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4.帰国子女に妹の本性を相談?

「じゃあ、解散よ! さようならっ」


 担任の米倉先生の一言で、クラスメイトが一斉に立ち上がる。新学期初日というのに仲良しグループができあがりつつあり、「このあと、どこに行く?」、「なにをする?」と会話をしながら、陽キャは教室を出ていった。


 グループの輪に入り損ねた俺は、妹と一緒に帰る予定だ。

 別に約束しているわけではない。だけど、先に終わった人が校門で待ち、一緒に下校するというのが習慣になっているため、俺は今学期もその習慣を続けることにしていた。

 一緒に帰る友達もいないしな。


「ユーヤ? ユーヤはこれからどうするんですか……?」


 前の席に座っているシルヴィーが、銀髪を靡かせながら振り返る。彼女から、女の子の甘い匂いがした。


「俺はとくに予定ないし、寄り道せず帰るぞ。妹も待ってるだろうしな」


「妹が待ってる、ですか?」


「妹と一緒に帰るんだよ。あいつ可愛いから、ナンパされたり、襲われたりしないか心配で一緒に帰るように……て妹のことを友達に話すってシスコンみたいで気持ち悪いな」


「妹と仲良しなんですね。ワタシ、一人っ子だから羨ましい、です」


「仲良しつっても、その辺の兄妹と変わらないけどな。普通くらいだ普通くらい」


 とは言ったものの、俺たち兄妹の関係は普通ではない。ほかの兄妹と比べたことはないが、兄に恋心を抱いている妹が普通であるはずがない。

 教室に女の子と2人きりの現状を優梨に目撃されたら、どうなるやら……。


「ユーヤ? 恐い顔、してます……どうしたんですか……?」


「あ、いやな……なんでもないんだ。考えごとをしたってか……今日の夕食の献立を考えてたんだよ」


「嘘、です。だって、あのときと同じ表情をしてたから」


「あのときっていつのことだよ」


「ワタシがパンをあげようとして、それを断ったとき、です。申し訳なさそうに……それ以上になにかに怯えているような感じがしました」


「なんでわかる……?」


「ただそう見えただけで、理由はないんです。だからえっと……女の勘、です」


「女の勘ってのは鋭いんだな。そうだよ、家庭の事情でいろいろ悩んでんだよ」


「ワタシは、その……事情を聞いていい、ですか……? ごめん……なさい。今日友達になったのに、こんなこと言って」


「謝る必要はないけど、たしかに他人の家の事情にズカズカ踏み込みすぎだな」


「ごめんなさい。でも他人じゃない、です。ワタシはユーヤの友達、です。だから、ユーヤの悩んでること知りたい、教えてください。力になりたいんです」


「力になりたい、か……」


 親身になって、語りかけてくれるシルヴィー。彼女が優しい人間であることは、接していればわかる。

 けど、信頼していた優梨の黒笑が脳裏にチラついて、シルヴィーの優しさを素直に受け取れなかった。


 そんな、答えを出せない俺に――。



▶︎シルヴィーに妹のことを話す


▶︎シルヴィーに妹のことを話さない



 世界は選択肢を提示した。


 とりあえず、【Q.SAVE】に上書き保存と【SAVE】画面のNo.3のファイルにここまでのデータを保存を忘れずに行う。



No.3

4月9日 11時53分 3年A組の教室

▶︎シルヴィーに妹のことを話す


▶︎シルヴィーに妹のことを話さない



「ユーヤ……?」


「あー……そうだな、少し考える時間くれ。自分の気持ちを整理したい」


「んっ。待ってます」


 初見の選択肢が出現した。この選択肢が今回のターニングポイントになりそうだ。


 どちらを選ぶのが良いのか考えを巡らせる。


 前者の、シルヴィーに妹のことを話すは、彼女を本格的に巻き込むことになる。良い手であるとは言い難い。だが、活路を見出すことができる可能性もなくはない。

 後者の、シルヴィーに妹のことを話さないは、彼女を巻き込まないで済む。この一点が最大のメリットだろう。


 シルヴィーとは友達でいたいけど、妹の件に巻き込みたくない俺としては、後者以外の選択肢はないと思う。


「これは俺だけの問題じゃないから、話せない。でも、他者の意見がほしいってときは頼らせてもらうな」


「ユーヤの妹が原因、ですか?」


 翠の瞳が、俺の心を見透かす。

 心臓を掴まれたような感覚に陥って、ドクンと震えた。


「はぁ!? なんで妹だって思ったんだよ……。ほ、ほかに理由があるかもしれないだろ!?」


「図星……なんですね。ユーヤ、表情に出してくれるのでわかりやすい、です」


「わかりやすいつったって限度があるだろ……。これも女の勘ってやつか?」


「ええと……そう、ですね」


「女の勘ってすごいんだな。男の直感は高確率で外れるから羨ましいぜ」


 シルヴィーは、なせ妹が原因であると気づけたんだ。

 家庭の事情といっても、妹とは限らない。親かもしれないし、親族に関することかもしれないのに。


 でも、親や親族が他界し、俺たち兄妹と血縁関係にある人間は生きていないことを彼女が知っているとすれば、なんら不思議でない。

 ただ今度は、なぜ初対面のシルヴィーが、そのことを知っているのかという疑問にぶち当たるわけだが。


 まあたぶん、直前に妹のことを話していたから、そう思ったんだよな。深い意味なんてよな。うん。


「ユーヤに迷惑をかけるなんて、いけない妹、ですね」


「いや、その、なんだ。……迷惑をかけてるわけじゃないんだ。俺が勝手に心配してるっていうか。普段はしっかりしてるし、俺と違って学業成績もよくて、家事も全部こなしてくれる」


「ユーヤの方が妹に迷惑をかけていますね。ちゃんとしてください、ユーヤお兄ちゃん」


「クラスメイトにお兄ちゃん呼ばわりされて喜ぶ人間じゃないからな!? 美少女にんなこと言われたら、変な性癖に目覚めちまうから、やめてくれよ」


「ユーヤは絶対シスコン、ですね。はぁ……ワタシがユーヤの妹になれたら、とてもハッピーでしたのに。こんな優しいお兄ちゃんがいて、ユーヤの妹は羨ましい、です」


「あいつもそう思ってくれてるといいんだけどな」


「思ってくれてます、きっと。あ、そういえば、ユーヤは妹を待たせてるんじゃあ……?」


「あ。あーシルヴィーと話し込んで、すっかり忘れてたわ」


「足止めして、ごめんなさい。ユーヤが妹と帰ると言ったとき、素直に帰ればよかった、です」


「いや、気にすんなって。シルヴィーと話すのわりと楽しかったし、また話しかけてくれよ」


「んっ。ワタシも楽しかった、です。また明日。バイバイ、ユーヤ」


「ああ、またな」


 シルヴィーは小さく手を振り、教室を優雅な足取りで後にした。


 彼女の後ろ姿を見送り、息を吐く。

 あぁ〜女の子と話すのって緊張するけど、楽しもんだな、と感慨に浸る。しかし、妹を待たせていることを思い出し、俺も彼女に続いて教室を出た。


 そのときだ。廊下をすれ違う2人の女の子を見た。


 腰まで伸びた銀髪が優美に流れる女の子と、手を振りながら元気よく駆け寄ってくるサイドテールの女の子。


「ユー、リ……ッ」


「ふーん……。あ! お兄ちゃんだーっ!」


 シルヴィーと優梨。すれ違いざまに2人の視線が重なる。シルヴィーは後ろ姿でどのような表情だったのか確認できないけれど、優梨は目を細め口角を最大限に上げた――黒い微笑みを浮かべていた。


 何かが起きるのではないかと身構える。

 だが、俺の勘違いだったかように、いつもの可愛いらしい笑顔を浮かべる優梨。妹の笑顔は、俺に安寧のひとときをもたらした。

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