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第五話 楽しい魔界探検 その1

「で、どうしてトールとリーナもここにいるんだ?」

 出発の直前、親父が細かいことを言ってきた。何を言っているんだか。

「昨日俺が魔界の入り口に行くって言ったら、来たいって言うから連れてきた。問題あったか?」

 俺は親父に問いかける。親父は溜め息を吐く。ヒースさんは頭に手を当てている。頭痛がするのだろうか。今日の討伐に支障ないといいけど。

 そんなことを考えていると、にこにこした母様が答えた。

「大丈夫よ~。ただ、三人とも私の言うことをちゃんと聞くこと。それが守れるなら問題はないわ~」

「お、おい、ソフィア」

 親父がちょっとうろたえている。俺は二人に目配せした。

「父はソフィアさんが居るなら大丈夫だと言って送り出してくれました」

「うちの親はどれくらい今の力が通じるか試してこいって言ってたよー」

 トールとリーナがそれぞれ答える。家族の雰囲気が感じられる答えだ。俺たちは親父をじっと見つめる。

「はあ、わかった。その代わり三人はなるべく一緒に行動すること。それとソフィアの言うことは絶対に聞くこと。今日行く深さなら、ソフィアと一緒に居れば何が起こっても大丈夫だろうからな」

 じゃ行くぞ、と親父は魔界の入り口まで走り出す。

「それじゃあ私たちも行くわよ。死なないように離れずついてきてね。ヒースさんも、行くわよ」

 そう言って母様も走り出す。見た目お嬢様っぽいぽわぽわした走り方なのに、なぜかとても速い。あの技術すごいな。

 俺たちは言われた通りついていく。ただお喋りしながらだが。

「なあ、お前たちはどれくらい近くまで行ったことある?」

「僕はそんなに近くまで行ったことはないよ。村から少し行ったとこまでかな」

「あたしは入り口の入り口付近まで連れてかれたことあるよー。なんかすっごい魔素が濃い場所で魔物の気配がうじゃうじゃしてた。シアンはー?」

「俺はトールと同じ感じだな。母様から行っちゃダメって言われてたし。母様を怒らせるなんてまね俺にはできないからな」

 うん、間違いなく世界で一番怖いのはドラゴンや魔王ではなく母様だと思う。とある事件の際一度だけ母様を怒らせてしまったことがあるのだが、幼きあの日俺は二度と母様を怒らせないと誓ったのだ。

「じゃあ今日はみんな初めてだねー。魔物はどれくらい強いのかなー?」

「なんだか二人は気楽そうだね。でもいきなり特攻したりしちゃダメだよ。そういえばシアン、今日は何の魔物を狩りに行くの?」

「知らない。ヒースさん、何を狩りに行くんです?」

「お前らな……。魔物がいる森でどんだけ暢気なんだよ」

「だって親父が通った後は魔物が近づこうとしないんだもん、それに母様もいるし」

「そうだけどよ。まあこの村のやつに常識を説いても仕方ねえか。

 それで今日欲しい魔物の素材はクリスタルゴーレムの魔石だ。なんでも手に入る無属性の魔石の中では一番使い勝手がいいんだが、なかなか数が揃わないらしくてな。普通の魔物の領域にはいないからしょうがないんだが、冒険者に頼んでダンジョンに潜らせて大量に狩らせるより、この村に来て魔界の入り口で狩ってもらう方が手間も時間もかからないってわけだ」

 ゴーレムか。俺が一番相性の悪そうな相手だな。

「あー、あいつの体の透明な石ってきれいだよねー」

「それじゃあ僕たちの攻撃はあまり通りそうではありませんね」

 二人は目的を聞いても全然驚いてない。まあ俺もだが。だって普通にそのゴーレムの欠片が漬物石代わりとかに使われてるしな。

「本来ならそのきれいな体も持って帰りたいところなんだがな、重いしかさばるから今回はなしだ」

「それで、どれくらい必要なんですか?」

 トールがおじさんに訊ねる。

「まあ十個もあれば十分なんだが、今回はソフィアがいるからな。百個くらい頼んでおけばしばらく困らないだろうからそう頼んでいる」

「結構多いんだな。夕飯までに間に合うのか? それとそのゴーレムは魔法が効きにくいって習ったんだけど」

 気になったことを聞いてみることにする。

「普通ならな。だがソフィアに常識は通用しないんだ。多分探すのも倒すのもあっという間じゃないかな」

 なるほど。やはり母様は化け物なんだな。

「こらこら、子供たちに変なこと教えないの。それにクリスタルゴーレムは一定以下の強さの魔法が効かないだけで、ちゃんと工夫すれば楽に倒せるんだから~。

 それと、三人は手頃そうなの見つけたら片っ端から攻撃していいわよ~。ぐずぐずしてたら私がやっちゃうから、やるなら速攻でね~」

「「「は~い」」」

 攻撃していいのか。俺の今の実力がどれだけ通じるか試せるチャンスだ。母様がいるから万一怪我しても大丈夫だしやってみよう。

「(やっぱこの村の住人はおかしいわ)」

 ヒースさんの心の呟きはまたしても誰の耳にも届かなかった。

 魔界の入り口の入り口に着くと、既に親父が待っていた。

「遅かったな。今回は人数が多いのと狩る数が多いから二手に分けるぞ。俺とヒースが二人で奥の方で三十ほど狩るから、ソフィアは子供を連れて近場で七十ほど狩ったらここに集合してくれ。何か質問は?」

 何かがおかしい気はするが、すぐにわからないってことは大したことじゃないんだろう。

「あなたとヒースさんで三十も見つけられる?」

 母様が不安そうに訊ねる。致命的な何かおかしな点がある気がする。ヒースさんが変なものを見る目で両親を見てるのがその推測を加速させる。だけど何がおかしいのかわからないので気にしないことにする。

「それもそうか。じゃあ腹が空いたら昼飯を食べに一旦ここに集合するか。その時点でどれだけ狩れたかで午後の予定を決めよう」

 親父があっさりと予定を変更する。母様もそれならと笑って頷いている。うん、魔界の入り口での狩りってこんなものか。

「じゃあしゅっぱーつ!」

「「「しゅっぱーつ!」」」

 親父の声に合わせて俺たちが声をあげる。それじゃあ初めての魔界の入り口での狩りに出発だ。


 魔界の入り口とは深い谷へと続く、大きくて広い洞窟のようなものだ。奥は魔界へ続くと言われており、異常に魔素が濃くここでは常に大量の魔物が産まれているらしい。それと中は壁や天井がぼんやりと明るく光っているので松明などは必要ない。

 入り口に入ると親父はヒースさんの首元のあたりを掴んでさっさと奥へと消えていった。ヒースさん、がんばれ。

 そして俺たちはというと、てくてくと母様の後をついて歩いている。

「あっちの方にいそうね~。みんなはぐれないようについてきてね~」

 母様はまるでバスガイドさんみたくにこにこしながら俺たちを先導している。だが俺たちから少し離れたところでは魔物の大虐殺が行われていた。

 母様は常に極細の氷の針を頭上に待機させ、敵が見えた途端に針を放って魔物の命を一発で刈り取っている。サーチアンドデストロイってやつだ。

 ここの魔物は地上に比べてだいぶ強いって話だが、母様が一方的に殺しつくしていることには誰も触れない。聞くだけ無駄だからな。それと魔石や素材の回収はほとんどしていない。母様いわく、レアなもの以外いつでもここに来れば手に入るし飽きるほど倒すからいちいち拾っていられないらしい。

 だがここでトールが疑問をぶつけた。

「どうやってゴーレムの位置を探索しているんですか?」

 なるほど、たしかに気になる。

「それはね、魔力の感知領域をぐぐ~っと広げると、どんな魔物がどこにいるのかわかるようになるのよ~」

 そうだったのか。試してみる。できない。

「母様、俺にはまだ難しいみたいです」

 俺はしょんぼりしながら報告する。

「そうね~。これは才能と慣れが必要だからまだあなたたちには難しいかもね~。多分トール君なら成人する頃にはそこそこの広さまでわかるようになるんじゃないかしら~」

 なぜ俺とリーナが除外されたのか気になるが、あえて聞かないことにする。その内できるようになって母様を驚かせてやる。

「それとあなたたちは大人しいわね~。もっと攻撃してくれてもいいんだけど。」

「ソフィアさーん。もう少し近づくまで攻撃待ってくれるー?」

 リーナがお願いしている。ちなみに子供は誰も母様をおばさんなどとは呼ばない。

「あら、ちょっと遠かったかしら~。じゃああなたたちが攻撃するまで待っててあげるわね。強そうなのは先に倒しておくし、向こうから攻撃されそうになったらフォローするから安心していいわよ~」

 母様はリーナのお願いを快く承諾してくれた。よし、さすがにさっきまでの50mくらいの距離だと攻撃できなかったけど、母様が待っててくれるなら飛び出してみよう。

 そして少しすると魔物が曲がり角から現れた。その瞬間俺は飛び出す。最初から全力だ。俺の後に続いて二人も飛び出した。そしてカエルが妙な形に進化したような魔物に俺は最速で迫り、短剣を振るう。

 しかし、俺が短剣を振るおうとした瞬間、カエルっぽい魔物がこちらを振り向き舌を伸ばして俺を突き刺そうとしたのが見えた。その光景をひどくスローに感じながら、俺は確信した。あっこれ死ぬわ。

 だが俺の予想は外れた。魔物が舌を伸ばそうとした瞬間氷の針が頭に突き刺さったのだ。それで魔物は絶命した。遅れて俺の攻撃が魔物に当たるが、ぬめっとした皮膚を薄く切り裂いただけだった。

 俺は先程の出来事を呆然としながら反芻した。遅れた二人も立ち止まってなにやら考えている。母様は俺たちに近付くと、優しい声で語りかけた。

「さっきのはちょ~っと油断しすぎたわね~。ただ速いだけの攻撃をしたら、誰だって簡単に反撃しちゃうわよ~。気配を消したり、フェイントを仕掛けて相手を誘導したり、相手が反応できない速度で攻撃したり、もっと工夫しなくちゃね~」

 母様は簡単に言うが、それを簡単に言うのは何か間違っている気がする。だた非常に正しいことを言っているのも事実なので、俺たちはその言葉を胸に刻み込んで必死に頭を使い始めた。

「次、火が効きそうな相手ならあたしが最初に攻撃してもいい?」

「飛んでるやつとか雷が効きそうなら僕が攻撃したいんだけど」

「俺の攻撃でも効きそうなやつがいたら先手はもらう」

 俺たちは口々に自分の意見を言って誰が次に攻撃するかでもめた。自分の攻撃がどうやったら通用するか早く試してみたくなったのだ。

「あらあら。そんなに慌てなくても魔物はたーっくさん出るから心配しなくていいわよ~」

 母様のそんな言葉を聞きつつ、なんとか順番を決めることができた。とりあえず二人が魔法をぶっ放すから、俺はそれを避けつつ突っ込むことになった。だいぶ適当だが、どんなことが起こっても母様が対処するだろうと思っているので、今はそれに甘える形だ。いつかは一人でここに来れるくらいにならなきゃな。

 そして次の獲物が現れた。蝙蝠のような奴が上から様子をうかがっていることにトールがいち早く気付き、電撃を放つ。一歩遅れてリーナが魔法を放つ準備をし、俺は周囲を警戒しつつ落ちたところを攻撃するため落下予想地点に走り出す。

 トールの電撃は蝙蝠の魔物に命中した。ダメージとしては表面を軽く焼く程度だったが、トールの目的は相手を麻痺らせることだったらしい。魔物が力なく墜落していく。

 そこをリーナが圧縮した火球が襲う。狙いが少し逸れて当たったのは片方の翼だけだったが、見事に貫いて飛べなくすることに成功する。

 魔物は攻撃した二人に向けて敵意を露わにして残った手足で跳びかかろうとするが、その瞬間俺の短剣が魔物の首元を撫で切る。どうやら魔物はそれでのどをやられたらしく、首から大量の血液を流しながら力尽きて倒れた。

 ふぅー。なんとか倒せた。どうやら相手とこちらの工夫次第では俺達でも倒せるようだ。

 先程の攻撃では、トールは速度と相手の動きを止めることを意識した雷魔法を使っていた。リーナは相手が頑丈でも貫けるように貫通性を高めるように工夫していたようだ。

 そして俺は自分の発する音が空気中を伝播しないようにして音を消し、同時に風で覆うことで匂いがしないようにし、さらに空気の密度を変えて俺を認識しづらくする迷彩もどきを使って相手に接近。そして攻撃する瞬間に魔法を解いて剣で攻撃するのに魔力を集中させて攻撃した。ついでにその後血を浴びないように風で防護しつつ素早く魔物から離れた。

 短時間で色々試してみたが、魔物を倒すという目的を果たすのには成功した。もう何度か試してみないとどれほど効果があったかはわからないが、悪くないかもしれない。ただ問題なのは音を消したら周りの音も聞こえなくなったし、匂いもわからないし、そしてとても見づらくなった。さっきは最初から相手がどこにいるかわかっていたから何とか攻撃に成功したが、これはなんとかしないとまずいな。そうそううまい方法は見つからないか。

 だがとりあえず魔界の入り口の魔物初撃破ということで俺たちは三人でハイタッチして勝利を喜んだ。母様は微笑ましい様子でそれをにこにこしながら見ている。

「どうやら三人とも少しは工夫できたみたいね。でもまだまだやれることはたくさんあるから、今日の内に色々試して見なさい。きっと自分に合う方法が見つかると思うわ~」

 そう言って先へと進みだす。こうしてクリスタルゴーレム狩り改め母様による俺たちの実践訓練が始まった。


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