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6.妹の友達が遊びにきた

 ゴールデンウィーク直前の4月末。

 俺と優梨は、外出するつもりなどないにもかかわらず、夕方のニュース番組のゴールデンウィーク特集を意味もなく見ていた。


「北海道とか旅行してみたいね。北海道はゴールデンウィーク中に桜の見頃を迎えるみたいだし、花見するのもいいかも」


「北海道に行って花見って……。北海道には、ほかにも観光スポットがあるだろ?」


「例えば、どこ? 頭の悪い妹に教えて、お兄ちゃんっ」


「あーと……少年よ大志を抱け、みたいなことを言ったおっさんの像があるとことか……?」


「クラーク像のあるさっぽろ羊ヶ丘展望台ことかな? あの辺は景色が綺麗って聞くし、観てみたいね。まあ、でも、お兄ちゃんと2人きりで過ごしせるならどこでもいいから、旅行なんて必要ないけど」


「いままでのくだりは、なんなんだよ!?」


 なんて他人が見れば面白くもない漫才を繰り広げていると、珍しく、ピン……ポーンと間延びした呼び鈴が家中に響いた。


「はぁ……誰だよ。近所付き合いなんて、いままでしたことなかったし、もしや宗教勧誘あるいは訪問販売か何かか!?」


「違う違う。私の友達だよ。自主休校のことで担任の先生から伝言があるから家にくるって連絡があったの」


「あ、お前の客か、驚かせやがって。家にあげるんだろ? 飲み物と菓子を準備して、俺は自分の部屋に退散するからな」


「そんなに気を使わなくていいのに……でもらありがとう、お兄ちゃん。あ、奈々ちゃん、ちょっと待ってて、いま行くー!」


 優梨はソファから立ち上がり、急いで玄関に行く。


「ってちょっと待て、優梨!」


「え、なになに」


「その、寝間着で友達と会ってもいいのか?」


「何で寝間着って言うかなー。寝間着だと全然可愛さが感じらない! これはルームワンピースだって、いつも説明してるじゃん」


「いや、ルームワンピースだかなんだか知らないけど、恥ずかしくないのか?」


「奈々ちゃんは、すっごく仲良しな友達だから、気にしない。モーマンタイだよ」


 と言葉を残し、今度こそ優梨は友達の出迎えのために玄関に向かった。


 にしても、奈々、か。

 奈々という名前に聞き覚えがあった。優梨の友達ということで、名前を聞いたことがあっても、何ら不思議なことではない。

 しかし、重要な見落としがあるような感覚がして、心臓がゾワゾワする。


「あーあー考えるのやめやめ。もう大丈夫。この√は俺と優梨が一緒にいられる√なんだ。何も心配する必要はない……はず。よし」


 コップを2個と優梨の大好物のりんごジュース、お菓子類をテーブルに置いて、自室に戻ろうとする。

 そこで優梨とその友達に鉢合わせた。


「この人が優ちゃんのお兄さんですか……?」


「うん、そうだよん。んふーカッコイイでしょー?」


「カッコイイと思ってくれてるのは、優梨くらいだと思うぞ……? ハードルが高過ぎてもあれだし、フツメンくらいに下げておいてくれ」


「優ちゃん自慢のカッコイイお兄さん……」


 俺の顔をじっと見つめる優梨の友達は――背が低く優梨と同じかやや小さいくらいの、可愛い女の子だった。

 だが、見た目はかなり派手で、ウェーブのかかったミディアムヘアに、慎ましかやな体型に合わないだぼだぼなセーラー服を着崩し、胸元からリボンモチーフのネックレスが見え隠れしている。

 肌の露出が多くて、め、目線に困る……。


「お兄ちゃんもグッドタイミング! 私の大好きなお兄ちゃんだから、奈々ちゃんに紹介したかったの。はい、お兄ちゃん自己紹介っ!」


「前振りが急だし、雑じゃね!? え、ぁ……はじめまして、俺は優梨の兄の多知川 優也っています」


「優ちゃんと同じクラスの美崎(みさき) 奈々(なな)です。よろしくお願いします」


 お互いに自己紹介をした俺と美崎さん。けど、優梨は納得がいってないような表情を浮かべていた。


「2人とも堅い、堅すぎるー! なんで2人とも敬語なの!?」


「優梨以外の女の子と話す機会がなかったから、緊張しちまったんだよ。敬語のほうが無難だろ?」


「だって、優ちゃんのお兄さんだから、失礼のないようにと思って」


「普段通りでいいの。とくに奈々ちゃん、お兄ちゃんは先輩後輩上下関係を気にしない人だから、軽い感じで大丈夫だよ。ほらほら、話した通りに」


「は、はい……」


 美崎さんは声が少し震えていて、未だ緊張あるいは恥ずかしさが抜けない様子だった。


「そもそも後輩なんていたことないからな。美崎さん、俺にかしこまる必要は全くないぞ。先輩って呼ばれてみたくはあるけど……」


「……後輩萌えなんですね。わっかりましたー。よろでーすっ、優也先輩。あと自分のことは苗字ではなく、できれば奈々って気軽に名前で呼んでくれると、う、うれぴーまんです」


「う、うれぴーまん……。えと、名前……?」


「そう、名前です。苗字で呼ばれるのは好きじゃないんですよー自分。だから、優也先輩さえよかったら、名前で……」


 名前で呼んでいいのかジェスチャーで優梨に確認をとる。ニコニコ笑顔で、うんうんと何度も頷いていた。


「……お、おう、奈々さん」


「あざます、優也先輩っ」


「いやいや、こっちこそいつも優梨が世話になってるみたいで、ありがとな。これからも仲良くしてやってくれ」


「世話になってるのは、自分のほうですから。自分は、優ちゃんが求めてくれるなら、それに応えるだけです」


「すぐそういうことを言う。私も奈々ちゃんに手伝ってもらってるんだからね、そんな距離を置くようなこと態度をとらないで欲しいかな」


「ごめんなさい。えっと……ゆ、ゆるしてニャンっ」


「わかってくれたら、いいのいいの。んふー可愛いなぁ、奈々ちゃんは」


 猫のポーズをする奈々さんの頭を優しく撫でる優梨。仲良しであることが、2人の様子からひしひしと感じれられる。

 兄としては、奈々さんのような友達がいてくれるのは助かる。


 ただやはり奈々さんからは――優梨と奈々さんの関係からは、違和感を感じざるをえなかった。


「んじゃ、俺は自分の部屋に戻るから、遠慮せずゆっくりしていってくれ」


「ありがとね、お兄ちゃん」


「あっざますー!」




 ★ ☆ ★ ☆ ★




 優也が自室に行ったことを確認し、優梨と奈々はリビングで内緒話を始める――。


「優ちゃんが不在の間に帰国子女が編入しました。名前は、シルヴィー・フォッセ」


 さきほどまでの明るいノリとは違う、丁寧な対応をする奈々。優梨相手にも距離感を感じる口調だ。

 けど、この対応こそ素の奈々であり、優梨以外の人間にはいま以上に周囲を寄せ付けないあらたまった口調でトゲトゲしい態度をとっている。


「シルヴィー……ちゃん……。懐かしい名前だなぁ……」


「シルヴィー・フォッセは、優ちゃん及び多知川 優也さんのことを嗅ぎ回っているようです。優ちゃんがあらかじめ手を回していたこともあり、大した情報は漏れていませんし、とくに多知川優也さんにについては、誰も口にする者はいませんでした」


「お兄ちゃんに関わるとどうなるかって、ちゃんとわかってるんだよ。偉い偉いな、みんな」


「……恐らくシルヴィー・フォッセの狙いはーー」


「お兄ちゃん、だよね。……小学校の頃、シルヴィーちゃんは、お兄ちゃんのことが好きで、それを恋敵の私に教えてくれたから。たぶんまだ諦められてないんだろうね」


「一方的な好意ほど吐き気を催す感情はありませんね。自分も人のことを口にできませんが……。どうされますか、優ちゃん」


「私もお兄ちゃんも学校に行くつもりはないから、しばらくはシルヴィーちゃんを監視するだけで充分かな……?」


「かしこまりました。シルヴィー・フォッセが実力行使に出た際の対策もしておきます」


「さすが奈々ちゃん、完璧だね!」


「ありがとうございます、優ちゃん」


 今日の目的であるシルヴィーの対処についての会議を済ませ、優梨と奈々は他愛もない話をして、門限までの時間を過ごす。


 奈々は、優梨と一緒にいられる時間がなによりの幸福であると感じている。

 けれどーー。


「私のお兄ちゃんとお話ししてみて、奈々ちゃんはどう思った?」


「優ちゃんから伺っていた通りの、妹想いの優しいお兄さんでした。さすがは優ちゃんを男手で一つで育てられた方です。尊敬します」


「でしょでしょ、んふー。でも、誰にも渡さないからね、残念でしたー」


「それは残念ですね。しかし、自分は優ちゃんのお側においていただけるだけで恐悦至極ですから」


 奈々は、優也の話を楽しそうにする優梨の笑顔だけは、どうも嫌いだった。

 だからきっと優梨に愛されている優也のことも大嫌いだったーー。

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