日刊川口新聞第4号 新たなる出会い
「あー、悪ぃ小阪、まだ調査行ってへんねん。代行お願いしていい?」
目の前に現れた少女は、向日葵のような黄色に染め上げられた金髪を一つにして括っていて、その凛とした佇まいからは、冷たくなりすぎた氷のような冷たさを感じる。
印象は悪くないのだが、冷淡、冷血という言葉が何故だかよく似合うように見受けられる。
少女はこちらにチラリと目をやると、すぐに視線を優斗へと戻した。一度見られただけなのに、心臓を鋭い針で突き刺すような感覚に陥った。
「さっきから気になってんねんけど…誰この人?」
「藤岡奏っていう俺とおんなじ川口高校。さっきあっちの方のバス停でたまたま会ってん。しかもコイツときたら…」
優斗は俺の左肩へと手を回し、馴れ馴れしく肩を引き寄せた。ニィッと悪戯っ子のような笑みを浮かべている。
「新聞部に入部してんねん、すごいやろ?小阪も知ってると思うけど俺、川口高校やねん。で、コイツは新聞部に入ってんねん。それで臨隊のことを調べたいって申し出てきてさー。小阪はどうすんの?賛成すんの…」
「聞き捨てならなへんやん…」
小阪の両腕はワナワナと震え、顔は俯いている。表情は見えないのだが、恐らく臨隊の事を新聞に書かれたら嫌だから、怒りで体か震えているのだろう。やっぱりまずかっただろうか。そう思い2、3歩後ずさったところで不意に顔を上げた。
「…是非こないだのうちの活躍書いて」
てっきり俺は断固拒否する反応を想像していたが、まさかのお願いしますパターンがきたことに呆気を取られた。しかも、こないだの活躍ということは、臨隊にまつわるあの銀行強盗の事件と接点がある可能性がある。
もちろん俺はそんな大きなネタを逃すわけにはいかず、
「ありがとうございます!」
と返した。
「あ、名前まだ言ってへんね。うちは小阪まり。こう見えて、私立真月高等学校の一年生やねん。」
ちなみに、私立真月高等学校は府内でトップレベルの高成績を誇り、文武両道の名門高等学校だ。野球といえば、甲子園で準決勝まで残るツワモノ、吹奏楽部でいえば全国大会で金賞を何度か獲得したことがある強豪。下位での負けを知らず、部活での練習もプロ並みにハードなことから「勝利至上主義高校」と言われるほどだ。
正直、そんな高校の生徒だから性格は横暴で傲慢、そして自意識過剰な人が多いと思っていたがそうでもないらしい。今この場で真月高の生徒だと分かっていても目の前のまりには悪い印象を持つことは無かった。
「ちなみにいうとだな、こいつ天才だけじゃなくて喧嘩も恐ろしい程強いねん。変なこと言うたら一瞬で砕け散るで」
「ちょっとやめてや、初対面の人にそんなこと言わんといて。変なイメージ持たれるやん」
「ええやん別に。俺はほんまのこと言ってるだけで別に嘘は…痛い痛い痛い!千切れる!皮膚がぁー!」
まりは優斗が話している最中にほっぺをつねってきた。男子高校生とか女子高校生のノリならそんなに痛くはないはずだが…
「赤ぉなったやん。いい加減小阪も力の調節具合とか覚えてな。下手したら骨折しかねへんぞ…。」
「蛯原が余計なこと言うからやん。これで結構力抑えてる方やで。
優斗はつねられたほっぺをさすりながらまりに伝えた。よく見てみると、優斗のホッペは痛々しく赤く腫れあがっている。これが弱気なのならば本気はどのぐらい力を出せるのか…想像しただけで恐ろしさが増す。
「とりあえず……藤岡君で呼んでいいよね?」
「あ、はい。」
「取材やったらうちの本部でした方がええんちゃうかな?部外者を本部に通させるのもあんま良くないと思うけど…少なくとも誰かに見られることは無いから。…それでいいよね?蛯原?」
「す、好きにしてくれ……痛い痛い……」
まりはスマホをズボンのポケットから取り出すと誰かにラインを送信した。送信し終わるとスマホの電源を切り、俺、優斗、まりの3人で臨隊の本部へと移動することになった。