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5.告白 優梨side

「奈々さんは、とても真面目で頑張り屋さんで――俺はそんな奈々さんに惹かれていたんだ」


「――」


「奈々さん、好きだ! 優梨の代わりに仕方なく俺の面倒を見てくれてただけなのかもしれない。けど、そんな毎日が楽しかったんだ、幸せだったんだ!」


「……いいんですか、優ちゃんのお墓の前でそんなこと言って。優ちゃんに聴こえてたら、大変なことになっていましたよ」


「んなこと覚悟の上さ」


「でも――」


「でも……?」


「自分は……自分も、お兄さんのことが――好きです」


 奈々ちゃんが勇気を出して紡いだ想い、聴こえてるよ。

 でも、奈々ちゃんにお兄ちゃんを託したんだもん。呪ったり祟ったりしない。……嫉妬しちゃうかもだけど、それくらいは許してほしいな。


「奈々さんの気持ち嬉しいよ」


 お兄ちゃんの、このルート以外での記憶データに、二重三重にも鍵をかけている。

 寂しいけど、シルヴィーAfterのように、私への想いが漏れ出ることはきっとない。


「お兄さんに、嫌いな相手に一生尽くすことは苦痛じゃないかと言われて、自分は――自分はあなたを好きになります。優ちゃんが好きだった相手であれば、きっと好きになります、と宣言しました」


「ああ。奈々さんの、優梨に対する忠誠的な愛はこんなにも強いものかと驚かされたよ」


「でも、心のどこかで、自分の想い人は優ちゃんなのに本当にお兄さんのことが好きになれるのかって不安でした」


「だろうな。嫌いなやつを好きになるのは、そう簡単なことじゃない」


「簡単でしたよ? だって、お兄さんは、優梨ちゃんの言う通り、魅力的な人でしたから」


 奈々ちゃんの前で、お兄ちゃんのこといっぱい惚気たもんね……。よく飽きずに聞いてくれたよ。


「誇張されてたんじゃないか……? 接してみると全然違ったろ」


「もちろん、大袈裟な部分もありました。生活面はだらしないし、身の回りのことは全て自分に丸投げ」


「それは全部、奈々さんがやってくれちまうからだよな!? 着替えくらい自分でできるのに……」


「力も学もないのに、優ちゃんや自分を守るとかできもしない理想妄想がすらすら口から出てくるし」


「それもうディスだろ!?」


 こくりと優しく頷き、嬉しそうに悔しそうに――表情を忙しく変えながら奈々ちゃんは、


「自分のことを褒めてくれて、日々を楽しく幸せなものにしてくれて――優ちゃんがくれたものを、代わりにお兄さんがたくさんたくさんくれました。そこまでされて、お兄さんを嫌いなままでいられますか?」


「奈々さん……!」


 奈々さんの告白に、ぎゅ〜っと力強く抱き締めることで応えるお兄ちゃん。もう絶対に手放さない、絶対に守る――そう主張しているようだ。


 2人の素敵な告白に嫉妬を覚える。


 でも、これでお兄ちゃんは幸せになれるんだ。

 私のいない世界ではあるけど、お兄ちゃんが毎日を楽しく生きていけるなら、それだけでもう十分――。


「キスしてもいいか……?」


 お兄ちゃんは顔を、奈々ちゃんの目と鼻に近づける。


 2人はキスをするんだ――と直感する。

 目を背けたくなる。お兄ちゃんがキスしてるところなんて見たくない。お兄ちゃんが私以外の誰かと幸せになっているところなんて――。


「しかし、嫌いじゃないだけで、いまのお兄さんは好きになれません」


「どういう、意味だよ……?」


 データ移行をしにその場を去ろうとした私の足が、奈々ちゃんの言葉で、ピタッと止まった。


 ――どういう意味……?


 いまの私の表情は、きっとお兄ちゃんと同じだ。奈々ちゃんの言葉が理解できない。


「自分は、優ちゃんのために必死にもがくあなたが嫌いでもあり、好きだったんです!」


「はぁ……?」


「優ちゃんの愛に応えるために、気持ちを押し殺して大切な妹に手を出したり……」


「けど、それは裏があるってお前が否定したろ!?」


 そう、奈々ちゃんは、お兄ちゃんと私が愛し合っていることに――"だからこそ、あなたが大切な妹に手を出したことが信じられないんです。お互いにまだ高校生の身であるにもかかわらず、赤児を身ごもるかもしれない行為をして……加えて、お2人は血縁関係にあります。あなたが世間体を気にせず、兄妹で愛し合えるのであれば構いませんけれど、そうでなければ何か裏があるとしか思えません"と否定していたはずなのに、なにを今更……?


「家族のために自身を顧みないあなたが、優ちゃんと重なって――嫌いな気持ちが先行していましたが、どこか好きな気持ちもあって……。そのことを認めたくなくて、あなたを殺そうとしたのかもしれません」


「――」


 絶句するお兄ちゃん。

 それはそうだよね。そんな意味のわからない想いで、お兄ちゃんを殺そうとして、それを庇った私が死んだんだから。お兄ちゃんの納得できる話じゃない。


「自分もこんな歪んだ気持ちを認めたくありません。それでも、そんなあなたが好き――優ちゃんのことを大好きでいるお兄さんが大好きなんです」


「それじゃ、俺の奈々さんへの好きはどうすればいい、どこに行けばいい!」


「……ごめんなさい。お兄さんとお付き合いすることはできません」


「そん、な……奈々さん、奈々さんッ……!」


「だから、優ちゃんを本気で愛してください」


「死んだ優梨を幸せにする……? どうやって……?」


「優ちゃんは死んでいません」


「は?」


 え?


 お兄ちゃんと私の驚きが重なる。


「お兄さんが誰かと付き合うことを、優ちゃんがそう簡単に認めると思いますか?」


「いや、認めるも何も優梨は死んでる。アイツがどうこうできる領域を超えてるだろ!?」


「おじいさまが優ちゃんに対して開発を打診していたという噂をお話しましたよね?」


「所詮は噂で何も知らないって言ってたじゃないか!?」


「身体と精神を分離する研究――それを使えば、もしかしたら」


「優、梨が、生きてる……?」


「お兄さんが、自分の戯言を信じ、優ちゃんをいまでも愛しているのなら強く願ってください! 今度こそ、自分の大好きな友達を幸せにしてあげてくださいっ……!」


 お兄ちゃんの弱々しかった瞳に強い意志が宿る。妹を想う兄の目だ。

 お兄ちゃんは、記憶データに二重三重にもかけていた鍵を壊し、全ての記憶を思い出したのかもしれない。


「――ありがとう、奈々さん。俺、行くよ」


「はい、行ってらっしゃい、お兄さん」


 思い違いをしていた奈々ちゃんの想いに。

 測り違いをしていた奈々ちゃんの学才に。


 さすが私の友達であり、唯一の好敵手、だね。


 暗転。

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