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第二話 恋に落ちました

 俺は順調に成長していった。誕生日にはこれでもかと祝福され、近所の村人達とも親しくなり、言葉もしっかりと話せるようになり、修行だなんだと魔法技術も肉体もしごかれつつ楽しく過ごしている。そうして俺は三歳になっていた。

 今日は滅多に人前に出ない村長に三歳を迎えたことの挨拶にしに行くとのことで、ちょっとしたおめかしをしつつ普段は近寄らないよう言われている村長の屋敷に両親と一緒に向かっている。

「なあ、親父。村長ってどんな人なんだ?」

 俺はとりあえずどちらかというと実はまともな親父の方に質問する。

「そうだな、年齢不詳のクソババアかな」

 だが答えを聞いてもよくわからない。仕方なく実はまともじゃないきれいな母様の方に目線を向ける。

「そうねえ。かわいらしい人よ~」

 情報の不一致が甚だしい。これはどうやら直接会わないとだめそうだ。

ちなみに俺の容姿はありがたいことに母親似だと評判だ。名前の通りの水色のさらさらの髪と、栗色の瞳を持つかわいらしい子供だ。難点は目元だけは父親譲りの鋭い目つきをしていることだ。母様は金髪に青い瞳の美人さん、親父は黒髪に茶色の瞳の悪人面。見た目にそぐわずラブラブな二人の子供であることは間違いないので、どうやらこの世界では髪や瞳の色は遺伝しないらしい。

 遺伝しないのは得意な魔法の属性もそうらしく、母様は水系統と光、特に治癒が得意。親父は身体強化魔法と火魔法を少々。これだけ見ると脳筋親父と聖女な母様なのだが、実はバーサーカーな母と理性的な父という関係である。この世界はまことに不思議で満ち溢れている。それと俺の得意な属性は風系統だ。現在猛特訓中である。

 こうして世の中の不思議に思考を巡らせつついちゃいちゃしているカップルから視線を逸らしていると、村長の屋敷が見えてきた。蔦がはびこるまるでお化け屋敷のような古い洋館だ。

 親父は玄関でゴンゴンとノックをすると、返事を待たずにずかずかと入っていく。いいのか?

「村長―。かわいいかわいいシアンの顔を見せに来たぞー」

 そう言いながら目的地まで歩みを止めずに進む。どうやら村長の所まで勝手に出向くスタイルらしい。村長が適当なのか、村人が失礼なのか、どっちだろう。

 そして執務室のような部屋に到着する。勝手に部屋に入ると中は紙や色んなものでごちゃごちゃしている。こんな感じの教授室を前世では何度か見たことがあるな、と思っていると、手前のソファーで寝ていた人物が起き上がった。その瞬間俺の時間は停止した。

「おお、カインところの坊やが来るのは今日じゃったか。どれ? ほうほう、ソフィアに似てかわいらしいではないか。父に似なくて良かったのう。

 おっと、自己紹介がまだじゃったな。わしがこのジェンド村の村長の、ティアナトラ=ルーゼルイクスじゃ。」

 村長と名乗る人物が名乗りながらこちらを見てくる。両親は俺の背中をポンとたたき前に押し出す。どうやら自己紹介をしろと言いたいようだ。

 だが今の俺の頭にはそんなことは全く入ってこない。ただただ目の前の人物から目が離せない。

 親父が不審に思ったのか肩を揺さぶってくる。俺はハッとして一旦深呼吸するも、その荒い呼吸を抑えられぬまま言葉を発する。

「結婚してください!!」

 その瞬間場の空気が凍り付いた。


 今は村長の屋敷から家へと帰る途中である。ちなみにあの後俺は親父から「正気か!?」と両肩を掴まれて揺さぶられながら自分の精神状態を疑われた。母親は「あらあら」と言いながらにこにこしていた。そしてティア村長はというと。

「ほう、なかなか面白いやつじゃな。たしか転生者だったか。

 うむ、坊や、もう少しでかくなってからまた言ってくれるのを期待しておこう。

 それまで自分を精一杯磨いておくのじゃぞ」

 そう言ってくれた。これはもしかすると成人してからなら結婚してくれるというフラグなのだろうか。俺はその言葉に元気よく頷いてから、慌てて自己紹介をした。村長は笑いながら俺の頭をなでてくれた。どうやら礼儀知らずと怒っていることもなさそうだ。

 どうして俺がいきなりプロポーズしたかと言うと、ティア村長の見た目がどストライクだったからだ。そう、村長は腰に届くほどの長さのさらさらの金髪で、深紅の瞳が宝石のように美しい、慎ましやかな胸の少し小柄な美少女だったのだ。

 まるで自分の理想の女性が想像から飛び出てきたようなあまりの現実感の無さに驚き、俺は思わず結婚を申し込んでしまったというわけだ。ちなみにロリが好きなわけでは決してない。俺が好きなのは合法のじゃロリババアだ。いや、ロリが入っているのは童顔だとか小柄な女性という意味で、本来の幼い少女という意味は含まれていない。そして口調だけでもダメなのだ。長い時を過ごしているにも関わらず、幼い容姿を保ち、のじゃ口調の女性、という前世ではありえない存在が俺の好みなのだ。親父のババア発言とティア村長の親父への坊や扱いから村長がかなりの年齢なのは間違いない。それと俺は貧乳教信者だ。慎ましやかな胸、最高。ということでティア村長はまさに俺好みの女性だ。話してみた感じではまだ性格はよくわからないが、きっと良い人に決まっている。俺の直感がそうささやいている。

 っとと。今は俺の性癖はどうでもいい。今の俺はやる気に満ち溢れているのだ。ティア村長の言葉を信じるなら、このまま修行を続けて過去最強と言われるくらい強くなり、それでいて性格の良い好青年に成長すれば結婚してもらえるかもしれないということが大事なのだ。

 だが村長は結婚しているのだろうか。過去に結婚していたくらいであれば許容範囲である。だが現在も夫がいる場合はさすがに俺でも諦めざるを得ない。それにあんなにかわいらしい女性なのだ。仮に今は相手がいなかったとしても、俺が成人するまでの12年の間にたくさんの男がアプローチするかもしれない。ああ、今ほど自分が子供であったことが恨めしいと思ったことはない。早く、早く成長しなければ。

「おい。おい、シアン、落ち着け!」

 なんだ親父今は親父につき合っている暇はないのだ。いやむしろ早速稽古をつけてくれ。俺は少しでも多く修行して村長に成長した姿を見せねばならんのだ。さあ、早く。

「だから落ち着けって言ってるだろが!」

 俺の頭に親父の拳が降ってきた。痛い。幼児虐待だ。だけど少しだけ落ち着いてきた。そうだ、焦っても意味はない。効率的に、冷静に修行を重ねるのが大事なのだ。ありがとう親父。思った以上に俺は地に足がついていなかったようだ。

「少しは落ち着いたみたいだな。だがさっきの村長の言葉は気にするんじゃないぞ。ただの冗談だろうからな」

 なに、そんなはずはない。村長は俺にもう一度プロポーズをするまで待っていてくれると言っていたんだ。そんなことを親父に言われても俺は信じないぞ。

「いや落ち着いて考えてみろよ。あれは大人がガキに結婚してって言われた時によく言うセリフじゃねえか」

 うぐ、たしかに。そう言われてみるとそうなのだが。

「なあ、親父。村長は独身なのか?」

「あん? 気になるのはそこかよ。まだ、っていうか今までずっと独身だった気がするな」

「やっぱりすごい年上なのか?」

「ああ。俺のじいちゃんのじいちゃんの頃から村長をやってるって話だから、少なくとも百年以上は生きてるんじゃねえか?」

「そうか。この世界では不老な人間ってよくいるのか?」

「そんなわけないだろ。村長は子供の時に実験の失敗だか魔女に呪いをかけられただとかで年をとらなくなったって言ってたな。本当かどうかは怪しいが。というかお前本気でまた結婚を申し込むつもりか?」

「もちろんだ。12年経って立派に成人したらすぐにでもプロポーズする」

「はあ。まあお前の人生だ。好きにしろ。だがあれが村長の冗談の可能性の方が高いんだからな。あんまり期待しすぎるなよ?」

「あら、そんなことないわよ。シアンちゃんみたいなかわいい子にプロポーズされてうれしくないわけないもの。それにティアちゃんはいい子だし、私は応援するわよ、シアンちゃん」

「ありがとう、母様!」

 俺は母様に笑顔で感謝する。母様にもいっぱい魔法について教わらねば。

「いや、まあ、ソフィアがそういうならいいけどよ。あとシアン、なんで俺は親父呼びでソフィアは母様なんだ? せめて父さんって呼んでくれるとうれしいんだが……」

「親父は親父で十分だ。母様は美人だし、優しいし、やっぱり母様しかないな」

「あら、やっぱりシアンちゃんはいい子ね~。でもママって呼んでくれてもいいのよ?」

「それはちょっと恥ずかしいから。……たまにだけならいいけど」

「期待してるわ~」

 こうして仲良くお喋りしつつ俺たちは家へと帰っていった。


*****


 今日は久しぶりに面白いやつに会ったのじゃ。まさか会って一言目がプロポーズとはのう。さすがにちと幼過ぎるので冗談を言って終わらせたが……。あやつ結構かわいい顔していたし、ソフィアに似たらなかなかの美青年になるやもな。悪くないかもしれぬ。

 まあさすがに成長すればいつまでも子供なわしのことなど眼中になくなるじゃろ。そうしたらその時には今回のことをからかってやれば面白いかもしれぬのう。

 だがもし成長してもまたわしに好きと言ってきたら……。いや、そんなことはなかろう。つまらないことを考えてないで、また研究を再開するとするかの。


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