日刊川口新聞第6号 臨隊総長、見参
前回は梅田駅を案内しますよーで終わったのですが…今回は梅田駅の案内を終わったと仮定して話を進めます。小阪まりが案内する話は…短編、もしくはこぼれ話で執筆したいと思います。
…いえ別に梅田駅に行ったことがないとか知らないとかじゃないですよ!
「…と、まあ梅田駅ってこんな感じやで。かなり広いやろ?」
「ひ、広いですね…こんなの迷いますよ。」
まりの案内で様々なところを周り、5番出口へと戻ってきた。俺はなかなか人混みの中に行けない、というより行きたくないため極力駅や駅周辺は避けていた。久々に人混みの中に入ってみればなんとまあ疲労感が心身ともにのしかかる。このまま帰りたいが、また俺には大仕事が残っている。恐らく今までで1番のネタになる。
「で、藤岡君は臨隊のことについて知りたいねんな?」
「はい。」
「それやったら、うちより経験が一番ベテランな頭…総長って言うねんけど、そいつに聞いた方が早いで。うちでもええけど、まだ入ってから3年ぐらいしか経ってへんしな。」
3年でも長い方だと思うのだが、上には上がいるという言葉の通り3年以上のベテランも存在するらしい。すると、まりのスマホから通知音が聞こえた。すばらくスマホを取り出し、数十秒ぐらい軽いやり取りをするとポケットへと直した。
「総長から連絡があってな、『別に取材でも張り込みでも何でもいいよ』やってさ。」
「あ、ありがとうございます!」
俺の中でこれ以上ない高揚感、興奮が抑えきれないくらい高まっていた。一人の記者としても取材に応じてくれるには嬉しいが、個人の藤岡奏としても非常に嬉しい。
「そういや、総長が直々に部外者とアジトで会うのはこれが初めて…だよな?」
「確かそうやんな。なんでやろ?なんか気ぃでも変わったんかな。」
しかも臨隊のトップである総長と臨隊以外の人、部外者がアジト会うのは初めてだ。まだ誰も踏み込んでいない世界に踏み込める。そう思った瞬間、何者かに首を掴まれた。周りでこちらを見て「キャアアア!」と叫び声が聞こえた時には既に遅かった。首元にはダガーナイフ__対人殺傷用の短剣__が当てられていた。
ただ怖くて、叫ぶことしかできない。
「う、うぁああ⁉︎」
__ナイフが首元にある。
「…黙れ。これ以上お前は喋んな。」
__…怖い…。
「…今から俺の聞く質問に素直に答えろ。それ以上は何も望まねぇ。いいな。」
__怖い怖い…誰…怖い怖い助けて怖い
「お前…臨隊の奴と喋ってたろ。何喋ってた。」
__怖い怖い怖い知ら怖い怖い恐い誰か助け怖い怖い
「…俺にも時間が無ぇんだ。急げ。さわりだけでも話せ。」
__知ら知る怖い怖い怖い怖い誰か助け死ぬ恐い恐い怖い嫌だ怖い怖い怖い恐い恐い恐い怖い怖い怖い助け怖い恐い恐い恐い__________死ぬ
「…ナイフ持ってるお兄さん。」
俺の前から先ほどまで一緒にいたま…ではない、全く知らない人が目の前に立っている。声も初めて聞いた声だ。全く聞き覚えがない。目の前の人…男は黒い目出し帽を被っていて男の雰囲気からするとまだ成人していないような気がする。
「その子は俺の大事な人なんだ。頼むからその首とナイフを離してくれないかな?」
「おいおい兄ちゃんよぉ、ここで『はい分かった』とかいう輩なんているか?」
「まあ普通そうだよね。でも頼むからお願い、どーしても大事なんだ。っていうかそいつ弟。」
「弟だったら尚更離してやるわけにはいかねえな。」
ナイフを持つ謎の男は少しだけ首を自分の方へ寄せ付けた。
「…はぁ、やむを得まいか。」
目出し帽の男は肩をがっくしと落とすと、急に目をキッとこちらへ向けた。
「悪ぃ俺の弟、ちょっと歯ぁ食いしばれ。」
「は…はい?」
俺に対して何かを言っているように聞こえたが、声があまりにも小さすぎて耳では拾えきれなかった。何を言ったのだろうと考え込んでいると、誰かに背中を強く押された。いや、正しく言えばナイフを持つ謎の男越しに押された。そのまま前方へ倒れ込んだ。
だが目の前にいる目出し帽の男は一切動いていない。なぜ背中を押されたか後ろを向いて確認しようとす__
「弟!俺のとこまで逃げろ!」
目出し帽の男は弟に対して指示を出した。そうだ、ともかくまずは大ごとになってはまずいかもしれないため一旦この場を抜け出さなければならない。急いで体を起こして兄の方へと一気に駆け出した。こいつを逃すまいとナイフを持つ男も俺の方へと向かってくる。
兄との距離があと10mと言ったところで、どこからか黒塗りの車が現れた。
「お前はこれに乗れ!あとは俺がなんとかすっから!」
正体も素性も分かっていない人間から「これに乗れ!」と言われても普段ならば流石に乗らないが、今回ばかりは状況も状況だ。一瞬躊躇ったが、自分の考えを全否定するように頬を叩いて車に乗り込んだ。ドアをとりあえず急いで締めてシートベルトをつけた。
その時、俺を追いかけていた男が車へとたどり着いた。俺に立てていた同じナイフを車窓へと向け、力一杯俺の方へと真っ直ぐに突き刺してきた。
幸いにも、窓は貫通することなかった。2発目、3発目を立て続けに窓を貫通させようとしているが、傷が一切付いていない。
「シートベルト締めたか?お巡りさんに来られたら大変だからつけとけよ。」
俺の右方から声がした。目出し帽の男と同じような声質だ。恐らくは同一人物だろう。顔を向けると、既に目出し帽は取っていて凛々しい少年がそこにはいた。
「ゴタゴタがあった後で混乱しているだろうが先に言っておく。俺は臨隊総長、明石圭吾だ。よろしくな。」
少年は口元に薄い笑みを浮かべた。悪巧みを考えている笑みなのか、安心させようとしている笑みなのか、はたまたそれ以外の笑みなのか。今の俺には両方とも総長の顔には合っていると思った。