6.告白
高校3年生の1年間は短いもので。今日は卒業式。
思い介せば、優梨が死んで、シルヴィーと半同棲的な生活を送って、小学校の先生を志して……。短くはあったが、これまでにないほど濃密な1年間を送った。
そう考えれば、1時間程度の卒業式があっという間に終わってしまうのも当然のこと。
「さて、勝負はここから」
俺はシルヴィーを屋上に呼び出した。
シルヴィーに伝えたいことがあるからだ。
俺の夢を。インターナショナルスクールの先生になるために、来年こそはフランス留学をするから、先に行って待っていて欲しいと――。
「お話ってなんですか、ユーヤ」
「……」
「ユーヤ……?」
言う、言うんだ!
俺はシルヴィーと一緒に過ごすために、フランス留学を目指すと――。
一緒にいたいと思う理由は、ただ1つ。
「……あのさ、シルヴィー……聞いて欲しいことがあるんだ」
「……んっ」
優梨への気持ちを忘れるための薄っぺらい言葉になるかもしれない。
それでも、優梨のいなくなった世界で、シルヴィーと共に過ごしたことで芽生えたこの気持ちを彼女に伝える。
「俺は、シルヴィーのことが、」
「ユー、ヤ……?」
「優梨が死んで、優梨の代わりになって俺を支えてくれたシルヴィーのことが、」
「ユーヤっ……」
「俺、は……。俺は――!」
「……ユーヤ?」
「――――」
思うように口が動かせなくなる。
これ以上言葉を紡いだら、自分の気持ちに嘘をつくような気がして。自分の中にある、シルヴィーに対するものよりも大きな気持ちに抗うことなんてできるはずがなくて。
「俺は――好きだったんだ……」
「ワタシも、ユーヤのこと……ずっと、ずっとずっと……」
そう、好きだったんだ。
………………。
…………。
……。
「お兄ちゃーん、おはおはおっはよー!!」
「ば、優梨!? 急に人の部屋に入ってくんな。くっ……重い……」
「女の子に重いって言っちゃいけないんだー! お兄ちゃんは、デリカシーがないから、顔の割に彼女いないんだよ」
優梨……。
「お兄ちゃんんんっ……休ませてぇ……」
「休ませてやりたいのはやまやまなんだが、もうヤバいんだ。急がなきゃ、ほんとに、遅刻する……!」
「イチャ、イチャしてた……から……。しょうがないよお……」
「イチャイチャ言うな。兄妹らしく仲良く遊んでただけだろ!?」
「お医者さんごっこを、してたんだっけ……?」
「んなわけ、あるか! はぁ、はぁ……まだ元気が有り余ってるようだな、優梨」
「ぜんぜんっ、うぅ……これっぽっちもっ、なぁいぃ……」
俺がシルヴィーと付き合いなんてしたら……。
「そう、これ! この服とかお前に似合いそうだな。スカートも短くないし、清楚で可憐な優梨にぴったりハマるんじゃないか」
「私も可愛いって思った! じゃあ、週末に買いにいこ? でねでね、この服を着て、お兄ちゃんとデートしたいっ!」
「それなら、俺がこの服をプレゼントしてやるよ。日頃の感謝を口以外でも示したいしな」
「お兄ちゃんのお世話は、私の役目――お兄ちゃんと一緒にいたくて、勝手にやってるだけだから。気にしなくていいんだよ?」
「せっかく申し出てやったんだから、遠慮すんなって。俺は物でしかお前に恩返しできないんだからさ」
「私のほうが、自分のすべてを捧げても返しきれないものをもらってるのに……」
「んなら、お互いに返していこうぜ。俺はプレゼント、優梨は……今日の美味しい夕飯な。その代わりに昼飯はテキトーに済ませてくれていいから」
優梨は――。
俺がシルヴィーに好きなんて伝えたら、優梨を愛しているこの気持ちはどうすればいいんだよ……。
俺が優梨を愛している……?
「だけど、女の子として俺に好意を寄せてくれてるお前にも報いたい。俺は本気で妹を愛してるから。だからさ、優梨」
「うん」
「恋人になろう」
「……うんっ」
「俺たちの世界は2人だけで完結してる。ほかの兄妹とは違う、俺たちなりの、世界にたったひとつだけの兄妹の形を作っていこう」
「うんっ……!」
そうだ――。
俺は優梨を愛していたんだ!
そして、俺を殺した優梨も、俺を助けるために死んだ優梨も、俺と一緒に堕落した優梨も、俺と恋人同士になった優梨も――どのルートの優梨も俺のことを愛していた。
優梨とずっと一緒にいると誓ったはずなのに、俺は優梨の愛情をまた拒むのか?
俺は、俺は――。




