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神鳴る世界の転生者 -天壌無窮の英雄譚-  作者: 古葉鍵
第一章 鳳雛の目覚め
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第七話 僕と契約してマスコットになってよ!


 レナとの朝の一幕後、朝食を済ませた俺たちは裏庭にきていた。

 本当は一人で来たかったが、あんな事件があった直後でレナが俺に単独外出を許すわけがなかった。


 犯人は現場に戻る法則ではないが、自分のしでかした事はきちんと受け止める必要がある。

 やむなくレラムの老木を犠牲にしてしまった事もそうだが、雷皇鳥がきちんと死んだかどうかを再度この目で確認したい。

 あれだけの質量が焼けたのなら、灰や燃えカスなど何らかの痕跡が残ってるはずだ。

 そしてその推測は当たっていた。


「うわぁ……」


 こんもりと積もっている灰の山を見て、俺はあんぐりと口を開けた。

 大きさ的に、雷皇鳥の焼け跡のようだ。

 暴風で灰が散ってない事に疑問を覚えるが、燃え尽きる前に嵐が収まったりしたのだろうか。

 何にせよ傍迷惑なあの鳥が死んだのは間違いない、と安堵する。


 七面鳥のような焼け方もあり得ると危惧していたのだが、好都合な事に完全に燃え尽きている。

 炭化して形を残している物もないではないが、ごく小さい破片程度に留まっているので問題はない。


 俺が事後の状況をなぜそんなに気にしているかと言うと。

 雷皇鳥の巨体が原型をとどめて残っていたら、俺がレナに説明した嘘のアリバイがばれてしまうからである。


 まあ、老木が燃えただけにしては灰が多すぎるし、生えてた位置から多少距離も離れている。

 レナとてその事は訝しく思うだろうが、まさかこれが雷皇鳥の成れの果てだとは連想しないだろう。

 まして幼児でしかない俺に殺されたなど、想像の埒外なはず。

 大方、落雷の際に吹き飛んだ老木の一部が燃えたとか、そんな納得の仕方をするに違いない。


 隣で佇むレナの横顔をチラリと窺うと、神妙な表情で雷皇鳥の焼け跡を眺めている。

 その眼差しに不審や疑惑の色は含まれていないようだ。

 俺は内心ホッとして胸をなで下ろす。


「……イオ、私ちょっとレラムの木があった方を見てくるね」


 レナが沈んだ声でぽつりと俺に言った。

 きっとレラムの老木の喪失に胸を痛めているのだろう。

 エルフは木を大切にするから、無理もない。


「わかった。僕はもう少しここにいるよ」

「ちょっとだけ待っててね。すぐに戻るから」

「うん。でも無理に急がなくても大丈夫だよ」


 そう告げると、レナが申し訳なさそうに微笑んだ。

 俺を信用してないような物言いをし、それに対して気を使わせた事を後悔したのかもしれない。


 たぶん信用の問題というより、レナは俺が心配なだけなのだろう。

 あんな事があった直後なのだ。いつもより過保護なのは無理もないと思う。


 そんな事を考えながら離れていくレナの背中を見送っていると、灰山の方から砂の崩れるような小さな物音が聞こえてきた。


「……?」


 気になって物音の方へ近づいてみると、灰山の表面から妙なものが外に突き出ているのを発見する。


 ぱっと見、黄色の突起物がついた丸っこいふさふさ……のように見える。大きさは十センチ前後。

 なんぞこれ……?

 正体を見極めるべく、謎のふさふさに顔を近づけた瞬間。

 突然、ふさふさの表面に目のようなものが二つ現れた。


「っ!?」


 俺は意表を突かれて思わず仰け反ったが、視線はふさふさから外さない。

 それはふさふさの方も同様で、つぶらな黒目で俺の顔をじっと見つめていた。


 微妙な沈黙が両者の間に落ちる。

 それを破ったのは、ふさふさの方だった。


「チィ!」

「うわ、鳴いた!?」


 俺の小指の先ほどしかない黄色い突起物……どうやら嘴のようだ、から鳴き声を発したふさふさ。

 その正体は鳥の頭部だった。


 正体が露見した鳥頭は、灰山から抜け出ようとしてもがき始めた。

 するとあっさり灰が崩れて、鳥の全身が外に出てくる。

 そして崩れる灰に足を取られて体勢を崩し、灰山から転げ落ちた。


「チィィィッ!?」


 丸っこいせいか、ころころと転がって俺の足元までやってくる鳥。

 露わになった鳥の姿をよく見ると、まだ雛鳥らしい事がわかる。


 雛鳥はふらつきながら立ち上がり、頭を傾けて俺の顔を見上げてくる。その健気な仕草に、込み上げてくる感情があった。


 やだ、なにこの子すごく可愛い。


 腰を屈め、掴もうと手を伸ばすも、全く怯える気配を見せず。

 体の両側から抱えるようにして持ち上げると、「チィ!」と嬉しそうに鳴いた。


 両手をぽかぽかと暖める、小さな命の温もりに頬が緩む。

 俺は再び雛鳥を地面に下ろし、その外見を改めて観察する。


 大きさはバレーボールくらい。羽毛は黒っぽい灰色で、嘴と脚が黄色。畳まれた翼は小さく未発達で、体の丸みを助長している。


 さて、問題はこの雛鳥の出自や正体である。

 まあ薄々あれなんじゃないかなと気付きつつある訳だが。

 ずばり、この雛鳥の正体は――。


 俺が殺した雷皇鳥の生まれ変わりか!


 比較参考にと、あの夜に戦った雷皇鳥の姿形を思い返してみるが、どうにも印象が薄い。

 記憶に刻まれるだけのインパクトはあったものの、いかんせん夜闇と風雨で視界の通らない中での遭遇・戦闘だ。

 接触が瞬間的なものばかりだった事もあり、しっかりとその姿を目に捉える事はついぞなかった。


 かろうじて憶えてるシルエットは、首の長い白鳥型ではなく、鷹のような猛禽類に近いものであったと思う。

 体毛の色はどうだったかな……暗闇の中でお互い雷をぴかぴか光らせてたから、色覚が馬鹿になってた気がする。

 名前のイメージだと黄色とか金色、あるいは白とかだろうが、たぶん違う気がする。

 一度目の接触のとき、雷皇鳥の姿は至近まで見えなかったし、闇に紛れてた気がするんだよな。

 という事は、暖色系ではなく、むしろ暗色系……?


「チ?」


 ……コイツも体毛が黒っぽいな。

 やはり怪しい。

 どうやってアリバイを暴いてやろうか。


 ――そうだ!


 俺の灰色の脳細胞が画期的な検証方法を思いつく。


 俺は右手の人差し指をそーっと雛鳥に近づけ、雷精に指令を出す。

 脳裏に浮かべるのは静電気のイメージ。


 指先でぱちっ、と小さな火花が散る。


「チ? チチッ!」

「おおっ」


 雛鳥の行動はわかりやすかった。

 ごく微弱とはいえ、電気に驚きも怯えもせず、人差し指に近づいた。そして嘴で指先をつんつんとつつく。


「電気をくれって?」

「チッ!」


 興が乗って質問すると、まるで返事をするかのように鳴く雛鳥。

 その反応をイエスと受け取った俺は、とりあえず先ほどと同程度の電気を継続的に放ってみる。


「チ~~」


 雛鳥は間延びした鳴き声を漏らしながら、目を半眼にして心地よさげに電気を浴びていた。


 これはもう確定だ。

 やはりコイツは雷皇鳥の雛鳥なのだ。


 確定した重い事実が俺の肩にのしかかってくる。


 まさか、危惧していた事が現実のものになろうとは。

 まあまだ小さいし、刷り込みなのか俺に懐いたっぽいし、復讐されるとかはなさそうだ。


 しかし眉唾だと思っていた伝承や伝説もなかなかどうして馬鹿にできない。

 鳳凰の雌だとか、その血を飲めば不老不死になれるという説も事実である可能性がある。


 てことは、コイツを食えば俺は明日から超人になれるかも……。


「チチッ!?」


 捕食者の視線を感じ取ったのか、雛鳥が怯えたように鳴いた。案外賢いのかもしれない。


 まあ食うのは冗談にせよ、結論を急ぐ事でもない。


 俺は怯える雛に「ごめんな」と声をかけてから丁寧に持ち上げ、胸に抱えて立ち上がった。


 この雛を育てよう、という決意は驚くほど自然に固まった。


 殺してしまった贖罪に、とか、そんな感傷的な理由じゃない。

 単にこいつが気に入ったのと、ちょっとした仲間意識からだ。


 内容は違えど、こいつは俺と同じ転生体。

 次の生ではより幸せになって欲しい、と願わずにはいられない。


「お前の名前はそう……《千鳥(チドリ)》。今日からお前はチドリだ!」

「チィッ!」


 名前もすんなりと頭に浮かんできた。

 こいつがチーチー鳴いてるせいかもしれない。


 伝説の太刀《雷切》がそう呼ばれる前の刀名、それが千鳥。

 ならばいつか、コイツが成鳥になった後に雷切の名前を与えるのも一興というもの。


 さて、レナにはどんな説明をするべきか。

 千鳥の紹介と飼育の口実に頭を悩ませながら、俺はレナが戻って来るのをのんびりと待った。



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