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7.女子高生と勉強会

「やっほーこんにちはぁい!」


 優梨と愛し合って過ごしたゴールデンウィークが明け。優梨の友達――美崎 奈々さんがまた家を訪れた。

 訪れたといっても、俺ではなく優梨のお客さんだが。


「こんにちは、奈々ちゃん! さあさあ、上がって上がって。あ、お兄ちゃんも教科書持ってきなよ、私と奈々ちゃんが勉強を教えてあげるから」


「優也先輩さえよかったら、自分頑張って教えますよ! かもんかもん」


「年下に勉強を教えてもらうとか、恥ずかしすぎる! 絶対やんねえ、遠慮させてもらう」


「可愛い妹に家のことすべて任せてることは、恥ずかしくないんだー?」


「あぐ……正論はやめろや……」


 どうやら奈々さんが、学校を休んでいた分の授業範囲の内容を教えてくれているみたいだ。

 優梨の話によれば、奈々さんは俺たち多知川兄妹が通う高岡高等学校の理事長の孫らしい。しかも、雰囲気が明るくギャルっぽい話し方をする女の子という見た目に反して、学校一の模範生らしく定期試験では優梨と学年1位を争っているとか。

 まあ、俺の妹は一度も1位を明け渡したことがないんですけれども。さすが俺の可愛い妹だぜ!


「多知川 優梨さん、美崎 奈々さん、馬鹿な兄かつ先輩である俺に勉強を教えてください。よ、よろしくお願いしゃす……!」


「んもー最初からそう言えばいいのに!」


「まっかされましたー! 人に教えるのも、自分の勉強になりますから、そんなに気負わなくても大丈夫ですからね」


「ありがとう。ただ優梨優先で頼むな、奈々さん。俺はどう足掻いても馬鹿なのは変わらないからさ」


「ううん、私は毎日予習してるから大丈夫っ。奈々ちゃんが持ってきてくれた課題ももう終わらせたし」


「はや。はやくないか!? 俺が菓子と飲みもんを準備して、少し話してる間に!? やっぱ俺の妹すげぇわ……」


 優梨の傍に置かれていた山のように積み重なったプリントが、テーブルから片付けられていたのはそういうことだったのか。


「感心してる場合じゃないって。ほーら、がんばろ?」


「優梨がプリントを終わらせちまったんじゃ、ほとんど俺の勉強会みたいにならないか? 2人はいいのかよ、女子高生水入らずのほうが良くないか」


「私はいいのっ。お兄ちゃんといられるほうが幸せだから」


「優梨はそうだろうな。知ってた」


「自分は、優ちゃんがいいなら全然。それに人が多いほうがパリピできて楽しいはずです!」


「それならいいんだが。……奈々さんって急に意味もなく、ギャル語っていうか、若者言葉を無理矢理使うよな。テンションも無理にあげてるような感じがするし」


「え……!? な、何言ってるのか意味不です。お、おこぷんですよー!」


「それそれ。優梨の次に頭がいいってことだし、絶対そんなキャラじゃないよな」


「っ……」


「うるさいよ、お兄ちゃん!」


「へんがらへぷし?!」


 優梨から軽いビンタが飛んでくる。

 本当に軽いビンタだったので、俺は大袈裟に痛がってみせた。兄として、妹を喜ばれるエンターテイメント性は大事である。


「優也先輩!? わざと吹っ飛んでましたけど、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫大丈夫」


「勉強したくないから、変な言いがかりをつけないの。奈々ちゃんが困ってるじゃん」


「勉強をしたくないのは、その通りなんで言い返せない……。でも、実際に話してたら、そう思っちまうだろ」


「んー……まぁ……」


「優ちゃんまでありえんてぃーです!? はぁ……OPPになってきました……」


「な?」


「うん、お兄ちゃんの言う通りだね」


 そんなこんなで本来は優梨のための勉強会だったはずが、俺のための勉強会がスタートした。


 しかし、凡人と天才とでは問題の解き方、考えた方一つで違ってくる。

 学年でも成績は中の下くらいで全く理解できなくもないのだが、凡人の俺が普通に問題を解くと、「無駄に字を書き連ねる必要はないですよ。手が疲れちゃいますから」、「くどいよ、お兄ちゃん」などの指摘を受けた。しかも、2人の説明は、その無駄とくどさを省いたもので、凡人の俺にはわかるはずもなく……。


「んな説明でわかるかー! あーもう無理!トイレに行ってくるわ」


「逃げないでよ、お兄ちゃんっ。まだ始まって30分も経ってないのに。そんなんじゃあ、就職できないよ」


「お前の就職のハードル高くないか!?」


「じ、自分の説明が下手でしたか!? ごめんなさい! 頑張りますから、優也先輩も頑張ってくださいっ!」


「いや、俺が悪いだ、奈々さん。俺が馬鹿だったばっかりに……」


 2人をテキトーに言いくるめて、トイレに逃げ込んだのだった。




 ★ ☆ ★ ☆ ★




 優也が去った後のリビングでは、女子高生水入らず内緒話が始まっていた――。


「多知川 優也さん、行ってしまいましたね」


「お兄ちゃん、地頭は悪くないんだけど、勉強が嫌いすぎてね……。だから、はじめから勉強を捨てて、私と学校に秘密でバイトして、私のために稼いでくれてたの。妹想いのお兄ちゃん素敵っ!」


「バイト先には、多知川 優也さんに色目を使う人間がいる可能性がありますよね? それなのにアルバイトをよく黙認されましたね」


「お兄ちゃんが私のためにやってくれてることだから、辞めさせるなんてできないよ。でも、バイト先にいる女は、問題を起こさせて消していったけどね」


「なるほど、そういうことであれば、納得です」


「あ、消したって言っても、殺してないからね! そこは誤解しないよーに。酷いやつでも、一生外に出られない顔にしたことくらいだし」


「度を過ぎてますね。さすがというか、なんというか……」


 奈々は、優梨の優也に対する想いやその言動を耳にたこができるほど聞かされていて、優也に愛を尽くすことが優梨の生きがいであることは理解している。ただ行き過ぎたやりくちは、未だに受け入れがたいものがあった。

 それでも奈々自身が優梨のために様々なことに手を貸していることを振り返れば、優梨の行いを否定することはできなかった。


「シルヴィーちゃんの様子はどう?」


「優ちゃん及び多知川 優也さんを探るような動向は見受けられませんでした。いたって普通の学校生活を送っています」


「もう諦めてくれたのかな? ……お兄ちゃんを追ってフランスから転校してきちゃうのを見るとそれはなさそうだけど」


「しかし、学校内で人気が出てきたのかファンクラブなるものが結成され、着実に地位を築いています」


「シルヴィーちゃんは、顔と身体は魅力的だからね。落ち着いてて、優しいし、男がすっごく好きそうな女だよ。でも、シルヴィーちゃんが人の兄を奪おうとする女ってことは絶対に知らないよね。顔と身体でしか人を好きになれない可哀想な男たちだよね、ほんと」


「ま、優ちゃんのファンの人数に較べれば、天と地ほどの差がありますけれど」


「他者からの好意に興味ないよ。私が欲しいのは、お兄ちゃんからの愛情だけ。そうそう、奈々ちゃんにお願いしたいことがあったんだ。私が直接聞いても、本音で答えてくれるかわからないから」


「はい、なんでしょうか」


「お兄ちゃんに私のことをどう思ってるか聞いてくれないかな……?」


「ど、どう……というのは?」


「私とお兄ちゃんは、兄妹なのにその……い、一線を越えちゃったの」


「……身体接触を行った、と」


「すごい遠回しな言い方をするとそんな感じかな」


「ごめんなさい。あまりにも直接的な言い方は恥ずかしかったものですから」


「いいよ、それが普通の反応だと思うから。……えっと、私はお兄ちゃんが大大大好きで、お兄ちゃんも愛してるって包み隠さず伝えてくれる。だけど――」


「もしかしたら、優ちゃんに対する愛情が建前という可能性があると? しかし、あのものすごく優しいお兄さんが、優ちゃんに嘘をつくなんて」


「優しいからこそだよ。兄を1人の男性として愛してしまった私を傷つけたくないと思って、ついた嘘かもしれない」


「妹の優ちゃんがそうおっしゃるのであれば、その可能性も捨て切れませんね。優ちゃんをどう思っているのか、1人の女性として愛しているのかを質問すれば良いんですよね?」


「そーゆことになるのかな。じゃあ、私は買い物に出かけてくるから。はぁ……学校を休んだ日から外に出てないから、家に食べ物とか日用品が全然なくて、いーっぱい買ってこなくちゃ!」


「1人で大丈夫ですか?」


「問題なしっ。だから、奈々ちゃんはいまお願いした件をよろしくね」


 そして、優也がトイレから戻ってきたのは、優梨が出かけてから5分後のことだった。

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