日刊川口新聞第1号 調査開始
この物語の語り手ですが、始めの方はちょくちょく変わっていきます。
「前回はAさんだったのに、今回はBさんだ!」
みたいな感じですかねぇ。
毎回変わるから分かりづらい!とかむしろついて行きにくい!などの意見等がありましたら、下方にある感想でお知らせして頂くか、もしくはメッセージでお知らせして頂くでも構いません。
ではどうぞ〜
ジリリリリリ…と典型的な目覚ましの音が部屋の空気を切り裂く。布団集団に大半の意識を奪われ、残りの意識が引き込まれそうになるが、なんとか右手を伸ばし鳴り響く目覚ましを止めた。
気をつけないとそのまま夢の世界へともう一度誘われるが、自身にムチを打ちゆっくりと布団から這い出た。カーテンを開け日光に数秒当たる。拳一つが入るかもしれない大きなあくびを太陽にお見舞いすると寝間着を脱ぎ手早く制服に着替えた。
軽く顔を洗いサッパリすると、いつものようにダイニングテーブルに朝食が置かれてあった。今日は白ご飯とお味噌汁、納豆、昨日の晩御飯の残りのししゃもだ。
「いただきます。」
ちらりと壁掛け時計に目をやると時刻は午前6時を指している。学生の時間でこんなに早い時間に起きるのは運動部ぐらいだろう。自分が所属している部活を除いては。
ご飯を15分で食べ終えると歯を磨き、学校へ登校する準備をした。いつもお世話になっているスポーツロゴの入った蛍光色のリュックサック、普段愛用している黒ボールペン、少し分厚めだが使い勝手が良いメモ帳、小型カメラ、そして部活で使用するファイル。
一通り確認すると履きなれた靴を履き、家を出発した。
10分かけて学校へ着いた。今日は幸いにもあいつらには出会わなかった。速やかに下足室で外靴を脱ぎ上履きを履くと、いつもの部室へと向かった。ここからの距離が近いので大変助かる。
部室へ入ると朝っぱらから威勢の良い挨拶が耳に飛び込んできた。
「おはよー!奏君!今日もがんばろー!」
ニコリと眩しい笑顔を向けてきた。やはりいつ見てもこの笑顔は癒される。なんせ部の天使と言われるぐらいだ。
俺は彼女、久保佐奈、通称クボ様と呼ばれている彼女の隣の席へと座った。席は入部当時に決められているため変更は出来ない。背中をグッと伸ばし上へ伸びた。ゴキッと嫌な音が立ったが気にしないことにする。
そして今日も俺たちの活動が始まった。
俺、藤岡奏は川口中学校の2年生だ。「かわぐち」ではない、「せんくち」だ。間違えて覚えたら俺の中学校生徒全員から冷たい目で見られるぞ。ちなみに大阪府にある中学校だ。
自分で認めているのもなんだが、絵が上手い。度々、市が主催する半年に一回の絵画コンクールにも応募し、入賞している。過去に3回金賞を取った時は表彰状とトロフィー、そして商品券5000円分が貰えて使い道に悩んだのは良い思い出だ。
そして、そんな俺が現在所属している部活動、それは「新聞部」だ。
絵が上手いなら美術部に入ればいいやん、とか美術部の方がもっと才能を発揮できたりするやんとか思うかもしれないが、ここじゃなくても入部したくない。
なんで?と聞かれたら、「自分の能力を部活動を通して発揮させるのはあまり俺の好みではない。同じ文化系の部活であれば、個人的には新聞部の方が向いていると思う。」と常に言っている。
一度、中学1年生の時に行われた部活体験の時に、吹奏楽部、男子バスケットボール部、新聞部に行った。
吹奏楽部では楽器を試しに吹かさせてもらったが、サックスとトランペット共に一瞬も音が出ず「入部したらきっと吹けるよ」などとお決まりの勧誘文句を言われたので諦めた。
男バスでは、運動を普段しない俺にはハードな練習には全くついて行けず、顧問と思われる教員は「うちの部活は練習は厳しいけど仲は良いぞ」と言っていたが、後から入手した情報によると、昔からトラブルが多発していて最近でも数件起きたらしいので諦めた。
そして最終的には消去法で新聞部に入部した。消去法じゃなくても理由は少しある。まずはこの部活の熱心さ。どうやらこの部活は、平日・休日は朝の6時半していて、学校内の事だけじゃなく、この街に起こった出来事や、今の生徒会に対する世論調査(?)らしきアンケートをたまに行っている。
他にも色々とあるようだが、割愛させてもらう。こんな感じに、普通の新聞部とは違い、かなり熱心な部活だそうだ。
「ねーねー奏君、確か今日から臨隊特集をするやんな?バンソウコウとか持ってきたん?」
「あ…持ってくるの忘れた。」
「実は今うち持ってんねんけどいる?」
「あ、じゃあもらう。」
佐奈は机の横にかけてあるリュックサックに手を伸ばし、ポケットを漁り始めた。バンソウコウの束を見つけるとそれをそのまま俺に渡した。明らかに量が異常なほど分厚い。
「ありがとう。」
「いえいえー。」
彼女は俺の反応を見届けるとすぐさま新聞の原稿作りに戻った。今書いている原稿は今日中に仕上げないといけないらしく、今の状態でもまだ10分の1も終わっていなさそうだ。
俺はバンソウコウの束をじっとみていたが、この束を忙しそうな必要性がなさそうに見える彼女に返してもどうかと思い、そのままリュックサックへと入れた。
俺の特集予定の対象__臨隊とは、ここ数ヶ月、大阪府全域で少し有名になっている集団である。暴力団とかカラーギャングではないらしい。最近の活躍といえば、1週間前に起こった銀行強盗事件である。
東大阪市にある、とある銀行に泥棒が入った。本物であると思われる拳銃を右手に持ち、左手にはお金がたくさん入るようなカバンを持っていた。後日分かったことなのだが、拳銃は本物だ。
強盗は「金を出せ、さもないと撃つぞ」などとお決まりの台詞を言った。銀行員達は言葉に従い、素直に大金を現金で渡すと、強盗はそのまま逃げ去った。その後、銀行員は警察に通報をし、強盗を捉えさせようとしたが、既に捕らえられていた。
強盗が100m逃げた先に、黒いヘルメットを被った女子高校生らしき人が前方へ突如として現れた。「どけ」と言ってもどかないらしく、引き金を引こうと強盗は試みたが、彼女は一瞬のうちに回し蹴りを披露し、骨が折れない程度に顔面を殴った。女子高校生は気絶をした強盗を強盗現場の銀行の近くの電柱に縄で括り付け、ご丁寧に「臨隊より」と手紙も添えられた。この一連の行動は防犯カメラによって確認された。
個人的な意見になるが、臨隊は広範囲で活動していていつどのタイミングで現れるかも予測不可能。神出鬼没な存在で霧に混じっている。だが少なくとも悪い団体ではない気がする。
臨隊が現れてからは、警察の仕事が減った、正義の仮面を被った集団など世間の反応は様々だ。彼らを否定するわけでもないし、肯定するわけでもない。あくまで中立的な立場に表面上では立っている。
俺は部長、笠原明日季に調査へと出発することを示す用紙、調査証明用紙に必要事項を記入して渡した。彼は確認すると頷き、心配する目つきでこちらを見た。
「本当に臨隊の調査に行くんやな…抗争とかトラブルに巻き込まれて大怪我せんといてな。」
「大丈夫です。俺がなんとかします。」
「気ぃつけてな。」
部長に一礼してから部室を出た。時刻はやっと午前6時35分だ。下足室へ向かい、下履に履き替えた。昨日雨が降ったせいか、靴の裏に固まった泥が付いている。パンパンと音を立てて泥を落とす。
俺は一度眠たい目を覚ますように空を見上げた。見上げた空は、世界に丁度朝を告げている太陽をより引き立てようと演出している。
臨隊、彼らの存在が俺にとって大切な存在になるとは当時の俺は思ってもいなかっただろう。