3.恋人としての初デート? 公園で熱いキス
「ユーリのプレゼントも無事に見つけられて、ユーヤのお誕生日プレゼントもユーリのおかげでアイデアが浮かびました……。よかった」
急な買い物でお金を持ち合わせていなかったシルヴィーは、取り置きしてもらうことで解決した。
「シルヴィーちゃんがいない間に、お兄ちゃんに色目を使う女がたーくさんいてね? 排除するのすっごい大変だったんだよ」
「ワタシたちのクラスにも、ユーヤに気がある女の子がいるみたい、です。ユーリに怯えていて、接触してくることはありませんけど」
「ほんとにー? うーわ、大してお兄ちゃんのこと知りもしないくせに〜……。カッコいい外見はもちろんだけど、お兄ちゃんの最大の魅力は中身にもあるんだからっ」
「クラスメイトのことを悪く言いたくないですけど……同感、です」
「でしょー? ……その魅力を知られないためにみんなから遠ざけてるのに」
「俺、カッコいいか? 中身に魅力なんてあるか……? お前ら以外に言われたことないぞ」
俺の好みについて談笑していた優梨とシルヴィーは意気投合したようで、帰り道は俺の話題で持ちきり。2人が仲良くしてくれるのは嬉しいけど、ほかに話題はないのだろうか。
例えば、巷の女子高生のように恋話したり、好きな男について話したり……。いや、してたわ。
これまで優梨とシルヴィーが犯してきた過ちを思えば、贅沢な悩みか。
そもそもこの2人が仲良くなれたのは、俺という同じ好きな人がいたからだろうし。仲違いしたのも俺が原因だけど。
「あ、もうこんな時間……ワタシは、帰ります」
「え、ホントだ。時間が経つのが早いな」
日が沈み、夜の帳が下りてくる。
時間を忘れて、2人のやりとりを夢中になって聞いていたようだ。
「今日はありがとう、ございました。残りの時間は2人で楽しんでください」
シルヴィーは、ぺこりと頭を下げる。
相変わらず、律儀で、思い遣りのあるいい子だよ。
「気を使ってくれてありがとな。シルヴィーも働き詰めで疲れたろ? 今日くらいはゆっくり休んで、ゴールデンウィーク明けにまた元気な姿を見せてくれ」
「んっ」
「シルヴィーちゃん、お兄ちゃんと一緒にいたかったら、虫除けの役割くらいは果たしてよね? 今日はお兄ちゃんのことたくさん話せて、まあまあ楽しかったよ。たまにだったら、また一緒に遊んでもいいのかなって思った」
「……ぁ。ワタシも、ワタシもすごく楽しかった、です! ぜひ一緒に遊びましょうっ」
まるで仲が良かった頃の優梨とシルヴィーに戻ったみたいで微笑ましかった。
これからは友達、親友と段階を踏んで、俺がいなくても笑える2人になれるのではないかと思える――そんなお出かけになった。
★ ☆ ★ ☆ ★
シルヴィーを見送った俺たちは、ふらりと公園に立ち寄った。
俺が初めて優梨に殺された場所であり、俺と優梨の想いが通じ合い恋人同士になった場所。この公園とは何かと縁がある。
「静かだな。俺たちしかいないんじなないか」
「公園を独占できちゃう〜。なんでもできちゃうね!」
「人目がないから何でもできるってことだろうこど、何してもいいわけじゃないぞ」
「私とお兄ちゃんの2人だけの世界なんだか、ら……? お、お兄ちゃん!?」
「ん……」
「ひゃぁ、ぅ、あぅ……」
優梨の額に唇を落とす。1回、2回、3回と。
「ん、ん、ん、ん」
「あ、う、う、ぅ……」
あわわとする優梨が可愛くて、額から耳、頬、鼻にちょんと軽く触れるだけのキスをお見舞いした。
ディープキスは余裕なくせに、ライトキスにはウブな反応をするってどういうことだよ。いや、俺からのキスだから、こんなになってるのか。
「優梨は可愛いな……ん」
「んんっ……」
「ふぅ……」
最後にぷっくりとした柔らかい唇をついばんで、終わりにした。
「こっ……こ、これがご褒美になるーなんて思わないでよね!」
「はいはい」
威勢はいいが優梨の足元はふらふらしているし、冷静にあしらっているつもりの俺もこれ以上は興奮を抑えきれない。
こんなに高ぶるなんて俺も優梨のことを言えないな。
「日中は家族連れで賑わってたんだろうけど、夜は恋人の営みの時間ってやつだな」
「その言い方はなんか気持ち悪くない……? い、営むほどのことしてないし、私にはお兄ちゃんをその気にさせる魅力がないのかな」
「コイツ、マジで襲ってやろうか」
「でも、家族連れかぁ……。元気に遊ぶ子どもとその様子を温かく見守るお父さんとお母さん……想像できちゃうね?」
大勢の家族連れが和気藹々とゴールデンウィークを過ごす――そんな第三者の視点からでしか見たことのない光景。
「俺たち家族は、そんな理想的な家族からほど遠かったな」
「理想的な家族の真逆だったもんね」
「父さんと母さんは不仲で、親子間も仲良くなかったし。……休日を仲良く過ごせる家族が羨ましいよ」
「無理、だろうね。お父さんとお母さんは政略結婚だったから」
「互いに好きでもない人と結婚しても幸せになれるはずないのに」
「お母さんは悠真伯父さんを愛して、お父さんはお母さんの愛が自分に向いていないことに薄々気づいて手をあげて……」
「俺への虐待もそれが理由なんだよな。もちろん、優梨との頭のデキの差に嫌気が差したってのもあるんだろうけど」
「私もお兄ちゃんに虐待するお父さんとお兄ちゃんを溺愛するお母さんのこと大嫌いだった。この手で殺そうかなって思うくらい……」
「……」
弱風に掻き消されてしまうのではないかと思うくらいの小さな呟き。
ほんの一瞬覗かせたドス黒い笑みを見れば、優梨が本気だったということがわかる。ただ俺との未来を天秤にかけ、自分の手を汚すまでもないと判断した結果のいまなのだと思う。
「はは、どう接しても詰んでんじゃん。それ無干渉じゃないとダメじゃないか?」
「私とお兄ちゃん以外いらないから……そだね、無干渉が正解かな。……でも、お兄ちゃんとの子どもだったら――」
「俺たちは、子どもにたくさんの愛情を注いであげたいよな」
優梨と一緒に未来に想いを馳せる。
子どもは1人、2人だろうか。優梨の言葉を借りるのであれば、元気に遊ぶ子どもたちとその様子を温かく見守る俺と優梨。なんて幸せな家族なんだ。
「私との子ども、作ってくれるんだ……?」
「大好きな人との子どもだったら、そりゃ作るだろ」
「……シルヴィーちゃんと一緒に遊んであげたご褒美をねだろーって思ってたのに。子ども以上のご褒美なんてないや」
俺と優梨が――兄妹になる。恋人同士になる。結婚する。子どもを作る。死ぬ。
きっと奇跡的な出会いと2人を結ぶ運命力がない限りは叶うはずがない未来。
俺たちは、そんな幸せな未来を掴めるように努力している。
だから、不幸な未来なんていらない。バッドエンドに続く選択肢なんて蹴っ飛ばしてやる。
「んふー……えへへっ」
優梨の幸せそうな笑顔を守るために俺は戦う。
「あ、子どもに嫉妬するなよ」
「ねえ、お兄ちゃん! いまの流れで言うことっ!?」
「いや、まあ……ありえそうだなと」
「ふんだっ。お兄ちゃんだって、子どもにかかりっきりで放ったらかしにされても泣かないでね」
「普通に泣く。……頑張って2人だけの時間も確保しような」
「うんっ!」
俺たちの未来はたくさんの幸せが広がっていた。




