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4.兄妹の一線を越えて

「テレビも面白い番組やってないな」


「うーん、たぶん1日中テレビ見てたから、見飽きただけじゃないかなぁ? 私は面白いと思うし……」


「これのどこが面白いんだよ。これを面白いって評価する優梨さんの感性を疑いますなー」


「そこまで酷評しちゃう!? ぶー……お兄ちゃんだって、さっきまで笑ってたくせにー!」


 豪勢な夕飯と風呂を済ませ、俺は寝間着で、優梨は水色のルームワンピースに着替えて、ソファに寝転ぶ。


 兄妹揃ってだけられていた結果、昼、夕方、夜とあっという間に時間が過ぎていった。

 いいや、優梨は家事をいつも通り全てこなしていただけに兄妹揃っては語弊はある。主に俺がダラダラと無駄な時間を過ごした。


「あと少し……あと少しで……」


 現在は、22時を回ったところ。あと2時間足らずで、4月9日が終わる。

 悪夢のような4月9日――1週目は俺とシルヴィーが死に、2週目は優梨が死んだ。今回を三度目の正直にしたい。


「むぅ……なにがあと少しなの!? 私の感性をバカにして、しかも無視までするなんて、お兄ちゃんに甘々な私でも怒っちゃうよっ!」


「うわっ……! 待て待てっ! 悪い、俺が全面的に悪かったから!」


「許さないもーんだっ。ていやーっ」


「くっ……兄より優れた妹はいない……!」


 じゃれてくる優梨に俺も抵抗する。


 優梨が肩に触れてきたので、俺も肩を触り返す。

すると、優梨は俺の胸に頭突きしてきた。だから、俺も、俺も――優梨の胸に向かって頭突き仕返した。


 だが、俺の頭突きを受けきれず、勢いが余って――。


「あっ……たーおーれーるー」


 わざとらしい芝居で、力なくソファに身体を預ける優梨。俺のパジャマの襟を掴んでいたのか、ついでに俺のことも道連れにしていた。


「んだよ……危ないじゃんかよ……。て、え……?」


「っ……お兄ちゃん……」


 咄嗟のことで閉じていた瞳を開く。

俺が優梨を押し倒したような体勢になる。兄が妹を組み敷いているといってもいい。


「優梨……」


「こ、このまま襲ってくれてもいいよ、お兄、ちゃん……。わ、私……私、生まれてたときから、お兄ちゃんと添い遂げる覚悟はできてるもん……」


「はぁ……優梨、声が震えてるのバレバレ。怖いんだろ? なら、こんな場のノリでじゃなくてさ、俺たちのペースでゆっくりと……な?」


 立ち上がろうとしたところ、優梨の腕が俺の首に巻きついた。


「怖くないっ……だから、お兄ちゃんも逃げないで、ね?私は大丈夫だから」


 優梨の、俺を真摯に見つめた瞳に吸い込まれる。

さきほどの言い訳が恥ずかしく思えるほどに、優梨は真剣だった。


 俺は……いいのか?

 優梨の兄として、家族として、妹に手を出すことは許される行為なのか?

 ――決して、許される行為でないことは、自分が一番理解している。それでも俺は優梨の意思に従うと決めた。

 だから、俺は――。


「……もう躊躇しないからな。やっぱり怖いからやめてなんて言葉は通じないぞ」


「うん……うんっ。ありがと、お兄ちゃん。大好きだよ、えへへっ」


「うちの妹は可愛すぎんなぁ、全く」


 優梨の頬に唇を落とす。

 ハリと透明感のある白肌で、ほのかに赤らんだ頬から熱が伝わってくる。


「すごく躊躇ってますけどー。さっきの言葉は嘘だったんですかー? ……酷いよぉ〜すっごくドキドキしながら、お兄ちゃんからのキスを待ってたのに」


「ぅ……」


「乙女の恋心を弄ぶなんて……」


「わかったわかったから。俺だって急なこと動揺してんだ、こっちのペースで進めさせてくれ」


「えーお兄ちゃんのペースに付き合ってたら、心臓がドキドキし過ぎて爆発しちゃうぅ……」


「それは困るな。……ん」


「んっ……!?」


 吸いつくような潤いを帯びた唇だった。短い間のキスだったが、脳裏に深く焼きついて離れない甘美さがある。


 これが俺のファーストキス。

 俺の知る限り、優梨にとっても今回が初めてのキスだと思う。


「優梨も初めてだよな……?」


「ううん、結構してるよ? あ、お兄ちゃんもね」


「はあ……!?」


 前言撤回。多知川兄妹は、今回が初めてのキスではなかったらしい。

 いつだ。俺はほかの女の子とキスした覚えはない。

 俺のキスはそんなに安いものではないからな!


「お兄ちゃんは覚えてないかもだけど、小学校低学年までは、割と頻繁にやってたよ?」


「いや、あれは母さんとのこともあるし……。そう、ノーカンだ、ノーカン 」


「まあ、あの人のことはいいや。んー……最近だと朝、お兄ちゃんが熟睡して起きないときにぶちゅーっとね、えへー」


「えへー、じゃない。俺の大事なファーストキスを返せ」


「はーいっ。んちゅっ……」


「ん……」


 今度は優梨からのキスだ。

 優梨のキスは情熱的なもので、舌を巧みに扱い俺の口内を蹂躙していく。


「んぷはぁ……はぁ、はぁ……」


「あぁ……優梨さんや、日頃から俺が寝てる隙にこんな激しいキスを……?」


「んふーどうだったかなー忘れちゃったなーえへ……」


「嘘つけやい」


「んふー……嘘、でした」


「お、おう……」


 優梨の愛らしい顔はのぼせたように赤くなり、茶色がかった大きな瞳はとろんと恍惚としている。

 そんな普段の可憐さとは程遠い妖艶な雰囲気を醸し出す優梨に、俺は魅力されるしかなかった。


 さらに、優梨が紡ぐ言葉に――。


「……キスだけで終わりじゃないよね、お兄ちゃん。私は、お兄ちゃんと……したい」


「お前がそれを望むなら、俺は構わない。あ、ああ、構わ、ない……」


 冷静に努めようとしても、かなりドキドキして、そう思い通りにはいかない。

 俺の心臓は激しく鼓動を打ち、これ以上踏み込むのは危険だと警鐘を鳴らしているようだ。


「ちょっと……待っててね、お兄ちゃん」


「俺はせっかちだって思われてんのか? 俺はお前の準備が終わるまで待ってやる甲斐性くらいは……ある」


 俺の気持ちを確認した優梨は、ルームワンピースを脱ぎ置き、そのままの勢いで薄ピンク色の下着にも手をかける。

 その一連の行為は、とてつもなくいやらしいものだと思えた。


「どうかな、お兄ちゃん……?」


「……ごくり」


 見慣れているはずの、妹の一糸纏わぬ姿に、気づかぬうちに唾を飲み込む。


「可愛い、な。すごく可愛いぞ」


「んふーありがと……。ちゅっ……」


「んっ」


 キスを何度も交わす。

 優しいキスと激しいキスを交互に繰り返し、興奮を昂らせる。


 そして、留まっていた理性もついに決壊する――。


 リビングに充満する汗の匂い。

 ギシギシときしむソファの小気味よい音。


 多知川兄妹は一線を超え、時間を忘れて、お互いの身体を貪るように求め合う。


 しかし、優梨に愛があっても、俺には優梨に対する異性としての愛情は微塵もなく。感情を殺し、人間性を捨てて、妹に尽くした。

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