1.『ヤンデレヒロインに立ち向かえ』のコーナー
「おかえりなさい。ぱっこりん」
「なにパコってんだよ。そこは頭を下げろよY2」
優梨historyが文字化けし、ウィンドウが強制的に閉じられる。すると、黒く塗りつぶされた立ち絵と三途の川が映し出されたウィンドウに俺は降り立った。
「あれを観た後で冷静ですね。もしかして、信じていない感じですか。あらあらまあまあ」
「んや、多少は予想できてたから、冷静でいられるし、信じることもできる。ただ父さんが俺の本当の親じゃないってことには驚いたが、育ててもらったし親であることには間違えない」
「つまんないです。がっくし。動揺するあなたの不細工顔を期待していました。がっくん」
「そりゃ最初は、当時小1だった優梨がこんなことできるはずないなって気持ちで見てたさ。だけど、俺の妹は天才だ。生まれもった才知を損なわず、いまなお成長し続ける神童なんだ。そんな相手に凡人の尺度で決めつけるのは失礼な話だろ」
優梨は、小学1年生の段階で当時の俺どころか、いまの俺をも軽く凌駕する頭を持っていた。俺に対するお母さんの可愛がりやお父さんの仕打ちに怒りを募らせ、実行に移したと考えれば、そうありえない話ではない。
俺の実父――佐奈田 悠真さんも協力していたようだし。作戦を提示し、彼を利用して多知川佐奈田両家を落とすのも、さすが俺の妹だと褒めてやりたい。
「妹に対する理解が深いんですね。ずっこんばっこんさすがお兄さんです」
「あれくらい俺からしたらイタズラの範囲内だ。俺のためを想ってしてくれたと考えたら、可愛いもんじゃないか」
「他人を利用して、周囲を不幸にしたなのに可愛いで片付けてしまいますか。むむむむ。あなたの妹は人を命を殺しているというのに贖罪の意識がないんですね、兄のほうも意外とサイコパス。ぞくりぞくり」
「気づいたんだけどさ、俺シスコンみたいなんだわ」
「あ、いまさら。おそおそ」
「そう、いまさら。性的接触したときも妹に触れられるのが気持ちいいなもっと触って欲しい、なんて思っちまうくらいやべぇ人間だから、正論言われたところで変わらない」
「種違いだからという理由で他の兄妹に比べれば血の繋がりが薄いかもしれないと思っていましたけれど、あなたたちの思想言動を見るにそんなことはないんですね。うむうむ」
「優梨はブラコンだからな。俺のことになったら、正論は通じない。ほら、兄妹」
「しかし、あなたは妹を大切にしている。ということは、妹との性的接触は、妹の今後のことを考えれば、大切にするという言葉から程遠い行為ではありませんか。むむむ」
「俺の愛を捧げることで、優梨を大切にする。そのほうがただ大切にされるよりはアイツも嬉しいだろ」
「どんなに大切にしても、世間はあなたたち兄妹の関係を認めることはありません。厳しい目をあなたたちに向けることでしょう。それに立ち向かう覚悟はありますか。むむむ」
「世間から奇異の目で向けられることは、優梨がよくわかってるはずさ。でなきゃ、親や友達を殺してまで、俺を独り占めしようとしないだろ」
「あなたはどうなんです。人が死んだ程度で取り乱すあなたが、事実を噂されるのは仕方ないにしても、心ない誹謗中傷に耐えきれますか。じー」
「よゆーだ。俺には優梨いて、優梨には俺がいるんだからな。世間が気にならなくなるくらい愛し合えばいい。誹謗中傷が耳に入らないくらいイチャイチャラブラブすりゃいいんだ」
「精神論です。何の解決になってないと思います。ばっさり」
「それでも周囲が俺たちの幸せを邪魔するようなら、優梨のしてきた悪業を俺もする、
そんで俺たちに関わると不幸になるってことを世間に思い知らせてやる」
「周囲を拒絶するんですか。あなたは手に入れた数少ない繋がりを断つんですか。ぶっつんぷっつん」
「数少ないは余計だ。シルヴィーと奈々さんのことならま――俺たちの害になるであろうシルヴィーは排除、奈々さんは都合よく利用させてもらおうかね」
「最低な人間ですね。ふんがらどっこい」
「俺の世界は、優梨がいるだけで完結してるからな。世界の外の住人が俺たちに害を成すなら、それくらいはやってやる覚悟があるぞ」
「……人というのは変われば、変わるものなんですね。ウキウキ」
「見直したか?」
「一般人という括りでは軽蔑してます。けれど、妹を1人の女の子として愛すお兄ちゃんとしては、満点です。パチパチパチパチ。なので――パチンっとな」
親指と中指を擦ったような音が響いた。すると、足元がぐらつき、ウィンドウが崩れていく。
「お、お……?あ、なんじゃ、こりゃ!?またおかしなことになってるぞ、Y2!」
慌てふためく俺に、Y2は冷静に抑揚のない言葉で告げる――。
「さあ、これからあなたがプレイするゲームは、現実という名の失敗が許されない何もかもが一度きりの世界。自分の選択には責任を持ち、大切なものを失う覚悟が必要になります。それでも、4月9日を越えるための努力と愛が、あなたにはあります。頑張ってください」
「……おう、ありがとなY2」
これから優梨と幸せな人生を送る俺は、金輪際Y2と会うことはないだろう。だから、こんなウザったい奴に述べる感謝はこれで最後だ。
「給料日は4月10日なので、振り込みを忘れないでくださいね。てへぺろ」
「うっせえ、誰が払うか。じゃあーな」
と吐き捨てると、ついに足場が崩れ去り、俺は下へ下へと落下していく。
その一瞬で、黒塗りの立ち絵に隠れる、白衣を纏った女の子の姿を見た。天使のような愛らしさと堕天使のような美しさを兼ね備えた女の子でーー。
「さてと、私もやらなくちゃ」
鈴のような甘い声を響かせる。
彼女の声を耳にするだけで落ち着いて、勇気も湧いて出てくる。
この美少女がY2の正体なのか? どう見ても俺の■――その考察に行き届いた頃には、意識が途絶えていた。
暗転。




