義光は上杉を会津に足留めするための囮の役を買って出ることになる。


秀次の記録を全て抹消するために聚楽第は取り壊され、さらに秀次の元の居城の近江八幡城も破壊された。


そのあおりを受けた京極高次は近江八幡城を明け渡す代わりに加増された大津に新たに城を築城し、これまた西軍を足留めする役回りを演じることになるのであった。


関ヶ原(・・・)は秀吉が健在であった五年前より、すでに家康が仕掛けていたものであった。

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