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第四話 明日はピクニック

 あの祭りから時間は過ぎて六歳になると、学校の実技の授業で実戦形式を行うようになった。最初の授業は、5mほどのトカゲのような魔物であるレッサードラゴンを一人で倒すことだった。トールは相手の攻撃を完璧に防御しつつ剣で確実に攻撃を加えることで完封した。リーナは大剣で思いっきりぶっ叩いて一発だった。

 だが俺はというと短剣でいくら攻撃を加えてもダメージが通らなかった。それに風魔法も俺の苦手な遠距離攻撃ではダメージが通らない。なので仕方なく相手の体に飛び乗って地道に窒息させることにした。超絶地味だったが結果だけ見れば素材に傷を付けずに倒せたので高評価だった。だがあんな危険なロデオは二度とごめんである。ただその俺の思いは届かずその後も何度か似たような魔物相手に同じ手段を取らざるを得なかった。悔しい。

 魔法の方はあの祭りの戦い以降も順調に上達はしてると思うが、相変わらず遠距離は苦手だし、風以外の属性はうまく使えない。どうやらこのまま超近接型の風魔法を使いこなしていくしかないのかもしれない。

 だが村長の言っていた魔法陣の授業が八歳になれば始まるので、戦術の幅の増加についてはそちらに期待することにしている。どうやら魔法陣とは構築することさえできればかなり多様な魔法を自分の適性問わず使えるらしいのだ。さすが村長が自慢する技術なだけはある。

 ということでしばらくはこれまで通りときにまじめに勉強し、ときに実戦形式で技術を身に着け、ときにいたずらをして怒られと、退屈しない日々を過ごしていた。だがほとんどの面で俺よりもリーナやトール、もっと言えば先輩も後輩もだが、他の子供たちが俺より魔法能力が高く頭も良くて体術もこなせる、というのはどうにかならないのだろうか。

 特に後輩の引っ込み思案なオドオド系女の子が軽々と大鎌を振り回したり魔法をぶっ放すのを見ているとすごく不安になってくる。俺って戦う才能ないのかな。でも勉強面も普通に六歳児が微積の問題を解いてるし、もしかしてこの世界ってこのレベルが普通なのかな。だとしたら……いや、これ以上考えるのはやめよう。

 それほど大きなイベントもなく七歳になって少し経った頃、朝早くに大きな音がしたので目を覚ました。何か重いものが墜落したような音だ。だが両親が特に慌てていないので、俺も気にするのをやめて二度寝した。

 そして朝飯を食べていると、急に家の扉が開かれ知らないおじさんが入ってきた。

「おう、カイン。それとソフィア。久しぶりだな。おお、そっちの坊主がシアンか。カインに似なくて良かったな。あ、これはおみやげだ」

 どうもイケメンなのに豪快さがにじみ出るちょっと残念なおじさんのようだ。見た目は金髪に緑の目でもうちょい若ければ王子様って感じがするのに、何かが違う。

 そんなおじさんの登場に両親は驚かずに普通に挨拶を返していた。おそらく朝の大きな音で気付いていたのだろう。外をうかがうと、大きな翼を生やしたトカゲっぽいのがむしゃむしゃ肉を食べているのが見えた。あれに乗って来たのかな。というかあれ、もしかしなくてもドラゴンじゃないか。もっと近くで見てみたいがとりあえず挨拶するように言われたのであいさつすることにした。

「初めまして。ソフィア母様の息子のシアンです。ついでにそこの悪人面の息子です。どうぞよろしくお願いします」

「おう、カインの息子の割に礼儀正しいな。そういえば転生者だったか。俺の書いた異世界人用の手引書は役に立ったか?」

「あなたがあれの作成者でしたか。どうも、おかげですぐに自体の把握ができました。あなたも転生者なのですか?」

「ああ。といってもあんまり記憶はないんだがな。だがおかげで子供の頃は頭がいいって誉められたぜ」

「そう、なのですか? 俺はここでそのように感じたことはないのですが。これはもしかして俺のいた世界ってものすごい低レベルだったのでしょうか」

「いやあそんなことはないと思うぞ。ちょっとこの村は頭がいいやつが多いだけで、それについていけてるなら十分頭の出来はいいと思うぞ」

「そうよ、私なんてシアンちゃんの教科書見てもちんぷんかんぷんだもの」

 なんと、衝撃の事実発覚。母様はこの村出身ではなかったのか。くそ、この親父こんな美人の母様とどこで仲良くなりやがった。

「なんで俺が睨まれてるのかさっぱりわからんが、シアン、お前も十分頭はいいから気にすんなよ。この村がちょっと特殊なだけだ」

 こうして俺はこの世の理不尽について考えつつ朝飯を食べ終わると早速おじさんに質問してみることにした。というかこのおじさんの名前なんだっけ。

「自己紹介が遅れたな。俺はヒースだ。よろしくな」

「はい、ヒースさん。それで、良ければなのですが、あのドラゴンさんは近くで見ても食べられたりしないでしょうか」

「大丈夫だぞ。ケヴィンは頭がいいからな。悪さしなければ攻撃したりはしない」

「それは剣で叩いても怒らないと解釈して大丈夫ですか?」

「どうしたらそう解釈したのか気になるが、剣や魔法で攻撃するのはやめてあげてくれ」

「じゃあ鱗を剥ぐのは」

「それもだめだ。おい、カイン。お前どういう教育してるんだ」

「魔物は狩るものっていうのがこの村の認識だからな」

「やっぱこの村おかしいわ」

 ということで俺はドラゴンのケヴィンの所へ見学しに行った。だがそこには既に俺以外の子供たちが集まって遊んでいた。おお、滑り台代わりにするのは楽しそうだ。だけど無理やり口を開かせて中を見るのは危ないんじゃないかな。ケヴィンも困ってるし。

 ということで子供たちに名前がケヴィンだということと、攻撃しちゃダメなことをしっかり伝えてから俺はケヴィンと遊ぶことにした。なぜだろう。20mくらいあるドラゴンとの初接触の際の選択肢がまず遊ぶだったことに疑問を挟めない自分に驚きを感じる。そうか、俺もだいぶこの世界に慣れてきたんだな。

 そうして遊んでいたが、しばらく遊んでいるとお昼の時間になったのでみんな家に帰ることになった。子供はお腹に正直なのだ。

 俺が家に帰るとヒースさんは両親と仲良く歓談していた。どうやらうちの両親とかなり仲が良いらしい。

「ねえ、ヒースさんは親父と母様を取り合った仲とかじゃないの?」

 気になったので訊いてみた。

「はっはっは。面白いこというな、シアン。

 残念だが俺が出会ったときにはすでにソフィアはカインにベタ惚れだったからな。そういうことにはなってねーよ。まあカインの方は気付いてなかったみてーだがな」

「ちょっ、ヒース、てめえ息子に何てこと教えてやがる。というか普通こんな美人がこの面に惚れるなんて考えもしないだろうがよ」

「あら、私はあなたの凶悪そうな顔も好きなのに」

「凶悪そうな顔ってのは否定してくれないのか……」

 仲良く漫才を繰り広げている。

「じゃあどうやって知り合ったの?」

「ん~。二人がうちの家の従業員だったって感じかな。結婚を機にカインが故郷に帰るっていうんで二人してジェンド村に引っ越しちまったがな」

「えっ? この二人がまともに働けた……いえ、なんでもないです。じゃあヒースさんの家は商家かなにかなの?」

「ちょっと違うが、まあそんな感じだ。カインは護衛の隊長って感じだったな」

「へ~。そんなに強かったんだ、親父。それとも顔で選ばれたの?」

「ちゃんと実力だよ! シアン、お前俺のことをなんだと思っているんだよ」

「ジョーダンダヨジョーダン。それじゃあ、何か他に面白いエピソードってある?」

 などなど。ヒースおじさんから両親の昔話を聞きながら楽しい昼食を終えた。

「へぇ~。親父は変な人に集られる達人なんだね」

「おうよ。特に何もしてないのに十人以上の異世界人や転生者と知り合いなんてやつぁなかなかいねえと思うぞ。ちなみに変なやつってのにはシアンもソフィアも入っているからな」

「ヒースさんもね」

 こんな感じで俺が仲良く食後のお茶を飲みながら話していると、親父が訊ねた。

「ところでヒース、今日は何の用でここに来たんだ? 手紙では今日来るなんて聞いてなかったが」

 そう言うとおじさんは困ったように笑いながら答えた。

「実はな、急遽魔物の素材が大量に必要になってな。迅速に大量の素材を集められるのがこの村だけで、ここまで短時間で来れるのがケヴィンに乗れる俺だけだったから、俺が直接来ることにしたんだ。仕事さぼりたかったしな」

 最後のセリフはボソッと言ったが、きちんと聞こえてしまった。まあ大人はそういう時もあるよな。

「ケヴィンあんなにいい子なのに他の人は乗せないの?」

 さっき子供たちがずいぶんと簡単に乗り降りしていたのだが。

「まあ普通はさすがにドラゴンを見かけたら逃げるからな。この村ではそうじゃないようだが。それとケヴィンはある程度の実力がないと認めないし、悪意を持ったやつに敏感だからな。他にも乗れるやつもいるんだがタイミングが悪くてな。今は俺しかいなかったのさ」

「ふ~ん。そっかあ。」

 おそらく大人の事情的なやつなんだろうな。てことはヒースさんは結構偉い人なんだろうな。同格のひとは敵が多くて、他は基本部下だからお偉いさんのペットには簡単には乗れないと、そんなところだろう。

「それで、その素材はこの村にあるの?」

「いや、最初に村長の所に行って確認したんだがな、ほとんどそろってたんだが一種類だけ今はその素材の在庫が少なくて、取りに行かなきゃならんらしい」

「それって魔界の入り口に行くってこと?」

「そうなるな。ということでシアンからは明日この二人を借りたいんだが、問題ないか?」

「う~ん」

 ちらりと親父の方を見てみる。

「はあ。シアン、もしかしなくとも、着いていきたいと言うつもりなんだろ」

「ダメ?」

 必殺子供の泣き顔プラス上目遣い!

「いいえ、大丈夫よシアンちゃん。私が付いててあげるから、なにも問題はないわ。そうよね、カイン」

「あ、ああ。ソフィアがそうしてくれるなら俺も安心だ。いいか、シアン。母さんから離れちゃだめだからな」

「は~い」

「(……人類の絶望の象徴である魔界への入り口に七歳の子供を連れていくってやっぱりこの村はおかしい)」

 この時のヒースさんの心の呟きまでは俺には届かなかったようだ。よし、明日はピクニックだな。


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