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9.ヤンデレVSヤンデレ

 多知川 優也、多知川 優梨、シルヴィー・フォッセ――因縁のある3人が顔を揃える。


 happyエンドか、はたまたbadエンドか。どちらに繋がっているのかは、まだ判断できない。

 だが、これから発生するイベントが、この√の山場であることは間違いない。


「ユーリ、ワタシはあなたを家に招いたつもりはないんですけど。不法侵入じゃないんですか?」


「なら、シルヴィーちゃんがやったことは、誘拐に監禁だね。どっちの方が罪が重いかは気にしないにしても、お互いさまじゃないかな」


「相変わらず口が達者、ですね」


「それにわざと侵入経路を準備して私を待ってたよね? すごくデカい家なのに誰もいなくて、セキュリティもガバガバでびっくりしたもん」


 シルヴィーの作戦は、優梨には筒抜けだったようだ。

 さすが定期試験で学年1位を掻っ攫っているだけのことはある。兄として、鼻が高い。

 そのままシルヴィーの目的にも気づいてくれ。彼女は、お前を――。


「そこまで察してくれてるなら話が早い、です。覚悟してください、ユーリ」


 シルヴィーはスカートに手を入れると、通常の刀よりも刀身が短い――小太刀を取り出し、鞘から引き抜く。


「へぇ……シルヴィーちゃん、面白いもの持ってるんだね」


「んっ。パパのなんです。和風な物が好きで、とくに日本刀のレプリカを収集することが趣味みたいで……この日のためにワタシにも持てそうな物を借りてきました」


「レプリカっていうことは、斬ることはできないのかなー? あ、でも、鈍器として活用したら、充分に死ねちゃうかも」


「なに冷静に分析してるんだよ! 相手はレプリカとはいえ、立派な武器を持ってるんだぞ!? 俺を置いて、さっさと逃げろ!!」


「んふー私を心配してくれるなんて優しいね、お兄ちゃんはっ」


「お前の兄なんだから、当たり前だろうが! 軽口叩いてる暇があったら逃げろ、シルヴィーの目的はお前を消すことだ」


 笑顔を絶やさずにいる優梨に苛立ちを覚える。

 それでも1週目の√でシルヴィーを殺したら優梨なら、この状況を打開できるかもしれない。そのような期待感を抱いていたのもまた確かだった。


「目的がユーリにあるといっても、ユーヤに何もしないとは言い切れない、です。ユーリを殺すためなら最大限に利用します」


「くッ……そ……」


 俺の喉元に小太刀の切っ先があてがわれる。

 レプリカだけあって血が出ることはなかったが、死の恐怖をすぐそばに感じた。

 しかし、兄が絶対絶命の状況にあっても、優梨は笑顔のまま飄々としている。いや、それどころか、


「まあ、そうだよね。シルヴィーちゃんは、言うほどお兄ちゃんのことが好きじゃないもんね。ただ私に復讐がしたいだけでさ。だから、お兄ちゃんの命も軽く扱える」


「――」


「恥をかかされたことの恨みかなー? 当たり? 当たりだよね!」


「ワタシがユーヤを好きじゃない、ですか……? 当たりなわけ――」


「お兄ちゃんとの恋を成就させたいなら、お兄ちゃんを私から遠ざける必要があるよね」


「だから、ユーリを消すんです。ユーリさえいなければ、ワタシとユーヤは結ばれます。邪魔者がいなくなりますから」


「私を消すっていうのは確かに1つの方法ではあるけど、回りくどいよね。お兄ちゃんが欲しいだけなら、お兄ちゃんを手に入れた時点で一緒にフランスに逃げたらよかったんじゃない? それなら手を汚さずに、人を殺す以上には穏便に済むと思うんだけどなぁ。私を殺したいって気持ちが先行しちゃったのかな?」


「ワタシはこの作戦が最善だと思ったから、実行しました。唯一の家族であるユーリがいなくなれば、ユーヤを探す人がいなくなりますし、警察沙汰になることもない、です」


「ほんとかなぁ? シルヴィーちゃんのお父さん――クラウド・フォッセさんは外交官で、国家に影響力、発言力があるフォッセ家の現当主様なの知ってるよ、私。警察沙汰になる前に証拠を軽く揉み消して、人を1人連れ去るくらい容易いことじゃないかなーなんて」


「パパのことまで調べて……」


 優梨がすごくデカい家と評すほどの豪邸で、しかもその豪邸には、全方位を防音材で囲った密室がある。これでシルヴィーが裕福な家庭の娘でないはずがない。

 優梨も発信機で俺の居場所を特定し、豪邸を目の前にしてそのことに気づいた。だから、そこに付け入る隙があると踏んで、シルヴィーの親父について、俺が誘拐されてからのこの短時間で調べあげたのだろう。


「シルヴィーちゃんの行動にお兄ちゃんに対する愛情は一欠片もないよ。私の対する憎悪が120%ってところかな?」


「愛してます。あのときから、ずっと。離れて過ごしてる間も、ユーヤのことを考えて、想い続けてきました。なのに!」


「しつこいなぁ……。お兄ちゃんに手を出した時点で、あなたの愛は終わってたんだよ」


「……だから、なんですか? ワタシがユーリを消せば、最終的にはユーヤはワタシのものになることは変わらない、です。違いますか?」


「お兄ちゃんの気持ちを無視するなら、そうなるんじゃない? でも――」


 優梨は、スクールバッグから包丁を取り出す。

 新品のような眩さを放つあの包丁は、1週目の√で、俺の腹部を突き刺し、臓器をぐちゃぐちゃにかき混ぜた包丁と同じものだ。


 それに対して、小太刀の切っ先を優梨に向けて待ち構えるシルヴィー。刃物を持った優梨に動揺を示すことはなく。こうなることを予期していたかのような冷静さだった。


 一発触発の危機。優梨か、シルヴィーのどちらかが死ぬかもしれない。

 そんな悲惨な未来から逃れるために【Q.LOAD】を押そうと試みるが――手足が拘束されて動かせる状況になく。ならばと、身を投げ出すが、転んだだけで何も起こらなかった。


「んぁ……。やめろ、バカ! 別にお前らが殺しあうことなんてないだろ!? んな物騒な物しまえよ、優梨! シルヴィーお前もだからな! な? やめてくれ、やめてくれよ……」


 いまの俺には地べたを這い、ただ吠えることしかできなかった。


 その声も2人には届かず、


「ユーリも殺すつもりできたんですね。この短い時間でそこまでの覚悟をしてるなんて、そういうところだけはすごい、です」


「お兄ちゃんのためなら、何も厭わないから。……お兄ちゃんと邂逅した瞬間に、全てを捧げるって決めてるもん」


「ユーヤのことを想う気持ちは嫌いじゃない、です。一途で、世話焼きで、全身から彼への愛が溢れていて……それが兄に対するものでなければ、ワタシもユーリを好きになれました」


「お兄ちゃん以外の好意はいらないから、それで大丈夫っ!」


「そうですか。ユーリらしい、ですね。そんなあなただからこそ躊躇する必要がないと思えます」


「そうだよ、遠慮する必要なんてないんだよ。私とお兄ちゃんにとって……あなたは邪魔な存在でしかなんだから」


 優梨は包丁を胸の位置に構えて走り出し、シルヴィーは小太刀を振りかぶる――。


 決着はすぐだった。

 優梨の包丁は空を切り、シルヴィーの小太刀が優梨の頭を捉えていたのだ。一度ならず二度、三度、四度も。


 確かにシルヴィーは女子の平均よりも高く、優梨は低い――明らかな体格差があった。それに優梨は運動不足を嘆いていた。

 1週目の√ではどういった経緯で優梨が勝ったかは定かではないが、この√では優梨が負けてしまった。


「優梨ッ……!」


 最愛の妹の悲痛な叫びを聞いた。最愛の妹の痛みに歪んだ顔を見た。最愛の妹の死を目の前にして、何もできずにのうのうと……。


 手錠と足錠が――ガチャリと外れた音がする。


「優梨はあんな子でも優也にとっては唯一の家族、です。だからお別れくらいはどうぞ」


 目的を達成したシルヴィー。だけど、どこか悲しそうな表情をしていた。


 俺は子鹿のような弱い足取りで優梨に歩み寄る。


 お兄ちゃんが好きだと、大好きだと、愛しているとよく口にしてくれた優梨が、俺が手を握っても、頭を優しく撫でても、頬に軽いキスをしてもピクリとも動かない。

 普段なら大はしゃぎで喜んでくれるのに、愛嬌たっぷりの笑顔でキスをしてくれるのに……。優梨は目を瞑ったまま、全てを受け入れるだけだった。


 優梨が死んだ――。

 本当に優梨が死んだんだ――。


 その事実が、俺の心に重くのしかかる。


 優梨から被害を受けた者、優梨が消えて喜ぶ者からすれば、happyエンドを迎えたのかもしれない。

 けれど、俺にとって、優梨はかけがえのない妹だ。大切で、大好きで、最愛の妹で……。

 優梨のいない世界に俺の居場所はない。


 ――俺からすれば、この結末はbadエンドでしかない!


「ふざけるな……! こんな√捨ててやる」


 そう腹の底から叫んだ瞬間、世界から光がなくなった。


 暗転。




 ★ ☆ ★ ☆ ★




 【EXTRA】が解放されました。


 【EXTRA】にシルヴィーHistoryが追加されました。


 【EXTRA】にシルヴィーAfterが追加されました。

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