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神鳴る世界の転生者 -天壌無窮の英雄譚-  作者: 古葉鍵
第三章 出会いのイト
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第三十五話 魔法授業 その三

予告より投稿が遅れに遅れ、申し訳ありませんでした。

なお魔法授業のお話が長引いたため、前話・前々話のサブタイトルを変更しました。


「あー、まあそれくらいはお安い御用だよ」

「やたっ、さすがイオ君、話がわかるっ!」

「でも、まずはお仕事(授業)の方を優先してね」

「だいじょーぶ、お仕事で手は抜かないから。それにどのみち、イオ君が魔力と魔法を最低限扱えるようになってくれないと研究はできないし。と、ゆーワケだから、ちゃちゃっと魔力の扱いを覚えちゃってねー」


 イイ笑顔でそう言って、キャルが俺の前までやってくる。

 おそらく実践のための手解きをするつもりなのだろう。


「イオ君、座ったままでいいから左手を出してもらえる?」

「あ、うん」


 言われた通り左手を前に差し出すと、キャルが握手するようにその手を握る。


「これからあたしの霊力を流すから、イオ君は左手の感覚に集中してて」

「了解」


 つまり体で覚えろって事か。

 座禅とか精神統一をして霊力の存在に気付け、とか指導されるよりは解りやすいな。


「それじゃいくよー」


 キャルが合図した直後、微かな冷感のようなものが左掌を侵食するように広がっていく。

 この感触が霊力なのか?


「なんか、冷たい……」

「うん。それが霊力だよ。このまましばらくこうしてれば、イオ君の霊識(ソウルジェン)が覚醒するはずだから」


 霊識が覚醒、ね。

 また気になるというか、初耳な言葉が出てきた。


 ……いや、まて。なんか聞き覚えあるなこれ。

 あ、思い出した。そういや傭兵ギルドで霊格測定した際、受付嬢のパトラさんが霊識圧(ソウルジェンス)って単語使ってた。

 そしてそれで更に思い出した。

 左手に感じる透徹とした冷たさは、霊格測定時に受けた感触と同じものだ、と。


「ちなみに霊識ってゆーのは、霊気や星気、魔力を感じ取るための霊的感覚の事だよ。魔法学以外では、霊体とか魂そのものの意味でも使われたりするけど」


 俺の表情から疑問を察したのだろう。キャルがそう補足説明してくれた。


 霊的感覚……略して霊感か。

 魔法使いになる為にはまず霊能力者になる必要があったようだ。

 なんて冗談はさておき、霊識については納得した。


 キャルに手を握られたまま、待つこと数分。

 冷感は掌から肘、二の腕へと徐々に広がっていった。そうして左胸の半ばまで到達した瞬間――。

 ドクン、と心臓が一際強く胸を打ち。

 体が、破裂した。


「ぅあっ!?」


 全身を襲った衝撃に驚愕した俺は、慌ててキャルの手を振り解いてペタペタと自身の体を触り、状態を確かめる。


 ……特に傷もなければ触れて痛むような箇所もない。

 しかし、体中に詰まった空気が激しく外へ吹き出しているような妙な感覚は続いている。


「うっわー、すっごい駄々漏れてるねー」


 その呑気な声に僅かな苛立ちを覚えるも、おかげで冷静に戻れた。

 キャルが落ち着いてるのは、この状態が危険なものではないと知っているからだろう。

 そう思う事で不安を押し殺し、平静を装って訊ねる。


「なんか妙な感じだけど……これが霊識の覚醒?」

「うん。空気みたいな何かが全身から流出してるでしょ? それはイオ君の霊気。霊識が覚醒・活性化した証拠だよ」


 うへ、やっぱりか。

 てか霊気がどんどん外に漏れてるってやばくない?


 不安が顔に出たのを見てか、キャルがクスリと微笑う。


「心配しなくても大丈夫。ある程度霊気を排出したら、霊識圧が外と均衡して流出も止まるから。身体や生命にも悪影響はないよ」

「そうなんだ……良かった」


 そうだろうとは思っていたが、識者の保証があるとないとでは安心感が違う。

 内心で胸を撫で下ろしていると、横から声がかかる。


『あにさま、すごい霊力です』

『織羽、わかるの?』

『はいです。織羽も巫術を修めてますから』


 そう言って、ニコッと笑う織羽。

 自慢したいという感じではなく、俺との共通項が増えて嬉しいといった感じだ。

 まあ魔法と巫術は別物だが、どちらも霊力を利用する(わざ)という点では一致している。その辺りに親近感を覚えているのだろう。


 ちなみに織羽いわく、巫術とは霊力を用いて道理を曲げる術らしい。法術とも言う。

 その効果や特徴は日本で言う陰陽術に近い。

 様々なものを操ったり、他者を呪殺したり癒したりできる。除霊なんかも得意分野だ。

 属性魔法と信仰魔法の良いとこ取りしたような感じだが、むろん比較して短所もある。

 まず〝無から有を生み出す〟的な事がほぼできない。また、実体のない物を操るのも不可能ではないが苦手らしい。

 例えば土や樹木に霊力を込めて操る事はできるが、何もない虚空に火や水を生み出したりはできない。物に火を着けたりはできるらしいが。

 属性魔法と較べて総評するに、性能は多様だが攻撃力に劣る、といった感じか。


 霊力を利用する巫術は俺にとって相性が良い。多様性に優れてる点も俺好みだ。

 魔法習得にある程度目途がついたら、織羽に教えを乞うべきか。


「……辺りの星気があっという間に濃くなったわね。まるで霊地にいるみたい」


 心なしかうっとりとした表情でレナが言った。


「霊地? レナも星気を感じ取れるんだね」

「ええ。エルフは生まれつき霊的感受性が強いの。当然、霊識も最初から開いているわ。それと、霊地というのは星気が特に濃い土地の事よ」

「へぇ……」


 開いている=覚醒している、という事かな?

 霊地はパワースポット的な場所という認識で良さそうだ。


「ねぇレナ、星気が濃くなったって、やっぱり僕のせい?」

「そうね。霊気はすぐに星気と同化してしまうから。イオが放出する霊気が多量すぎて、自然拡散が追いつかないのね」


 なるほど、体外に出た霊気は星気に変わるのか。

 また一つ勉強になった……って、あれ? 両者が混ざると魔力になるって話じゃなかったっけ。

 ……あ、そういや星気=無属性魔力でもあるのか。

 そう考えると一応納得はできるな。


「そうなんだ……星気が濃いと何か問題があったりする?」

「ううん、特に何も。むしろ心地良いくらいね」

「なら良かった」


 俺とレナは顔を見合わせ、お互いクスリと微笑った。


 そうこうしているうちに、霊気放出の勢いが徐々に弱まりはじめ……止まった。

 時間を計ってた訳じゃないが、結局五分くらい出っ放しだったな。


 霊気放出が終わった事で、早速キャルが話しかけてくる。


「ようやく落ち着いたねー」

「うん。……これで霊識圧? が、均衡したんだよね?」

「そ。具体的に言うと、急な覚醒で霊識がびっくりして全開で霊気を吐き出したけど、少しずつ状況に慣れてきて霊力の巡りを調整した結果、漏洩が止まった。って感じかなー」

「なるほど、解りやすいね」


 イメージ的には全開だった水道の蛇口を締めて、使用に適切な水量に調節したってとこかな。


「さてそれじゃ、次の段階にいこっか。イオ君、霊識の感覚に集中してみて」

「うん」


 霊気放出が収まった時点で、俺の霊識は新たな感覚器として機能し始めていた。

 俺は頷き、意識の焦点を内側に向ける。


「少し冷たい空気が体の中に満ちている感じがする……これが霊気?」


 体感的イメージとしては、寒い季節に深呼吸して肺が冷たい空気で満たされる感じに近いだろうか。

 まあこちらは、意識しなければさほど気にならない程度の冷感だが。


「そそ。霊気は本人の意思で操作できるから、試しに少し動かしてみるといいよ」

「分かった。やってみるね」


 ひとまず霊気が血液のように体内を巡るイメージを思い浮かべる。

 すると滞留していた霊気が動き始めたのか、霊識に僅かな刺激をもたらした。

 体内を冷気で擽られてる感じとでも言えばいいのか。

 新鮮というか未知の感覚である。


「出来たみたいだねー。じゃ、今度は霊気を外に出してみよっか。最初は利き腕の掌とか、人差し指の先から出すといいよ」

「了解~」


 キャルのアドバイスに従い、右手の人差し指に意識を向ける。

 今回も念じたままに霊気が動き、指先から触手を伸ばすようにしてゆっくりと体外へ出てゆく。

 その途端、霊気の触手がほのかな温もりに触れる。


「お……?」

「ふふっ、何か感じた? それが星気だよ」


 思わず声を漏らすと、キャルが訳知り顔でそう言った。


「へぇ、これが星気……」


 例えるなら、ぬるま湯に指先が包まれている感覚。

 さらに念じてみると、さして抵抗なく霊気を動かす事ができた。

 感触としてはやや質量のある空気といった感じだ。


「……って、あれ?」


 調子に乗って霊気を動かしていたら、徐々に星気の温もりが感じられなくなっていき。

 それに比例するように霊気の領域までもがどんどん狭まり、遂には跡形もなくなった。

 吸収というか、周囲から侵食されたような消え方だった。


「それはね、同化したんだよ。さっき、先輩も言ってたでしょ? 霊気と星気は同化しやすいって」


 俺が質問するまでもなく、すかさずキャルが答えを投げてくる。


 なるほどね。

 人の制御下にある霊気でも、外に出したら同化は免れないのか。

 体外で魔力生成する場合は、迅速な処理が必要そうだな。


「まぁ今はそれを気にしなくてもいいかな。まずは体内での魔力生成ができるようにならないとね」

「あ、うん。そうだね」

「というわけで、次は魔力生成のやり方を教えるね。でもその前に、イオ君は属性……元素についてどれくらい知ってるかな?」


 元素って言うと、火や水とかの事だよな。つまり自然科学の知識。

 であれば、この世界の誰よりもあると思うが。


「えっと、それなりには?」


 謙遜込みで答えると、キャルは頤に手を当てて思案するポーズを取る。


「うーん、それなりかー。……でもま、イオ君の事だから大丈夫だよね?」

「ね? と言われても……」


 何が大丈夫なのかさっぱりわからんし。

 困惑する俺を見て、キャルが苦笑する。


「魔力を生成するにはね、霊気に属性を与えてから、星気と同化させる必要があるの。で、そこで重要になってくるのが元素の知識。例えば火属性魔力を生成したいなら、燃え盛る炎のイメージを霊気に混ぜ込まないといけない。でも、ただ視覚的なイメージだけではダメ。火が何を燃料にして燃えているのか、肌に感じる熱は。そういった細部の具体性を伴ってないと、質の高い属性魔力は生成できないんだ」

「なるほど、それで……」


 イメージを補強、あるいは具体化するために元素の知識が必要という事か。道理だな。

 そういえば、元素の知識に優れる者を好むという精霊の習性もこれと似ている。何やら関係がありそうだな。


「さすがイオ君、理解が早いね。それじゃ早速、実践してみよっか。胸のあたりの霊力を意識しつつ、〝燃えている火〟をイメージしてみて」

「わかった、やってみるね」


 思い浮かべるのは……前世で一番目にする機会の多かったガスコンロの炎でいいか。

 ええっと、まずは燃料のガス。都市ガスだったから、メタンだな。

 炎の色はほぼ青。温度は一七〇〇~一九〇〇℃位だったはずだ。

 体感的な熱さは……知らない。てかあんな高温炎、触った事のある奴なんてまずいないだろ。蝋燭の火に興味半分で指を突っ込むのとは訳が違う。

 仕方ない、ここは溶岩の煮え滾るイメージでお茶を濁そう。岩をも溶かす熱さだよ、って事で。


 よし、脳内設定完了。いざ逝かん。

 胸部の霊力を少し動かしながら、ガス炎のイメージを流し込む。流し込む。流しこ……


「あづっ!?」


 俺は思わず悲鳴をあげ、片手で胸を抑えた。

 なんだ……これ……?

 まるで肺に熱湯を流し込まれたかのようだ。

 火傷しそうなほど胸が熱い。


「イオ!? 大丈夫!?」


 ガタン、と音を立ててレナが立ち上がり、俺のすぐ横で屈みこむ。


「イオ君、落ち着いて深呼吸して!」


 レナの行動とほぼ同時に、キャルの鋭い声が飛ぶ。

 俺はその言葉に従い、大きく息を吸った。すると少しだけ胸の熱さが和らぐ。

 俺は苦しみから逃れるため、喘ぐようにして深呼吸を繰り返す。そうしてようやく、我慢できる体感温度にまで下がった。

 はぁ……助かった。


「……これはどういう事? 説明して」


 苦境を脱した直後で声を出せない状態の俺に代わり、レナが剣呑な口調でキャルを詰問した。


「イオ君は今、どんな火をイメージしたの?」


 しかしキャルは直接的な回答はせず、俺に問うた。


「キャル!」

「……岩を溶かせる温度の、青い炎だよ」

「!」


 手を上げてレナの抗議を抑えつつ質問に答えると、キャルは目を見開いて驚愕を露わにした。

 それから肩を落とし、疲れた顔でため息をつく。


「はぁ……体内生成でそんな高温の炎を属性付与したら、そりゃそうなるよーイオ君。てゆーかぁ、どこでそんな〝青い炎〟なんて見たのかにゃー?」


 表情一転、目を細めて探るように聞いてくるキャル。


 まあキャルが訝しく思うのは無理もない。

 よくよく考えてみれば、科学水準の低いこの世界では、青い炎なんて目にする機会はまずないだろう。

 しかも岩を溶かせる炎って、見方を変えれば溶岩だ。そんな日常とかけ離れたものを、貴族とはいえ七歳の幼児が詳細に知っているのは流石におかしいと誰でも思うだろう。


「あー、えっと。僕には聖賢神様から与えられた加護があるから。結構色んな事を知ってるんだよ」

「! そっかー、納得。……だけど、イオ君ってほんとに何でもありだね」


 例によってアプロデウスの加護を言い訳に使ったら、キャルに呆れられた。

 そういやキャルには俺の加護の事をまだ話してなかったか。

 とはいえ、あんまりベラベラ吹聴するのも、自慢するみたいで嫌だしなぁ……。


今回でも終わりませんでした……(愕然)

次、次こそ魔法授業最終話です!(信用なし)

細かいプロット立てないからこうなるんだよなあ……(反省)


霊気と霊力はほぼイコールの意味ですが、文脈によって使い所が微妙に異なります。

また霊気が冷たい設定なのは単なるダジャレです。


ガスコンロ炎が青色なのは色温度ではなく、可燃ガスの化学反応に理由があります。主人公もその事については理解してます。

色温度法則では、赤より青の方が温度の高い炎なのは間違いありませんが。

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