表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/72

3.担任の先生と進路相談

 ゴールデンウイークを優梨とデートしたり、家でダラダラしたりと過ごした休日明け。

 俺は担任の――米倉(よねくら) (つむぎ)先生に呼び出され、進路相談室を訪れていた。


「失礼します。3年A組の多知川優也です。米倉先生は……」


「あ、優也くん。せっかくの昼休みを割いてきてくれてありがとうっ」


 俺を迎え入れてくれた彼女こそが、米倉 紬先生である。

 清楚な黒い長髪を小さな白いリボンで結い、生徒と間違えそうになる幼い顔つきが印象的な24歳。逆に身長は成人女性の平均は越えていて、体型も肉付きがよく、豊かなプロポーションをしている。とてもアンバランスな魅力を持つ女性だ。

 とくに大きく育った胸は、ファスナーを閉めているはずのジャージから、いまにもこぼれ落ちそうなほどである。すんごい。


「ま、先生に呼ばれたんじゃ、しょうがないよな。昼休みを一緒に過ごす友達もいないし」


「最近はそんなことないくせに嘘をつかないの。シルヴィーさんと毎日昼食を食べてるんでしょう?」


「教室にいないのになんで知ってるんすか。どこからか覗き見されてる……?」


 未だ優梨の手が及んでいるらしく、俺はあいも変わらずクラスで孤立している。だが、米倉先生の言うように最近はシルヴィーが食事を共にしてくれていた。

 ただ――優梨が彼女に手を出さないか心配だったが、それは杞憂に終わっている。


「し、してないわよ。シルヴィーさんから、どうすれば優也くんと仲良くなれるかって相談されて、それでねそれでね――」


「なあ、先生。それ本人に話しちゃいけないやつ」


「あ、ややや、やっちゃった……。ゆ、優也くん、シルヴィーさんのことは忘れなさいっ……!」


「忘れるなんて無理だろ……いやまあ、忘れる努力はしますけど」


 米倉先生は、お茶目なところもあるけど、快活で、生徒の悩みに寄り添い力になってくれる面倒見の良さから、男女問わず生徒たちに慕われている。

 俺も去年から何かあるごとに相談に乗ってもらっていて、先生の中でも彼女が一番親しみやすいと思っている。


「まあまあ、座ってちょうだい。今日はとても大事な話をしなくちゃいけなくて……」


「大事な話っすか……」


「先週、進路希望調査を提出してもらったじゃない? 優也くんは自分が何を記載したか覚えてるかしら?」


「たしか……第3希望が妹の進路に合わせる、第2希望が専業主夫、第1希望がヒモ男だったっけ……?」


「せーいーかーい! もーあたしがプリントを集めるからってテキトーに書かないのっ」


「進路のことまだ全く考えてなくて……優梨の将来はよく考えるんすけど」


「優也くんは、妹さんのことを気にしてあげられる優しいお兄さんなんだから。でも、自分のこともちゃんと考えなくちゃダメよ?」


「俺の成績だと中小企業か、Fラン大学っすかね」


「優也くんは、そんなに頭悪くないんだから、上を目指してみてもいいんじゃないかしら? もちろん努力しなくちゃいけないけどね」


「そりゃ優梨に勉強を教えてもらってますから。けど、上を目指す、な……」


「大丈夫よ! あたしも勉強を教えてあげるから。そうね、放課後とか、休日とかどうかしら」


「休日に学校行かなくちゃいけないやつじゃないっすか。それに放課後は……」


「妹さんかしら? そういえば、進路希望調査に専業主婦とか、ヒモ男ってあったけど、その相手ってもしかして……?」


「それは……」


「ダメならいいの。ただあたしは、優也くんが心配だから、その……」


「まあ、先生ならいいか。口が軽いのは少し不安ですけど」


 米倉先生は、優梨の行き過ぎた愛情表現についても何度か相談したことがある。そのときには、「兄妹の形はそれぞれあると思うの。だから、兄妹の形も優也くんたちらしくでいいんじゃないかしら」とアドバイスをくれた。

 そんな先生であれば、俺たちの関係に偏見を持つことはないだろうし、力になってくれるのではないだろうか。


「お口チャックするからっ。お、お願い……?」


「先生って色恋沙汰好きっすよね。えっと……先生のお察しの通り、俺……妹と付き合ってます」


「2人は兄妹よね……?」


「優しい先生でも、さすがに受け入れがたいっすよね。……ええ、兄妹です。だから、先生の反応はごもっともだと思います」


「そういうわけではないけれど――」


「それでも俺は妹が好きです。誰がなんて言おうと俺が好きなのは、妹の優梨です。俺がアイツのお兄ちゃん――そして、恋人である以上は譲れません」


「優也くん……」


「……」


「そう……。……あたしは、あなたの味方だから、その気持ちは否定したりしないわ」


「……米倉先生!」


「でも、ほかの人には相談しにくいことでしょうから、困ったことがあったらあたしを頼ってね? これまで通り、ふふっ」


「本当、先生は心強いっすよね。感謝します」


「お礼はいらないわ。生徒たちの力になることが先生の役目なんだから」


 米倉先生の優しさが身に染みる。


 彼女のような大人が小さいころから側にいてくれたら、俺たち兄妹の行く末も変わっていたのかもしれない。


「じゃあ、話が終わったみたいなんで、俺行きますね」


「ええ、またね。いつでも来てくれていいから」


「あざっす。んじゃ」


 急いで進路相談室を後にする。


「あ、優也くんっ! まだ進路のお話が終わってないわっ!」


「考えときます考えときますって。優梨にも一回相談してみますから」


「もう……」


 まだ進路について考えたくもない俺は、米倉先生の停止を振り切り、そそくさと逃げ出したのだった。




 ★ ☆ ★ ☆ ★




「多知川 優梨、やーっと動き出したわね……。あたしは、あなたを絶対許さない。優也くんは、あたしが絶対に守るんだからっ」


 優也を見送り、進路相談室で独りごちる米倉。

 優也に対しては優しい先生の振る舞いしていたはずの米倉だが、優梨には悪意を抱いていて――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ