第二十三話 目覚めと鑑定タイム
暖かくて柔らかな感触が手を包んでいる。
自分の手を誰かが握っているのだと気付き、目を開けた。
最初に見えたのはベッドの天蓋。
毎朝起きる度に目にする、見慣れた光景だ。
その事にほっとしつつ、視界の片隅に捉えた少女の名を呟く。
「……レナ」
ベッドの横に座り、両手で俺の左手を握っていたレナの顔がくしゃりと歪んだ。
今にも泣きそうな笑顔で、俺の上体に覆い被さってくる。
「――イオっ!」
勢いよく胸の上にのしかかられ、むぐ、と変な声が漏れる。
前にもこんな事があったなぁと妙な感慨を抱きつつ、役得とばかりにレナの肌の感触と体香を堪能する。
「無事に目を覚ましてくれて、良かった……」
俺の耳元でそう呟かれた声はやや湿っていた。
泣きそうになるほど心配してくれていたのだろう。その事に小さくない申し訳なさを覚えた。
しかし同時にそれだけ深く思われていると実感し、胸が熱くなる。
「……僕はレナを置いて死んだりしないよ」
ベッドから右手を引き抜き、レナの頭を撫でる。
彼女はわずかに身動ぎし、「……うん」と小さく呟いた。
なんか恋人っぽいやりとりだなぁと内心で感動しつつ、甘やかな空気に身を任せる。
数分ほどそうしてから、レナがゆっくりと身を起こした。その顔はやや気恥ずかしそうだ。
離れてゆく温もりに名残惜しさを感じつつ、俺もまた上半身を起こす。
ベッド脇のイスに腰をかけ直し、表情を改めたレナが口を開く。
「イオ、体は大丈夫? 痛いところとかはない?」
「うん。まったく問題ないよ」
「良かった。それを聞いて安心したわ……」
ほぅと安堵の吐息を漏らし、微笑むレナ。
「えっと、イオが平気そうなら話したい事がたくさんあるけど……まずはイオが目を覚ました事をシャルに報告してくるわね」
「あ、うん。僕も起きて着替えておいた方がいい?」
「ううん、病み上がりなんだから、無理はしないで。横になって待ってて」
「わかった」
了承すると、レナは軽く頷いてから立ち上がった。そしてやや足早に部屋を出て行く。
その後姿を見送ってから、再びベッドの上で仰向けになる。
ふぅ、とため息が思わず漏れた。
短い間とはいえ、一人で考えを纏める時間が持てたのは幸いだ。
この後、レナの知らせを受けて母さんが部屋にやって来る。多分だがリーンも。
単なるお見舞いだけで済めばいいが、おそらく事情説明を求められるだろう。
雷精の事もそうだが、両足が再生した件については必ず訊かれると見ていい。
どのように説明すべきか、どこまで話すのか決めておかないと。
「チチッ!」
あれこれ考えを巡らせていると、いきなりベッドの上に何かが飛び乗ってきた。
ぼふん、と太腿のあたりに軽い衝撃。
いったい何がと思って見れば、丸っこい灰色の毛玉。
ペットの千鳥だ。
そういやコイツの姿を見るのも久しぶりって気がするな。短い期間に色々あったせいか?
上体を起こし、両手で千鳥を捕獲する。
「神様に聞いたよ。やっぱオマエ、雷皇鳥で神獣なんだってな」
「チッ?」
千鳥は小首を傾げ、つぶらな瞳をこちらに向けてくる。可愛い。
これがそのうちラーミ○みたいな巨鳥になるのか……人を乗せて飛んだりできるかな?
益体のない想像をしつつ、千鳥を抱き寄せて撫でる。もふもふとした手触りが癖になる気持ち良さだ。
千鳥に癒されながら、ふと別の事を考える。
ザッカークを倒した……いや、殺した件についてだ。
初めての人殺し。
なのに、自分でも驚くほど罪悪感や生理的不快感が湧いてこない。
犯罪者であり父の仇というバイアスがかかっているせいか?
事後の実感としては殺人ではなく害獣退治のそれに近い。
酷い言い草だが、実際ヤツは善良な人々に害をなす存在なのだから仕方がない。
そんな害獣を駆逐するのも為政者の務めだろう。
我ながら冷徹というか、染まってきたなぁと内心で苦笑する。
まあ死んだり死にかけたりすれば考え方も多少変わるか。
あるいは日本人的倫理観を前世に置き忘れてきたのかもしれない。
殺伐とした思考を打ち切るため、窓の方に視線を移す。
外は快晴のようで、青空が広がっている。
部屋に射す光の角度からして、時間帯は正午前といったところか。
少し気分が明るくなったところで、手元の千鳥を見る。
千鳥は俺に撫でられるがままで大人しい。目を瞑り、心地良さそうな顔をしている。
そんな千鳥を見つめて、俺は聖賢神アプロデウスから授かった加護《天理浄眼》を発動させた。
「ほう……」
思わず感嘆の声が口から漏れた。
加護の効果と、それによって得た千鳥の情報に驚いたためだ。
加護《天理浄眼》で取得できた情報は、種族、名称、性別、年齢、霊格、構成強度、祝福・加護、称号、状態の九項目。
脳裏にRPGのステータス画面みたいなものが浮かび、一瞬でその情報が記憶に刻まれた。
なお千鳥の場合はこうだ。
《種族》神獣・雷皇鳥
《名称》千鳥
《性別》♀
《年齢》ゼロ
《霊格》一二七一二
《強度》十四
《祝加》
《称号》
《状態》人間族・《ライオット・エトランジェ》に従属
比較的簡素と言える情報量だが、参考情報としては十分だ。
特に霊格、構成強度、祝福加護を把握できる点が大きい。
相手の力量を判別する上で役に立ちそうだ。
それにしても千鳥の霊格数値がやばい。五桁て。
まさに神獣の名に恥じぬ破格の霊格。
今はいいけど、成長したら俺なんかより遥かに強くなりそうだ。
主人の威厳ががが。
さて、今度は自分の情報を確認してみよう。
こちらは視認する必要はなく、念じるだけで可能だ。
《種族》人種・人間族
《名称》ライオット・エトランジェ
《性別》♂
《年齢》七(+二九)
《霊格》二五〇五(+二八三七)
《強度》六五
《祝福》時空神ウルディポー《時※※※※累※》
《加護》戦冥神ルドヴァ《死命の超剋》
《加護》聖賢神アプロデウス《天理浄眼》
《称号》エトランジェの麒麟児
《状態》契約精霊《雷精・二八三七五〇体)
こ、これは……。
何というか、良くも悪くもツッコミ所満載だな。
まずは年齢。
(+二九)となってるが、これは前世の年齢だろう。
次に霊格。
(+二八三七)という数値の意味するところが解らず頭を捻ったが、《状態》欄を見てピンと来た。
これ、契約精霊による霊格補正数値なんじゃないかと。
契約精霊数百体につき霊格一と計算すれば数値の辻褄が合う。
人間にしては破格と言える俺の霊格数値の理由がこれで判った。
まぁ素の霊格数値も十分規格外なんだが……って、あれ。
霊格の合計数値、ちょっとおかしくないか?
傭兵ギルドで計測した時は、たしか五〇〇六だったはず。
現在数値は五三四二。
差し引くと三百以上も上がってるな。
なんでだ?
ザッカーク倒したからか?
可能性としては一番ありそうだが、上昇度合いが異常だ。
元の霊格が高いから、上昇値も大きいとか?
……うーん、霊格成長の法則がわからないと何とも言えないな。そのへん、詳しそうなリーンに今度聞いてみるか。
気を取り直して次、構成強度。
これもかなり上がってる。傭兵ギルドで計測した時は三七だったのに、今は六五。
上昇数値的には二八と、さほど大した事のない印象を受ける。しかし割合で見たら二倍近くに跳ね上がってるわけで。
この異常増加の原因は、加護の項目で見つける事ができた。
戦冥神ルドヴァの加護《死命の超剋》。
これの効果を端的に説明すると、○豆+某野菜の戦闘民族的能力。
具体的には戦闘で致命傷を受けた際に肉体を完全回復させ、構成強度を大きく引き上げるというトンデモ効果。
ただしヤラセや自傷、戦闘で手を抜いて故意に傷を負うなどの場合はダメらしい。あと即死も。
オマケに各種状態異常耐性まで付いてくる、まさしく神様チートな加護である。
最近、俺の身体能力が著しく向上してたのは、雷皇鳥戦で死にかけ、この加護で復活したからだと納得がいった。
そして今回、ザッカーク戦でも死にかけた。それでまた構成強度が大幅に上がったというわけだ。
最後に祝福と加護について。
時空神ウルディポーの加護は、名称と内容説明がほぼ伏字になっていて詳細不明。
祝福って事は生まれた時点から持ってたわけだが、それらしき恩恵を受けたり、効果が発動したような心当たりはない。本当に謎。
強いて言うなら最近のトラブル続きの件がそれっぽいかな……もしそうだったら祝福というより呪いだが。
戦冥神ルドヴァの加護はさっき読んだから除外。
聖賢神アプロデウスの加護《天理浄眼》は、端的に説明すると多機能な魔眼。そう、魔眼である!
某十四歳病患者の誰しもが追い求める異能を、ついに俺も手に入れたのだ!
冗談はさておき、もう少し詳しく解説すると。
鑑定+霊視+浄化+看破+解呪+破魔+状態異常耐性、となる。
補助的な効能ばかりだが、制限や使用条件が緩いので使い勝手が良さそうだ。
これもまた最高神の格に恥じぬ性能のチート加護と言えるな。
一通り情報の取得と整理を終えたところで、今度は物品に対して《天理浄眼》を使ってみる。
使用対象は俺のベッド。
さてどうなるか。
《種別》家具
《名称》天蓋付きベッド
《品格》普遍
《属性》
《特殊》
《状態》
お、出た出た。
ふむ、項目は六つか。
情報量が多いとは言えないが、不足というほどでもない。
《品格》項目がイマイチ解りにくいが、これはレアリティだ。
このベッドは普遍級。つまりどこにでもある品って事だな。
上から神格、伝説、国宝、貴重、普遍の五段階。
《特殊》は付与された魔法効果などだ。
《状態》は備考欄。破損してたり特殊な状態にある場合の情報が記載される。
興が乗ってあれこれ鑑定してたらあっという間に時間が過ぎ、レナたちが部屋にやって来た。
その時になってろくに考えを纏めてない事に気付いたが、後の祭りである。
天理浄眼の鑑定能力と、交商神ヘルメーラの加護による鑑定能力は中身が違います。
対生体では天理浄眼、対物品ではヘルメーラ鑑定の方が詳細な情報を得られます。以下ヘルメーラ鑑定の項目。
《種別》物品の種別(例:武具・剣、食品、消耗品等)
《名称》物品名称
《価値》適正価値(鑑定者在住地域相場)
《耐久》現在耐久値/最大耐久値 耐久値0で全壊
《品格》神格/伝説/国宝/貴重/普遍
《等級》一~十二級まで 級が少ないほど高品質
《属性》火・水・土・風・雷・木・光・闇
《特殊》特殊効果
《状態》備考欄。破損状態、呪われている等
天理浄眼で、ルドヴァの加護が見えてウルディポーの祝福が見えない理由は、神格の強弱が主な理由ではありません。
ウルディポーの力により隠蔽処置が施されているせいです。暗号化みたいなものですね。




