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優梨History

 2002年9月6日2時13分。私――多知川(たちかわ) 優梨(ゆうり)が産まれた。


 病室では、お父さんお母さんをはじめ多知川家の血縁関係者が、「これで多知川家も安泰ですな」、「多知川の長男家の血を継いだ子です。さぞ優秀な人間に育つことでしょう」と表面上は私の誕生を喜び、心の中では私の誕生を憂えていた。多知川の長女家には後継候補が娘1人しかいないため、後継候補が2人になった多知川の長男家が有利になると。

 しかし、大人の不快な雑音が気にならなくなるくらい、私は満面の笑顔を浮かべる1人の男の子に釘付けになっていた。


「かわいい……」


 男の子は、私を見つめてぽそりと呟く。彼は私に見惚れている様子だった。


 可愛いと褒められて嬉しかった。見つめらているだけで、心がぎゅっと締め付けられてドキドキした。

 私は、彼をひと目見た瞬間に恋に落ちていたのだ。


「あっ、はじめまちて、ゆーり。ぼくはゆーや、ゆーやおにーちゃんだよっ」


 だからきっと生まれながらにして、私はお兄ちゃん――多知川(たちかわ) 優也(ゆうや)を愛する定めにあった。


 それから両親が仕事で忙しい代わりに、お兄ちゃんが私とたくさん遊んだりして面倒を見てくれた。すごく幸せな時間だった。


 けれど、私が小学校に入学してから、お兄ちゃんに対するお母さん――多知川(たちかわ) 悠花(ゆうか)の対応に違和感を覚え始める。


「優也? 私の可愛い優也? 今日は仕事で迎えに行くのが遅くなりそうなの。だから、あなたの愛をお母さんにちょうだい」


「おかーさん、おしごと、がんばって。ちゅっ」


「ええ、もちろんよ。お母さんにしばらく会えなくて寂しいかもしれないけれど、我慢できるかしら?」


「うんっ」


 お兄ちゃんとお母さんは、寂しい気持ちを慰めるように抱き合う。

 親バカとも取れる2人のやりとりだけれど、私は知っている。お母さんは、お兄ちゃんを溺愛していることを――。


 私は不快だった。許せなかった。親というだけで、過剰なスキンシップをして、私とお兄ちゃんの関わる時間を奪っていくこの女のことが。

 だから、私は独り占めするお母さんを理由にお兄ちゃんにキスをせがんだ。2人きりのときにめっちゃくちゃちゅっちゅして、どうにか怒りを鎮めていた。それどころかお兄ちゃんの唇に癒されていたのは秘密だ。


 そして、もう1人、お母さんがお兄ちゃんを溺愛することを許せない者がいた。


「早くしないか、悠花。先方を待たせているんだぞ。小学2年生の息子相手に甘やかしすぎなんじゃないか」


「あ、はいはい。いま行きますわ、謙之介さん」


 私たちのお父さん――多知川(たちかわ) 謙之助(けんのすけ)だ。

 彼は最近、お兄ちゃんに対する当たりがキツい。酷い時には、暴力を振るうこともあるほどだ。

 それは、小学1年生でありながら義務教育レベルの問題を難なく解いてしまうくらい優秀すぎる私と比べて、お兄ちゃんの成績が平凡であることが理由として挙げられるかもしれない。でも、それ以上にお母さんがお兄ちゃんを甘やかすことにかなりイラついているように見えた。


 しかし、私は偶然にも本当の理由を知ってしまうことになる。

 それはシルヴィーちゃんが転校してすぐのこと。ある夜トイレに行きたくなって、1人で両親の寝室の前を通ると、お父さんの怒鳴る声が聞こえる。

 だから、気になって、聞き耳を立てた。


「小学校入りたての優梨が、小学2年生になった優也相手に学力面や運動面で圧倒的な差をつけていることに不信感を抱いて調べてみれば、これはどういうことだ!」


「え、嘘……なんで……!?」


 お母さんの動揺する声。そんな反応を意に介さず、お父さんは続ける。


「お前が優也を身ごもった時期、俺は本家に戻って家に帰ることはなかった。なあ、これは明らかにおかしいよな、悠花」


「は、はい、おかしいです、わね」


「だが、俺の血が流れていないとわかれば、納得がいく。反論するつもりはあるか」


「診断結果を見せつけられては、言い訳のしようもありません。申し訳ございま――」


「誰の子だ! 誰の子だと聞いているッ!」


 お父さんの怒鳴る声と、何か床に叩きつけられる音がする。たぶんお母さんだ。


「っ、ぁ……兄さん、私の実兄の佐奈田(さなだ) 悠真(ゆうま)ですわ……」


「お前――ふざけるな、ふざけるな! 糞、これだから女はッ!」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


「はぁ、はぁ……顔がどことなくあのゴミに似ていると思ったら……なるほどな、だから俺は視界に優也を入れただけで苛立ってしまうのか」


 真実を耳にして怒鳴り散らすお父さんはおいといて、お母さんが必死に絞り出した名前には、全く聞き覚えがなかった。

 だからこそ、佐奈田 悠真という人物に興味がそそられた。もしかしたら、お兄ちゃんと私の幸せを邪魔する人間を排除できるかもしれないから。


 そんなできごとあっての次の日の放課後。偶然にも佐奈田 悠真その人と対面することになる。


「君が多知川 優梨ちゃんだね。はじめまして、君のお母さん――悠花の兄、佐奈田 悠真です。あ、誘拐とかそういうのじゃないよ、その悠花や多知川家の様子が知りたくて」


「さなだ、ゆうま……」


 お母さんの旧姓を名乗るやや小汚い細身の男性。

 見知らぬ男性が話しかけてきたのだから、大きな声で叫んで大人に助けを求めるのが本来であれば正しい。ただお母さんの実兄であると自称し、顔の形状や優しい雰囲気がどことなくお兄ちゃんに似ている彼を無下にすることもできなかった。


 私と悠真伯父さんは、ファミレスでお話をすることにした。

 場所を提案したのは私で、ファミレスであれば人の視線もあり、危険な目にあうことはないと踏んだからだ。ここまでとくに不審な行動は見られなかったし、問題ないと思う。


「悠花は元気かな? 謙之介さんとは仲良くしてるかい?」


「ううん。昨日、ケンカしてたよ! お兄ちゃんは、俺の子じゃないーって」


「優也が俺との息子だって気づかれた!? あ――」


「あのお話ほんとだったんだーびっくり」


「そう、優也は、君のお兄ちゃんじゃないんだ。いや、お母さんは同じだから、一応血の繋がった兄妹ではあるのかな?」


「どうして悠真伯父さんは、みんなが集まるときにいないの? 私ね、悠真伯父さんのこと昨日初めて知ったよ」


「それはまぁ……実妹と愛し合って、婚約者ができたと知りながら、子を孕ませたから。それを周囲が許すはずもなくてね、多知川家からは追放、佐奈田家からは絶縁されたんだよ」


 お母さんは、お兄ちゃんが悠真伯父さんに似てきたから、その姿を重ねて溺愛していたんだ。


「じゃあ、多知川と佐奈田のおじいちゃんおばあちゃん、ほかのみーんなことが嫌い? お父さん、お母さんも? 私とお兄ちゃんは?」


「嫌いというか、恨んでる。俺と悠花の関係を認めなかった佐奈田家も、俺から悠花を奪った多知川家も。そして、謙之介さんは当然のこと、俺を裏切って幸せな人生を歩んでる悠花はーー。あ、君たち兄妹は、自分の息子娘のように可愛いと思ってるから、嫌な感情は抱いてない。安心してほしい」


「復讐したいってこと?」


「物騒な言葉を知ってるね。……そうなるのかな」


「私ね、お兄ちゃんをいじめるお父さんと、お兄ちゃんを独り占めするお母さんが嫌い。だから、復讐、しよ?」


 そうして、悠真伯父さんを焚きつけた。

 でも、悠真伯父さんはどこか信用できないような態度を見せていた。私がまだ子どもで、その場の雰囲気で口にしたと思われたのかもしれない。


 だから、まずは私が行動で示すことにした。

 私はわざとお兄ちゃんと一緒に道路に飛び出し、お父さんとお母さんに庇わせ、事故に見せかけて殺した。お母さんはお兄ちゃんを溺愛して、お父さんは私の才能を愛していたから庇ってくれる確信はあった。問題は、私とお兄ちゃんが事故に巻き込まれないかくらいだったけれど、私たち兄妹は無傷だったため大成功だったといっていい。


 私が本気であると理解した悠真伯父さんのほうは、お父さんとお母さんの葬式に出席する多知川佐奈田両家が泊まるホテルを襲い、1人残らず殺してくれた。

 当然、悠真伯父さんは捕まり、多知川佐奈田家の唯一の生き残りがお兄ちゃんと私だけになったいま両家の資産は私たち兄妹のもの。


 これで私たち兄妹は、誰に邪魔されることなく、暮らしていける――はずだったのに。

 私はどこで間違えたんだろう。私はどうすればよかったんだろう。私は――わた縺励�――縺雁�縺。繧�s繧呈ョコ縺励◆縲ゅ〒繧ゅ√♀蜈�■繧�s縺ョ縺薙→縺吶#縺丞、ァ螂ス縺阪□縺九i縲√♀蜈�■繧�s縺ィ豺サ縺�≠縺偵k縺溘a縺ォ菴募コヲ縺ァ繧らケー繧願ソ斐☆繧医ゅご繝シ繝縺ョ荳也阜繧ゅら樟螳溘�荳也阜繧ゅゅ♀蜈�■繧�s縺檎ァ√□縺代r諢帙@縺ヲ縺上l繧九h縺�↓縺ェ繧九∪縺ァ鬆大シオ繧九°繧峨


 暗転。

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