5.妹との放課後デート
放課後。
校門に着くと、寒そうに手を擦り合わせながら待っている優梨を発見した。
「よっす。待たせたな」
「遅いよー。手がかじかんできちゃったじゃん」
「4月って言ってもまだ寒いもんな。はいよ、これでマシになったろ」
優梨の震えている手に手を重ねる。妹の手はかなり冷たくなっていた。
寒いのなら、室内で待ってればいいものをと呆れたくなるが、俺のために寒さを苦にせず待っていてくれたと考えれば、健気な妹だと惚気たくなる。
「お兄ちゃん……。んふーお兄ちゃんの手あったかいよぉ」
「そういう優梨の手はホントに冷たいな」
「すごく寒かったんだもん」
「はいはい、そりゃ悪うござんした。こうやって暖めてやってるんだから、許してくれよ」
「ううん、お兄ちゃんに触ってもらえるのはすごく嬉しいの。でも、今日のお兄ちゃんは妙に積極的な感じがするから、何か企んでるのかなって」
「し、下心はないからな!? その……い、妹を想って行動してる兄を疑うもんじゃないぞ!」
「なに焦ってるの? 怪しいなぁ……。まあ、お兄ちゃんがほかの女の子に手を出すくらいなら、私に下心を向けてくれたほうがいいけどね」
「なら、手を繋いだままでいいよな」
恥ずかしげもなく、こうして手を繋ぐことができる。
ゲームの世界であれば、手を繋ぐか、繋がないか――そんな些細なことでも選択肢が出現したことだろう。選択肢が出現し、選択次第で死に繋がると知っていれば、迷い悩みもがく。ゲームの世界での俺のように。
でも、現実に選択肢などあるはずがない。だからこそ、人は自分の想いのままに行動に移すことができる。それで幸せになるか、不幸になるかはわからない。
どちらがいいなんてことはない。
ただ俺は、選択肢から分岐した様々なルートを経験した。それによって、優梨に対する愛情が芽生え、その経験を活かして現実世界で恋人として優梨と一緒にいたいと思えるようになった。
いまは自然と手を繋ぎ、お互いの体温を感じている。
どちらもあったからこそ、俺は優梨とイチャイチャすることができているんだと思っている。
「って、なに俺の手を頬に擦り付けてんだ!?」
「ほっぺも冷たかったから、ホッカイロの代わりにお兄ちゃんの手であったまるのはどうかなって」
「どうもこうもないからな!? ほら、いくぞ」
「え、えっ? ぁ……んふーお兄ちゃんったら。私とイチャイチャしたいなら、素直に言ってくれればいいのに」
「うっせぇやぃ」
繋いだ手を解き、指を絡ませた恋人繋ぎに直して、学校を後にする。
恋人繋ぎにすることで、肌と肌が密着し、手の形や大きさ、指のひとつひとつの感触までよくわかる。優梨には、俺が緊張していることまで伝わっていると思う。
「ねえねえ、どこ行くの? 家と反対側のほうに歩いてるけど」
「優梨とイチャイチャしたいから、デートに行くんだろ。ほら、素直に言ったぞ」
「で、デート!? ふーん……。ふ、ふーん。んへ、ぐへへへ……」
「妹相手だからオブラートに包むけど、笑い方が気持ちわる」
「それでオブラートってことは、もっと酷いことを言われてたのかもしれないんだね。うぅ……だって、嬉しかったんだもん」
「そりゃよかった。ま、俺たちは、恋人同士じゃないから、予行演習みたいになっちまうけどな」
「そ、そうだよね。兄妹だもんね……」
「待て待て、ノリノリだったテンションをドン底まで落とすな。こ、恋人同士じゃないからって楽しんじゃいけないってルールはないだろ? 恋人同士じゃないってのも、現時点での話だしな!?」
「ぅん……うんっ! 恋人同士(仮)ってことだねっ」
「おう、いまはその解釈でいいだろ」
「テキトーだなあもう……」
なんてぼやきながらも、愛らしい笑顔を浮かべて俺の手をより強く握りしめてくる優梨。
仮でも、恋人同士でデートというシチュエーションが嬉しいのだろう。俺も好きな女の子とデートできることがとてつもなく嬉しい。
やっぱり俺は、シスコンなんだなって実感できた。
「さ、着いたぞ」
俺は、駅前にある大型ショッピングモール内の女性のファッションブランド店が立ち並ぶエリアに、優梨を連れてきた。
「女性ものの洋服? 随分お洒落な場所を選んだんだね……? お兄ちゃんの趣味から程遠いような気がするんだけど」
「そりゃこんな露出度の高い服とか、フリフリがいっぱいの服とかが、俺の着る服の趣味だったヤバイだろうな。好きな人に着せてみたくはあるが」
「ふーん」
「訝しげに俺を見るんじゃねえ。好きな人ってのは妹であるお前のことだからな」
「ふぇ……そ、そうなんだ、へぇ……」
「だから、優梨、欲しい服を選べ。これはデートだからな、お兄ちゃんが買ってやる」
「え、いいの? この辺のお店けっこう高いよ?」
「たしかに俺が普段から着てるものより桁が多いように見えるけど、ただの錯覚だろ。大丈夫、金のことなら気にするな」
「んー……うん、わかったよ。でも、お兄ちゃんも私に似合いそうな洋服を探してね?」
「あったりめぇよ! 着る趣味はなくても、可愛い服を妹に着せる趣味はあるからな。妹を俺好みコーディネートしてやる」
優梨が奈々さんに殺されたルートで、俺は服をプレゼントして、それを着た優梨とデートする約束をしていた。しかし、優梨の誘惑に負けて一線を超え、堕落した生活を送るうちに約束を反故にしていた。
だから、邪魔者を排除したいま、プレゼントした服を着た優梨とデートはまだできないものの、デートをして服をプレゼントをして、そうしたら――。
「お兄ちゃん、私に似合いそうなのあった?」
「そういうお前はどうなんだ?」
「一応、探してみたけど、自分で選んだ洋服より、お兄ちゃんが選んでくれたものを着てみたいなって」
「なるほど。……なら、これなんていいんじゃないか?」
見繕った服を優梨の身体の前に当ててやる。
俺は優梨のために、ゆったりしつつもヒップラインのカバーがしっかりとしている水色のチェックワンピースに、ミディアム丈のベビーピンクのカーディガンをセレクトした。
優梨の可愛らしさと優しい印象がよく引き立てられると思う。露出も控えられているし、清楚な優梨によく似合っている。
「えへへ、どうかなぁ……?」
「あ、ああ。めちゃくちゃ可愛い……ぞ」
「んふーふふ、ありがと。すごく嬉しいよっ」
「ど、どいたま……」
いまにも身体が触れてしまいそうな近い距離で優梨の笑顔を見せられて、心臓が大きく跳ねる。
可愛い。ドキッとした。
「でも、お兄ちゃんって清楚な洋服が好きだよね」
「……否定はしない。けど、今回の場合、優梨の服を選ばなくちゃいけないわけで、色っぽいのを選んで、ほかの奴の前で着られたら我慢ならないって思って……」
「んふーなるほどねぇ……」
「なににやにやしてんだ。こ、こっち見んな、恥ずかしい」
「んふふふ。お兄ちゃん、本当に私に着てほしい洋服を選んでみてよ。試着室で着てみてあげるから」
「ぇ……どんなのでもいいのか!?」
「どんなのでもっ」
「セクシーなのでもいいってことだよな、あぁマジかー……んん、ごくり」
普段清楚で落ち着いている優梨が、露出度が高くてボディラインの強調された服を着たら――あまりのギャップに萌え死ぬ! 背徳感と濃艶さに悶え死ぬ!
優梨の性的な魅力が前面に押し出された格好を妄想し、興奮のあまり唾を飲み込んでしまう。
「なーんてね、制服のままそういうお店に入ったら、悪目立ちしちゃうし、また今度かな」
「はぁ……? な、なーんだよ、期待させやがって。べ、別にいやらしい店の服は想像してないぞ」
「あはっ、想像してたんだぁ? ……お兄ちゃんのす・け・べ」
と言葉を弾ませながら、唇に人差し指を当てて、ウィンクする優梨。
優梨を女の子として意識してから気がつき始めたが、不意に見せる仕草にも色気があるよな……。狙ってやっているとしたら、マジ小悪魔女子だぜ。だとしても可愛いことには変わらないけど。
「よ、世の中の男はどいつもこいつもスケベなんだよ!? だから、お前も気をつけろッ!」
「はーい」
「とりあえず、そのワンピとカーディンガンは買いでいいな」
「合計で2万くらいなるけど、お兄ちゃんの財布が大丈夫……なら」
「妹を可愛くドレスアップするためなら、金は惜しまん――」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「ぁ……」
制服のポケットやカバンの中を漁っても目的の物が見当たらない。
こりゃやっちまったな……。
「も、もしかしてなんだけど」
「ああ、財布を忘れたみたいだ……」




