第三十四話 魔法授業 その二
2017/10/04 サブタイトル変更
「魔力生成の手順については、後で実習で教えるから一旦置いとくね。理論の説明を先に済ませちゃいたいから」
実践は座学を終わらせてからという事か。キャル先生って意外と理論派だな。
俺は頷いて同意する。
「それじゃ、次は魔力を扱う上での注意事項ね。これは大事な話だからよく覚えておいて」
それまで飄々とした態度と表情で話していたキャルが、真剣な顔付きになって言う。
その常ならぬ様子に緊張感を抱いた俺は、思わずゴクリと唾を飲んだ。
「魔力はね、人や動物にとって有害なの。だから生成したらすぐに放出・具象化させるのが基本。あ、具象化っていうのは魔力を消費して魔法を発現させる事ね」
てことは、魔力を事前に生成貯蔵しておいて適宜使用、みたいなやり方はできないわけか。
そうなると、ありがちだが魔力量チートで俺つえーは無理だな。この世界の場合だと、原理的には霊力量チートか。
霊格数値的に考えて、たぶん俺の霊力量は超人級だろう。だが周囲の星気量や魔力生成速度がボトルネックになってしまい、魔法使い放題とはなるまい。
残念だ。
「まあ体外で魔力生成すれば肉体への悪影響は免れるけど。魔力容量が増せば増すほど霧散・中和速度も早まるからね。大量かつ長時間、魔力を体外で維持するのは現実的じゃないの。そうするくらいなら必要の度に魔力生成した方がずっと効率的かな」
ふーむ。
体内外での魔力運用の長短所を鑑みるに、魔力生成速度が魔法を扱う上での肝になりそうだな。
「あとこれは余談だけどぉ。魔力って、魔物にとっては活力源なんだよねー。だから貯めておけるし、上等な魔物だとバンバン魔法使ってくるよ」
な、なんだってー。
魔力量チートが魔物側の専売特許とは……ぐぬぬ。
「もっともそのせいで魔物には属性が固定されてる場合が多いの。水棲系なら水属性っていう感じにね。だから戦う場合は苦手属性の魔法で攻撃するといいかな」
ほほー、なるほど。
確かにRPGなんかでも敵の属性を把握し、弱点となる属性で攻撃するのはお約束だったしな。
魔力適性が高いのも、良い事ばかりじゃないってことか。
「ちなみにね。魔物ほどじゃないけど、魔導士や精霊使いにも似たような欠点があるよ」
なぬ、欠点とな。
しかも魔導士のみならず精霊使いにもだと?
私、気になります!
「大抵の魔導士には扱う属性に得手不得手があってね。具体的には魔力生成効率が属性によって違うって話なんだけど。例えば十秒間に火属性魔力は十生成できるけど、水属性魔力は三しか生成できない、みたいな」
要は適性の話か。
そういや魔法関係チートあるあるに、全属性魔法使用可能とか全属性適性高とかあったな。
「キャルも得意不得意があるの?」
「もちろん。あたしの得手は風と闇属性。どちらも上級ね。逆に苦手なのは光。こっちは下級までしか使えなくてしょんぼり。それ以外は全部中級かな」
風と闇が得意で光が苦手って、なんかキャルらしいな。
性格ってか人間性が適性に影響したりするのかね?
「へぇー、そうなんだ。光以外、全部中級以上だなんて凄いな。というか、魔法の級って属性毎だったんだね」
ヨイショ気味に感想を言うと、キャルが得意そうに胸を張った。その拍子におっぱいがゆさっと揺れる。
俺は眼福だが、レナの目付きがきつくなった。
「そだよー。ちなみに上級魔導士を名乗る資格が、上級属性二つと中級属性三つ以上ね」
「なるほど。魔導士の資格を認定管理してるのは魔導王国?」
「ううん、魔導士ギルド」
「魔導士ギルドかあ。ギルドにも色々あるんだね」
傭兵ギルドとどっちが組織として大きいんだろうか。
エトラニアには魔導士ギルドがなさそうなところを見ると、傭兵ギルドの方かな?
「ところで、精霊使いの欠点っていうのはどんなの?」
話が逸れてきたので、やや強引に元の流れに戻す。
「あ、その話もしとかないとだね。精霊使いの欠点も、基本的には魔導士と同じだよ。ただ、魔導士よりもそれが更に極端でね。精霊使いは、契約精霊の属性以外の魔力生成がうまく出来なくなるんだ。特に相性の悪い属性だと、魔力生成がほぼ不可能になっちゃう」
「えぇー……」
つまり俺の場合だと、雷以外の属性魔法の習得が絶望的って事か?
「精霊使いは契約精霊と霊力を共有するから、そういう弊害が起こるらしいよ?」
なるほど。そう言われると、頷けるものがあるな。
傭兵ギルドで存在位階測定した際、霊格数値には雷精のものも含まれていた。あれは恐らく、霊力を共有していた事が原因だろう。
天理浄眼の鑑定の方は、さすが最高神の加護だけあって個別判定できているようだが。
それでふと思ったけど。
霊力が精霊にとっての燃料で、霊格の高い俺とシェアしてるなら、そうそうガス欠にはならないんじゃね?
実際、雷精を使役してて何かしら負担を感じた事ってないし。
この推測が正しければ、つまり魔力量ならぬ霊力量チートが成立してるような状態だと言える。
素晴らしい。
最悪、属性魔法の習得を諦めてもいいやってくらいには気分が良くなった。
「ちなみに妖精族に属性魔法がほとんど普及してないのもそれが原因の一端。ま、わざわざ苦労して属性魔法を覚えなくても、精霊魔法の方が大概強いしねー」
あっけらかんとした口調で言って、キャルは軽く肩を竦めた。
己の専門である属性魔法を下げるような発言だが、卑屈という感じはしない。
本心では属性魔法が劣っていると思っていないからだろう。
「んー、でも魔導士は複数の属性魔法を使えるわけだから、応用力は高いんじゃないかな? 火力や出力では精霊使いに負けるかもしれないけど、臨機応変に戦える、対応できるのが魔導士の強みだと思うし」
単純に火力だけを望むなら、雷精の力だけで十分だ。
しかしそれじゃ力押ししか出来ない火力バカになってしまう。
そうじゃなく、どんな事態・局面にも対処できる力が欲しいから属性魔法を覚えたいんだ。
俺が自説を述べると、キャルが感心したような表情を浮かべた。
「さっすがイオ君、わかってるね! その通り、魔導士の本分は多様性や応用力にあるんだー。そういう意味では精霊魔法は対人向け、属性魔法は対魔物向けって感じかな」
「確かにね。僕もそう思うよ」
即応力が高く火力もある精霊使いは、戦士や魔導士相手に有利に戦えるだろう。だが単一属性しか扱えないために、属性耐性を持つ魔物が相手だと途端に不利になる。
その点、魔導士は複数の属性を使い分けられるから、魔物の弱点を突くような戦い方が可能だ。
つまりはどちらも一長一短だと言える。
「さて、それじゃそろそろ実践に移ろっか。まずは魔力を生成できるようにならないとねー」
座学は終了か。
まあ説明するだけなら屋内でやればいいわけだしな。
ここからが授業の本番だ。
……と、言いたいところだが。
「その前に、一つ質問があるんだけどいいかな」
「いいよー、何?」
「精霊使いは契約精霊の属性を除いて魔力生成が苦手って言ったよね。という事はさ、僕の場合だと雷属性魔法だけしか習得できなかったりする?」
もしそうなら、属性魔法を覚える意義がほぼなくなる。
無駄な努力とまでは言わないが、モチベにも関わるので確認しておきたい。
「んーん、そんな事ないよ。土属性は無理だろうけど、他の属性は大丈夫。初級魔法ならほぼ確実に習得できるよ。そこからは適性と努力次第。人並の才能と努力で下級、人並以上で中級まで届くかなーって感じ。ただ上級以上は……はっきり言って難しいと思う。イオ君ならあるいは、って気はするけどねー」
そっか。
それならそう悲観する必要はないな。
聞いた限りでは上級以上は天才の領域っぽいし、中級まで習得できるならとりあえず十分だ。
「良かった。それを聞いて安心できたよ」
「ふふ、やる気でた?」
「おかげさまで」
俺とキャルは顔を見合わせ、お互いニヤリと笑った。
しかしキャルはすぐに表情を変え、
「そうそう、今の話で言い忘れてた事を思い出したけど。あたし、雷魔法は使えないから教えられないんだ。ごめんね」
と、やや面目なさそうに言った。
「え、そうなの?」
「うん。ちなみに使えないのはあたしだけじゃないよ? ってゆーか、雷魔法を使える魔導士なんていないんじゃないかなー」
マジか。
雷精契約者のみならず、雷属性魔法の使い手までレアとは。
「そりゃまたどうして?」
「簡単に言えば、誰も雷属性魔力を生成できないから。そして雷魔法を使える者がいないと、研究もろくにできないから、雷属性について知識は増えず理解も進まない。結果、無知が原因で魔力を生成できる者が生まれない。そんなどうしようもない状況だから、だよ」
キャルは苦笑めいた困り顔でそう言って、軽く肩を竦めた。
「なるほど。とっかかりがないんだね」
全ての問題は、雷というか電気がこの世界の人々にとって卑近な存在ではない事にある。
火や水などとは違い、電気は簡単に生み出す事もその辺で手に入れる事もできないからだ。
雷にしても、光と音は体感できるが、それ以上の事を知る術はないわけだし。
まあさすがに静電気の存在は知られているようだが、それが雷と同質の物だという事までは気付けていない。
ベンジャミン・フランクリンみたいな科学者が現れでもしない限り、そう簡単に解明はされないだろう。
「そ。だからあたし、イオ君には期待してるの」
「それは僕が雷精使いだから、だよね?」
「うん。イオ君なら雷属性魔力を生成できると思うし。それにイオ君に協力してもらえれば、あたしも研究できるしねー」
さりげなく要望を混ぜ、最後にテヘペロするキャル。
ちゃっかりしてるなあ。
第三章は総じて閑話的な内容ばかりで盛り上がりに欠けるなあという気がしてます。まぁ今さらですが……
あと二、三話で三章が終わり、四章からは戦闘マシマシで盛り上がるはず。たぶん、きっと。




