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3.帰国子女と勉強会

 シルヴィーと再び仲良くするようになって、1か月が経った。

 夏休みも目と鼻の先の7月になる。


 シルヴィーは、毎朝起こしに来てくれて、登下校して、夜になると俺を寝かしつけて帰宅する。授業中と睡眠中以外はずっと一緒に過ごしている。

 疲れないと寝られなかったのも彼女の添い寝で自然と就寝できるようになった。

 食べ物も彼女が栄養バランスを考えて調理してくれた物だけを摂取している。

 そのおかげか、生活リズムが改善されて、痩せ細っていた身体も元通りになりつつある。


「シルヴィー様々だよな」


「ワタシ、様々……?」


「そりゃ休日も朝から来て家事を全部やってくれるし、今日にいたっては期末が近いからって勉強まで見てくれて……頭が上がらねーよ」


「だって、ノートを写してなかったから心配で……」


「新品同然のノートを見たら、そうなるわな」


 期末試験が来週に迫り、俺のノートを見たシルヴィーは絶句した。それもそのはず、優梨との死別でここ最近まで勉強が手につかなかったのだ。


「進路も全然決まってないん、ですよね……?」


「米倉先生に聞いたのか。……まあ、決まってはいないな」


「進路も優梨が関係して……?」


「死に関わらず、進路のことなんて考えてなかった。優梨を言い訳にできるかよ」


 俺は優梨のために頑張ってきた。優梨が望む通りに生きてきた。

 そんな俺に大それた夢なんてあるはずもなく。彼女の一声で、専業主夫第やヒモ男になっていた可能性すらある。

 だから、俺は進路について考えることを放棄してきたんだ。


「ユーヤの進路、応援してます」


「シルヴィーに応援されたんじゃ、早く決めちゃわないとな。高3が進路未定なんて話にならないし」


「ユーヤのペースで大丈夫、です。やりたいこと、ゆっくり見つけてください」


「やりたいことねぇ。そういうシルヴィーは進路決まってるのか?」


「フランスの大学に進学する予定、です」


「あっちでやりたいことでも?」


「インターナショナルスクールの先生になって、ワタシみたいに異国の生活で困ってる子の力になれたらいいなと」


「優しいシルヴィーらしいな」


「この夢はユーヤからもらったもの、です」


「俺から……?」


「困ってるワタシに手を差し伸べてくれました。ユーヤみたいにワタシもなりたい、です」


「俺みたいにか。礼を言われることのほどでもない。……ないさ」


 いいことも悪いことも――その全てが、俺がシルヴィーの牛乳を飲んでやったことから始まったってか。


「でも、ワタシがフランスに戻ったら、ユーヤと過ごす楽しい時間もおしまい、ですね」


「……」


「あ、そもそもこんな生活は長くは続きませんよね。ユーヤはもう元気になってますし、ワタシは必要ない、ですよね」


「いや。……シルヴィーがいてくれるとすげぇ助かるからさ、お前さえよかったらこれからも頼むよ」


「ワタシはユーリの代わり、ですか?」


「はは、んなわけ――」


「……」


「……そうかもな」


 依存対象を優梨からシルヴィーに乗り換えたことをキッパリ否定できなかった自分に腹が立つ。ただのクズ野郎でしかない。


「そう、ですか」


「見損なったか?」


「いいえ、ワタシはユーヤの側にいられるだけで幸せ、ですから」


「俺もユーリと過ごす毎日が楽しい。だから、こんな生活がずっと続けばいいのになんて思っちまうのは……俺のわがままかもな」


「ワ、ワタシも無理だってわかっていても、ユーヤと同じ風に願わずにはいられない、です」


 終わりはいつか訪れる。

 俺と優梨が今世ではもう会えなくなってしまったように、シルヴィーとも来年にはお別れだ。

 それまでに進路を考える必要があるんだろうけど……。


 ――こんな生活ずっと続けばいい。

 そう願ってしまうのは、わがままなんだろうな。

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