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5.兄妹のひきこもり生活

 長い夜が明け、昼過ぎに俺と優梨はソファの上で抱き合った状態で目を覚ます。


「んーっん……おはよう、お兄ちゃん……」


「お、おう、おは……よう……。んぁ……身体だる……」


 しかし、俺たちは起き上がることが困難なほどに気怠さを感じていた。それもそのはず、朝方まで優梨の愛情を感じ、偽りとはいえその好意に応えていたからだ。


 それでも、心地よい気怠さが4月9日を乗り越えたことを実感させてくれる。

 そう――やっと、やっとの思いで俺と優梨は、生きて4月10日を迎えることができたんだ!

 俺たちは元の、優梨と過ごす楽しかった日常に戻れる。こんなに幸せな展開は、ほかのルートにはないだろう。


「朝までその……ね、色々やって疲れちゃったし、学校に行きたくないなぁ……。今更行っても遅刻だし」


「2日連続で自主休校とは、不良化に片足突っ込んでんな」


「不良な妹は嫌……?」


「普通に嫌だわ。普段の優梨が一番魅力的で可愛いんだから、そのままのお前でいてくれ」


「お、お兄ちゃん……このこのーう、嬉しいこと言ってくれちゃってー。褒めてもキスでのお返ししかできないよー? んーっちゅぅ」


「ん。ふぅ……キスは充分ご褒美だ」


「んふーえへへ……」


 唇を押しつけるようなキスをしてきた優梨は、唇を離した途端に蕩けた顔を見せる。可愛い。


「ただダルいし、疲れたし、学校に行く気力が湧かないのもわからなくはない。そもそも、優梨がいつまでたっても満足しないから、朝に寝ることになったんだろ?」


「お兄ちゃんだって、満更でもない顔してたじゃん。それに私の要求を嫌な顔をひとつしないで受け入れてくれて……ううん、むしろお兄ちゃんがノリノリでハッスルしてたから、私も調子に乗っちゃったんだよ。お兄ちゃんも人のこと言えないよね?」


「そりゃ、あんなことすんの初めてだったし? 高揚感っていうか、幸福感が身体全体に満ち満ちていって……世の中の恋人が好んでする気持ちがなんとなくわかったわ」


「そんなに良かったんだったら、私のせいにするのはおかしくないですかー? ねえ、どうなの、お兄ちゃん」


「すいやせんでした。今日も休むぞうぅぅ!」


「や、やったー」


 軽い言いあいの末に、今日も自主休校することに決まった。

 言いあいは自主休校とは全く関係のないことだったけど、こんなどうでもいい会話でも、優梨が相手ならものすごく楽しい。


 けど、優梨も疲れが残っているのか、表情は喜んでいるように見えて声色からは疲労が滲み出ていた。


「優梨も疲れてるんなら、しばらくゴロゴロしてようぜ。家事はまあ……後回しで大丈夫だろ」


「家事を全然しないからってテキトーなことを……。でも、私はお兄ちゃんとイチャイチャすることがなによりも大事だから、一緒にゴロゴロしてくれるなら別にいいけどね」


「なら、たまには家事を手伝うのも悪くないかもな。同じことをすれば、優梨と一緒にいられる時間が増えるし」


「さすがお兄ちゃん! あーたまいい」


「……優梨さんの方が頭がよろしいので、嫌味にしか聞こえないんですけれども。こんなしょうもないことで兄を褒めても、デコピンしかしてやらないぞ」


「私はキスのご褒美をあげたのに、お兄ちゃんのはお仕置きじゃない!?」


「褒められたくらいでキスしてくれるようなチョロい妹ほど俺は甘くないからな」


 優梨の額にデピコンをくらわすと、リビングにパチンという音が響く渡る。

 徐々に優梨の額は赤みを帯びて、少し腫れてしまった。優しくやったはずだったが、わりと痛そう。


「あっ、ひゃっ!? チョロいのはお兄ちゃんに対してだけだよ〜っ!」


「俺もキスするのは優梨だけだし、甘えるのも優梨――俺の愛してる女の子だけだ。ん」


「んっ……」


 唇が触れ合うだけの軽い口づけをする。

 しかし、それだけで我慢できるはずもなく、互いの舌を絡ませ合う。相手の肉感や熱量を感じ、愛情を求め合うように。

 そして――。


 ……………………。

 ………………。

 …………。

 ……。


 俺たちの生活は一変した――。

 学校に登校しなくなり、外出を一切しない。2人きりで家にいるだけの生活。


「食器を洗うのってすごくめんどくさいんだな。ちゃんと泡立たないし、上手く汚れは落ちないし……優梨は、よく文句も言わずにやってられるな」


「それがお兄ちゃんのために私ができることだから、文句を言うことなんてありえない。全然想像できなかったよ」


「んじゃ、今後も俺の世話をしてくれよ。ついでにニートになってやるから、俺を養ってくれてもいいんだぞ」


「私の旦那さんに永久就職ってことだね。それくらい任せて任せてっ!」


「優梨が生まれてから兄って職業に就いてんだから、敬称が変わったところで、いまの関係はとくに変わらないけどな」


「だね、お兄ちゃんはお兄ちゃんだもんね。……って、ねえ、お兄ちゃん、お皿は裏も洗わなくちゃ。こうゴシゴシって、んふー」


「おい、背中に胸を押し付けてくるんじゃない。お前は、食器をすすぐ担当だろ!?」


「気持ちよくなっちゃったの? うりーうりうりゴシゴシうりうり、どうだどうだっ」


「どうだも何もない。うっ……とりあえずいまは食器を洗わせてくれ!」


 起きているときは片時も離れずにひっついた。


「お兄ちゃん、今夜は少し寒いね」


「いや、今日はわりかし暖かいほうだろ。さっきまで激しく動いて、汗かいてるし」


「細かいことは気にしないで、むぎゅーってして?」


「暑い寒い関係なく、毎晩してやってるんだから、変な嘘をつくんじゃねえ。ほらよ、ん……」


「んふー……。お兄ちゃんの胸板厚くて、硬くて……すっごく安心する」


「優梨は、とにかく柔らかいな。もちもちで、ふわふわもしてて、めっちゃ気持ちのいい感触がする……」


 寝ているときも片時も離れずに抱き合った。


 起床も、食事も、風呂も、着替えも、排泄も、遊びも、勉強も、就寝も 何をするにもずっと一緒。肉欲に溺れる日々、ただれた生活といっても差し支えない。


 はじめのころは、兄妹でありながら一線を越えたことや、学校では品行方正な優等生で通っている優梨を理由もなく毎日ズル休みさせたことに対し、兄として如何なものかと思い返すこともあった。

 だが、4月9日を乗り越えたときに果たされるはずの週末の約束も反故にし、学校を不登校になってから2週間が経ち、そのような考えは一切なくなった。


 ただ優梨は俺を男として愛し、俺は感情を殺し、人間性を捨てて、優梨に尽くす。


「私、お兄ちゃんを愛してる」


「俺も、妹としてじゃなくて、1人の女の子として愛してるからな」


「んふー嬉しいっ」


「優梨が喜んでくれるなら、頑張った甲斐があったな」


「……この生活が一生続いたらいいのにね、お兄ちゃん。そしたら、何のしがらみもなく、ずっと一緒にいられる。永遠に愛し合うことができるのに」


「安心しろ。俺が優梨を愛し続ける限り、この生活は終わらせない」


 例え、偽りの愛情だとしても、俺は言葉を紡ぐ。

 その結果、俺と優梨が一緒にいられる√に繋がることを信じて。

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