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7、ドラゴンは死んでいる


「おとーさん、あたし学校行きたい」


 うららかな昼下がり。木漏れ日が刺す森の中で、ヒーは竜を見上げてそう言った。

 幼い顔立ちには、それでももう断固とした決意がある。


「おとーさん」


 一方、竜は無言を通す。じっと、自らを見上げるヒーの目を覗き込んでいた。視線を外すことなく、ヒーは揺るがない。


 目をそらしたほうが負ける。そんな不文律のルールがあった。


 やがて、数秒の沈黙の後。

 ゆっくりと、竜は後ろを向いた。竜は負けた。


「おとーさん!」


 ヒーは幼児であるが、勝負事を本能的に知っている。今こそたたみかけるチャンスだ。


「学校! 行きたいの!」


 巨大な大木の幹のような前足によじ登る。無理やり揺するが、少女の質量では圧倒的な竜の質量を揺らせるわけもない。


「おとーさん! 話聞いて! 聞こえないふりしないで!」


「ぬ、う、ぅ、う、っっ!!」


 竜が呻く。もがくような動きの後、その巨大な体が崩れた。

 木々をなぎ倒し、地響きを立てて竜の体が倒れる。


「見事なり……よくぞ人の身で竜たる我を倒した……お前こそが勇者に相応しい……だが必ずや第二、第三の我がこの仇を……ぐ、は」


 なにかテキトーなことをぶつぶつと呟いて事切れる。舌を出し死んだ。

 ヒーは幼児とは思えない冷たい目をしていた。


「おとーさん! まためんどくさくなると死んだふりする!」



 △ △ △


「ヒーが学校ってのに行きたいんだってさ」


 ことの起こりは半月ほど前。ルーメが切り出した。

 いつものようになにもせず日がな一日うつらうつらとしているだけの竜が、珍しく興味を持った。


「がっこう? なんだそれは」


「あたしもまあよく知らんけど、人間の大人が子供を集めてあれこれ教えてやる場だよ。なんか読み書きとかそういう日常で役に立つことを覚えさせてやるらしいね」


 人間の街で暮らした経験のあるラミアのルーメには、ある程度の学校に関する知識はあった。所詮ある程度というレベルだが。


「ふむ、学問を教える場か……? 人風情の知識など竜に比べれば児戯にも劣るが、学ぼうという意欲があることは良きことである」


「うーん、学びたいっていうか、友達がみんな行くから自分も行きたいって感じなんだよねぇ。行くならまず村のやつらに話通さないといけないんだけど、あとなんかいろいろ道具も揃えないといけないらしくってさ」


 学校は村にある。数代前の村長が創設したものだそうだ。


「その辺は村の者どもに用意させてやればいい。火でも吹いて脅してやればかわいい我といえどやつらも言うことを聞くだろう」


「あんたまだそれ言ってんのかい……? まあヒーを学校に通わせるとなると子供の足で村まで往復しないといけないね。六年くらい通うらしいし」


「……六年? 人間の学問程度を覚えるのにそんなに時間がかかるのか? それにヒーの足で往復させる? 一体学校とはどういう場所なのか?」


「あたしだって良く知らないよ。でも学校ってのは朝出て夕方までいてを六年やるもんだってさ」


「……半日以上ヒーは学校にいるのか? そんな非効率なものに1日の大半を費やすと? なんという無駄だ。人間の学問など情報を圧縮させて覚えれば三時間とかからず網羅できるだろうに」


「いやヒーは人間で竜式の学習はできないんだよ……?」


 相変わらず竜の石頭ぶりは治らない。


「やはり人間ではダメだな。学校などというところに行く必要はない。我が教えよう。もっと有意義かつ深淵なる竜の知識を教えてやろう。朝から夕方まで我の元を離れる必要はない」


「……あんた結局ヒーと離れたくないだけだろ?」


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