1.妹の友達との生活
4月9日 take3 9 の続きになります。
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奈々さんは、とても真面目で頑張り屋さんな女の子だった。
「朝ですよ、優也先輩。おはようございます」
「おはよう……」
「まだ眠そうですね。でも、今日は朝からゼミの集まりがありますので、起きてください」
「わーってるわかってる。なんで夏休みだってーのに大学に行かなくちゃならないんだよ」
「高校生は、もう2学期ですけどね」
「へへ、9月下旬まで夏休みの大学生が羨ましいだろー」
「別に。……早く起きないと、ベッドの下に隠しているいやらしい本を捨てますよ」
「な、なんで知ってんだよー!」
奈々さんが優梨を殺したあの日から、1年と4ヶ月が経とうとしていた。
「今日は暑いとのことですので、半袖のシャツに黒スキニーパンツでいいですよね。はい、バンザイしてください」
「はいよ。……いつもありがとうな」
「下半身を大きくして感謝されても嬉しくありませんね」
「これは生理現象だ! しょうがないだろ!?」
「ダメとは言ってないです。我が家に慣れている証拠ですもんね」
「まあ……」
現在は、美崎邸に住み、着替えや食事などの身の回りの世話から、進学などの金銭面の援助まで。奈々さんは優梨の代わりに、俺に尽くしてくれている。
一応、断りもしたけど、優梨の死を嘆き苦しんだ彼女を思い出すとどうしても断りきれなかった。
「今日はそれなりにサマになっていますね。馬子にも衣装といったところでしょうか」
「いや、お前、手放しで褒め言葉を口にできないのかよ」
「ご学友が優也先輩に魅了されないか心配です」
「その辺は大丈夫じゃないか。どんなに服が良くたって、中身が女と上手く話せない人間じゃあな」
奈々さんの用意した衣服がショボいはずがない。衣服から、財布やバッグといった所持品の全てがブランド品で、万を超えるものばかり。
問題は着ている張本人が部不相応なことくらい。
「自分は、そんな優也先輩でいいと思います。外見は人間性を知る材料ではありますけれど、内面を見ずに外見だけで判断する人間に、優也先輩をお願いすることはできません」
「褒めてるのやら、貶してるのやら。でも、俺の面倒を一生見てくれるって話だったのに、赤の他人にお願いしていいのかよ」
「優ちゃんは、優也先輩が幸せになってくれることを願っているはずですから、優也先輩がそれで幸せになるのなら。……まあ、それは自分の勝手な思い込みで、優ちゃんの1番の願いは、優也先輩と添い遂げるだとは思いますけど」
「優梨の1番願いはもう叶えられないけどさ。俺は奈々さんと一緒にいられるいまが幸せだ」
「え……」
「え、じゃないが」
「……っ……」
硬直したかと思えば、ポッと顔を赤く染める奈々さん。照れたのかそそくさとダイニングルームへ逃げていく。
ちょっと褒めただけであたふたするなんて、可愛いやつだよホント。
あまり褒め慣れてないんだろうな。理事長もこんな優秀な孫に育ったんだから、たくさん褒めてやればいいのに。
そんなことを思いながら、奈々さんを追いかける。
すると、食事中の、奈々さんのお爺さんで、高岡高等学校の理事長も務めている美崎家の現当主――美崎源治に遭遇した。
「奈々よ、全国模試で一位を取ったらしいな」
「はい、おじいさま」
「お荷物を抱え込んできて、どうなることかと危惧したが――」
奈々さんのお爺さんは、俺をひと睨みし、言葉を続ける。
「天才を失った以上、有象無象の頂点に立つのは当然のこと。お荷物を捨てられたくなければ、いまの地位に居座ることだ」
そう言い残し、食事を終えた。
奈々さんは、俺のお世話をしながらも、勉学を怠らずに励み、誰にも誇れる結果を残し続けている。そんな孫を素直に褒めてやればいいのに、そうエンカウントするたびに言ってやりたくなる。
しかし、眼中のない俺が口にしたところで、彼に届くはずがない。
だから――。
「マジか、また全国模試で一位って普通にスゴイだろ! やっぱ奈々さんはスゲェよ、さすが優梨のライバル」
「ちょっと!? 気軽に女性の頭を……!」
頭を撫でられて、驚きながらも手を弾く奈々さん。
「はは、いいじゃん、こういうときくらいたくさん褒められようぜ!」
「そういうところは、優ちゃんそっくりなんですから……」
褒め言葉をたくさん浴びせたあとは、ゆっくりと食事を取る。
「さきほどは、おじいさまが失礼なことを……」
「事実、優梨や奈々さんからしたら俺はお荷物だろ。俺さえいなかったら、勉強に集中できるんだから」
「優也先輩がいたことで、自分も優ちゃんも頑張れているんです。だから、お荷物じゃあありません」
「そう言ってもらえると助かるよ。しっかし、兄妹でここまで扱いが違うんだな、優梨には援助金やら留学の話やらの話があったって聞いてるぞ」
「おじいさまは実力主義者ですから、才を振るい、結果を残し続ける優ちゃんは当然といえます」
「バカな俺は、無視されて当然ですよーだ」
「それにおじいさまは、優ちゃんに対して、何かの開発を打診していたという噂があります」
「お前も無視するなよ、慰めてくれよ」
「面倒だったので」
「つめたっ。にしても、開発って何を作らせようとしたんだ?」
「所詮は噂なので詳しいことまでは」
「そうかい」
優梨のことだから、実際に打診を受けていたとしても心配はしてない。俺の妹だったら、俺のためにならないことは断るだろうし、協力したとしても逆に利用するくらいのことはするはずだから。
優梨が生きていたらの話だけど。
「そーいや、今日の放課後空いてるか?」
「空いてますけど、自分に何か?」
「優梨の墓参りに行こうぜ。今日は優梨の――」
「優ちゃんのお誕生日、ですもんね」
そう、今日は9月6日――優梨の誕生日だ。




