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4.妹のでまかせ シルヴィーside

 いつの間にか日が落ちて、試験勉強も一区切り。


 ワタシも、ユーヤもお腹が空いたから、急いで夕食の準備をする。


 今晩はそーめん。手早く作れて、暑い日にピッタリの料理。


「ユーヤのお世話をしてあげられるのがすごく嬉しい、です……」


 好きな人が手の届く距離にいるのに関われない苦しみに心が折れかけてた数ヶ月前。

 そんな日々が嘘だったみたいに、ユーヤと仲直りできてからの毎日は世界に彩りが加えられたような心地で、幸せな気持ちでいっぱいだった。


 だけど――。


「シルヴィーちゃんの行動にお兄ちゃんに対する愛情が一欠片もないよ。私に対する憎悪が120%ってところかな?」


 ユーリが指摘したワタシの行動原理。


 ユーリが死んで落ち込んだユーヤに手を差し伸べることができなかったのは、ユーリの指摘があったから。


 ユーヤのために尽くすたび、彼女の指摘がワタシの胸で輪唱される。


「愛情が一欠片もない、ユーリに対する憎悪が――」


「120%、だったか? はは、懐かしいな」


「ユーヤ……?」


「晩飯は順調か?」


 冷蔵庫を閉じて、牛乳パックを片手に料理の進捗を覗き見るユーヤ。


「今日はそーめんにしました。手軽な料理でごめん、なさい」


「腹減ってるし、ちゃちゃっと作れるものでいいって」


「ありがとう、ございます……」


「シルヴィーはすぐ礼を言う。俺のために頑張ってくれてるんだから、感謝を口にすべきはこっちだろ」


「ユーヤのため……」


「違うか?」


「それじゃあ、ユーリの言葉はどう、考えますか?」


「ホラを吹いた」


「ホラを、吹いた……?」


「でまかせを言った」


「でまかせを、言った……」


 思いもしなかった考えに、キョトンとしなが言葉の意味を確かめるように復唱する。


「アイツ、シルヴィーのことすげぇ意識してたから、全然そんなこと思ってなかったはずだぞ」


「だから、嘘……?」


「そう、嘘。シルヴィーが俺のこと好きってのは初対面のときから気づいてたんじゃねえか?」


「んっ。ワタシはユーリに出会う前から、ユーヤの優しさに惹かれていました」


「だから、シルヴィーを恋敵と警戒して、小さい頃は一緒に遊んだりして目の届く範囲に置いていたんだろ。もちろん、クラスでの俺の様子や周囲の情報収集ってのもあったんだろうが」


 ユーリがワタシを意識していた。恋敵として警戒していた。


 ワタシのユーヤに対する想いをわかってもらえていたことに少し嬉しくなる。


「でも、どうして嘘を?」


「肉弾戦じゃ、体格的にも、武器の攻撃範囲からしても、敵うはずがないからな。きっとお前を動揺させる一手だったのかもしれない」


「なるほど、そういうこと、だったんですね……」


 鍋がグツグツと沸騰する音が耳に届く。


 あの日からずっと考えさせられた。

 だから意気消沈していたユーヤの側にいてあげることもできなかった。


「まんまと揺さぶられちまったな」


「そう、ですね」


 自分の気持ちを信じることができない腑抜けたワタシは、ユーヤに必要ない――そう言いたかったのかもしれない。


 でも、もう大丈夫、です、ユーリ。

 ワタシは、ユーヤを愛しています、から。


 つっかえが取れたみたいに身が軽くなった。


「ふふ……もう完成なので、リビングで待っててください」


 これからは自信を持って、ユーヤのそばにいられる。

 そして、願わくば――ユーヤがワタシを好きになってくれて……卒業後はワタシと一緒にフランスに行ってくれる。そんな夢物語を想像せずにはいられなかった。

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