4.帰国子女にお願い
ゴールデンウイーク明けの初日――未来を変えられるターニングポイントの日を迎えた。
「よっす、シルヴィー! おはよう」
「おはよう、ございます、ユーヤ。今日もユーリと一緒に登校したんですね」
「今日もってよりは優梨が高校に入学してから毎日?」
しかし、恋人になって以降はやや面倒になったというか……。学校に行かずに家でイチャイチャしたいとぐずるワガママ妹を引きずりながら登校している。
しかし、学校に着くなり先生の前では表情を引き締め、学友の前では愛想を振り撒く優梨……優等生になりやがって、猫かぶりに抜け目がない。
「ふふ……仲良し、ですね」
「アイツがまだ中学生だったころは、わざわざ中学校に送ってから登校してたくらいだし……。どんだけ甘えん坊なんだよって感じ」
「甘えられるときにいっぱい甘えたほうがいい、です。甘えられなくなってからじゃあ遅い、ですから」
「甘えられなくなってからじゃあ遅い、か」
「小学校のころにもっとユーヤと仲良くなりたかったとずっと後悔してきました。ユーヤとユーリには、そんな後悔して欲しくなくて……」
シルヴィーの言うことは最もだ。
俺も多くの後悔を重ねて、ここまでたどり着いた。ひとえに、俺に間違った未来を選んでもやり直せる資格があるから。
だから、その資格をフル活用して、寿命による死を迎えるまで、たくさん優梨を甘やかしてやれるように今日を乗り切らなければ、
その一手として――。
▶︎シルヴィーに、放課後、優梨と一緒に遊びに行くようにお願いする
▶︎なにもしない
タイミングよく出現した2つの選択肢。
「シルヴィーはさ、今日の放課後、暇だったりしないか? よかったら、優梨を誘って遊びに行ってこいよ」
迷うことはなかった。
選択肢の有無にかかわらず、最初からお願いするつもりでいたからだ。
「……! ユーリと遊びに行きたい、です」
「俺からも口利きしとくから、強引にでも誘ってやってくれ。金のことは心配するな。俺が後で払うから」
「友達と遊ぶのにお金をもらうなんてことできない、です」
「そりゃそうだ。変なこと言って悪かったな」
「いいえ、ユーヤが謝ることなくて……。でも、わかってもらえてよかった、です」
「お前みたいなヤツが優梨の友達になってくれたら、ホントに嬉しいよ」
「ワタシは、もう友達のつもり、です。だから、遊びに誘うことくらいは、ワタシ一人でできます。ユーリはそう思ってくれてないと思いますけど……」
「はは、頼もしいよ。それじゃ、よろしくな」
「あっ、よかったらユーヤも一緒に……」
「俺か?」
「ゴールデンウィークのときみたいに、3人で楽しくお出かけしたい、です」
「突然だったけど、あれは楽しかったよな」
「あのときは2人のデート中に飛び入りして、ごめんなさい」
「いいっていいって。優梨はあーだこーだ言いながらもなんだかんだで楽しんでたみたいだし、俺も優梨とシルヴィーが仲良くしてる姿を数年ぶりに見れたことがすごく嬉しかった」
「遊びに行っていいって許可をくれた店長には感謝、ですね」
「……けど、俺は今日の放課後に予定があってさ。だから、2人で遊んでこい」
「それは残念、です。んっ、優梨を任されました」
これで優梨はシルヴィーと一緒に行動することになり、俺一人で米倉先生――蚕お姉ちゃんと対峙する状況が整う。
シルヴィーを利用したようで心苦しさもあるけれど、優梨とどんなことして遊んだか、仲良くなれたか、そんな楽しい話題で明日は盛り上がろう。
昼休みは、前回と同じ流れ。米倉先生に進路希望調査の件で進路相談室に呼び出されて、進路のことや優梨のことについてのやりとりをした。とくに変わったことはなく、一言一句同じ言葉をスラスラと出てくることに驚いた。
世界の修正力によるものなのだろうと勝手に解釈している。
「あとは放課後……!」
優梨に代わって今度は俺が蚕お姉ちゃんを説得してみせる。




