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4.告白

 高級車は、住宅地にある墓地に停車した。


「いつぶりだったか、ここに来るのは」


「お盆に一度訪れていますよ。まだ2週間足らずだというのに、もう忘れたんですか」


「この歳になると忘れっぽくなるんじゃ……」


「自分とそう変わらないのに何を言ってるんでしょうか、この人は。優ちゃんの前でつまらない漫才はしませんからね」


「ノリが悪いなぁ」


 優梨の墓は、墓地入口から少し歩いた先にある。


 多知川本家、分家の墓は、都心の一等地に並んでいる。

 けど、優梨はその墓に入ることを望まないだろう。俺と同じ墓に入ることを願うはずだ。だから、奈々さんにお願いして、新たに墓を建ててもらったのだ。


「ありがとう、奈々さん。優梨のためにこんなにも綺麗な墓を建ててくれて」


「いいえ、優ちゃんのためですから」


 と言葉を残すと、俺の隣から一歩下がった。

 俺と優梨2人きりの時間を作ってくれるようだ。


「優梨……」


 墓に刻まれた"多知川"の文字――。

 俺は、優梨の墓を、頭を撫でるように優しく触れた。


「誕生日おめでとう、優梨」


 静けさの中で、俺の声だけが響く。


「生きていたら、もう18歳になるのか……お前はどんな女の子――女性に成長してるんだろうな。想像でしかお前の姿を見ることができないのが寂しいよ」


「……っ」


「……そうだ、俺と奈々さんでプレゼントを選んだんだ。なあ、奈々さん」


「はい」


「18歳になった優梨にきっと似合うって思うんだけど、どうかな? ……やっぱり寂しいな」


「……っっ」


 唇を強く噛んだ奈々さんの口から、血が伝う。


 優梨の死を嘆いたところで、生き返ることはないし、奈々さんが苦しむだけか――。


 奈々さんの唇から出た血を、ハンカチで拭ってやる。


「お前が、俺のことを絶対好きになるとかって口にしたの覚えてるか?」


「自分はあなたを好きになります。優ちゃんが好きだった相手であれば、きっと好きになります――ですよね」


「そうそれ。俺のことが嫌いって抜かした後にそんなこと言うから、無理だろと思ったんだが。……俺のことを好きになれたのか?」


「急に何です。優ちゃんのお墓の前で聞くことですか?」


「優梨と対話をしていると悲観的な言葉しか出てこないからさ、奈々さんと喋って気分を切り替えようってな」


「自分に気を遣わなくても。そういうことであれば、車に戻ります」


 身を翻し、この場を後にしようとする奈々さん――の手を握る。


「俺は、奈々さんと過ごす毎日がすごく楽しい。だから、奈々さんがどう思ってるのか聞きたくて……」


「自分に冷たくあしらわれたり貶されたりするのが楽しいなんて、マゾですか」


「はぐらかすなよ。俺は真剣に聞いてるんだ」


 掴んだ奈々さんの手に指を絡める。視線は、彼女の揺れる瞳を真っすぐ見据えた。


「それは優ちゃんのお墓の前で話すことですか……?」


「優梨には承認になってもらう。だから、ここ以外にないだろう?」


「優ちゃんを使って、自分の気持ちを無理やり言わせようってことですか? 優ちゃんの前以外であれば……」


 絡めた指を解こうと動く奈々さんの指。

 でも、俺は逃がさなかった――。


「奈々さんは、とても真面目で頑張り屋さんで――俺はそんな奈々さんに惹かれていたんだ」


「――」


「奈々さん、好きだ! 優梨の代わりに仕方なく俺の面倒を見てくれてただけなのかもしれない。けど、そんな毎日が楽しかったんだ、幸せだったんだ!」


「……いいんですか、優ちゃんのお墓の前でそんなこと言って。優ちゃんに聴こえてたら、大変なことになっていましたよ」


「んなこと覚悟の上さ」


「でも――」


「でも……?」


「自分は……自分も、お兄さんのことが――好きです」


 奈々さんは、優梨に申し訳なさそうに言葉を紡いでいく――。

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