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神鳴る世界の転生者 -天壌無窮の英雄譚-  作者: 古葉鍵
第一章 鳳雛の目覚め
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第二話 あらしの昼に


 強風を受けてガタガタと振動する部屋の窓。そこから外の様子を眺めながら、嵐の到来を予感する。

 俺が住んでいるこの辺りは、温暖な気候と沿岸という地域性から、夏に入ると天気が崩れやすくなる。

 台風クラスの大嵐に見舞われる事も度々ある。そして、今回の規模はそれに匹敵しそうだと予測していた。




 嵐の訪れは、いつも俺の胸をざわつかせる。

 そういえば、《俺》が目覚めたのもこんな嵐の日だった。


 ちょうど四年前の今頃――三歳の夏だ。

 当時、俺は普通の幼児で、まだ物心もついてなかった。

 それがある日、眠りから目が覚めたら前世の記憶を取り戻した状態で、今の俺という人格になっていた。


 なお立花道雪の記憶を前世と定めたのは、俺なりの納得の仕方であって確定した事実ではない。

 憑依かもしれないし、何らかの理由で記憶だけ授かったという解釈もある。

 だがいくら考えたとて証明しようのない事だ。であれば、大事なのは俺がどう受け止めるか、である。


 後になって知った事だが、俺は海で溺れて意識不明だったらしい。それで目覚めたら前世の記憶が……である。

 死にかけて前世の記憶が甦る。小説などではありがちな展開だが、わかりやすい理由というか、切っ掛けと言えた。


 ちなみに俺が溺れた一件は、海賊に誘拐された俺を父さんが助けようとした過程で発生した事故らしい。

 しかも父さんは海賊との交戦の結果、船上から海に落ちて行方不明。必死の捜索も虚しく発見できず、死亡扱いになっている。


 それから暫くは大変だった。

 幼児の域を逸脱しすぎないよう、言動を自重したり。

 転生したこの世界がファンタジーな異世界である事に吃驚したり。

 他にも身分が貴族だとか、文明度が地球の中世レベルで生活が不便だとか、挙げればキリがない。


 ともあれ、さすがに数年も過ごせば環境に順応し、周囲との調和もそれなりに上手くいっている。


 前世ではこれといった志もなく、流されるまま毎日を生きていた。

 そのせいか、前世には多少の後悔があっても執着はない。

 唯一、残された家族のことが気がかりなくらいだ。

 

 ともあれ、転生という望外の幸運に恵まれて得た第二の人生。

 今度はしっかりと志や目標を立てて生きていこうと決めている。

 具体的には、前世における偉大なご先祖様のように、英雄として名を残す事を目指したい。

 そしてそうなれば、英雄色を好むの格言にあるように、魔法使いからの転職もできるだろう。




 目を凝らせば、遠くの洋上に巨大な積乱雲と、その下で稲光がちかっちかっと瞬くのが見える。

 風による雑音に紛れて雷鳴は聞き取れない。だが微細な空気の震えが窓ガラス越しでも何となく肌に伝わってくる感じがした。

 近いうちに強風は雷雨を伴う嵐へと変わるだろう。


「何を見ているの?」


 背後から聞こえた涼やかな声が、感傷めいた物思いから俺を呼び戻した。

 ゆっくり振り向くと、部屋の入り口近くに使用人のお仕着せを来た少女が立っている。

 彼女がドアを開けて入室してきた物音にすら気付かなかったなんて、どうやら相当集中していたらしい。

 我ながら子供のようだ、と内心で苦笑しながら、俺はメイド服姿の少女へ話しかける。


「遠い海上の嵐をね、眺めてたんだ」

「……それは、よくないわ。精霊に魅入られてしまうから」


 美しく整った顔に憂いを浮かべて、少女は心配そうに言った。


「あはは、エルフらしい言い回しだね、それ」


 自分の種族に対する誇りが強いのか、少女は「エルフらしい~」という言い方をされると喜ぶ。


「もう、真剣に言ってるのに茶化しちゃダメよ、イオ」


 むくれたフリをしているが、笹葉型の耳が普段よりやや下向いている。機嫌が良い証拠だ。


 少女が呼んだイオ、という単語は、俺の愛称だ。

 フルネームは《ライオット・フォン・エトランジェ》という。

 ライオットが名前で、エトランジェがファミリーネーム。その間に挟まる《フォン》は貴族を示す称号名だ。


 エトランジェ家は子爵位を持つ貴族の家系であり、俺はその継嗣という立場にある。

 かなり恵まれた境遇に生まれついたと言えるだろう。


 しかも転生による福音はそれだけではない。

 前世ではフツメンだった俺が、今世では金髪のイケメン様になっているのだ。いや、まだ幼児なのでイケショタと言うべきか。

 具体的には線の細い女顔で、女装したら違和感なく幼女に間違われそうなほど。このまま成長したらきっと中性的な容貌になるだろう。

 個人的にはトム・クルーズみたいな男性的美形が理想なのだが……まあそこまで望むのは贅沢か。


「ごめんなさい、レナ」

「はい、よろしい」


 素直に謝ると、少女はにこっと笑って許してくれた。

 まるで姉のような態度を取るこの少女の名前は《レンシエル》という。今ほど俺が呼んだレナというのは愛称だ。

 レナは俺の専属使用人というか、世話・教育・護衛を兼任する有能なメイドさんである。


 先ほどの話にも出たが、レナは人間ではなくエルフだ。

 エルフと言えば、長い寿命や線の細い美貌などで有名である。

 その設定というか、特徴はこの世界でも当てはまっていた。

 実際、レナの容姿はその通りで、笹の葉型の長い耳、白金(プラチナ)の髪に白磁の肌、そして小顔に収まる明眸皓歯。

 美の要素をこれでもかと凝縮した、特級の美少女である。

 更に言えば、肉付きの薄い四肢の細さや慎ましい胸元なども実にエルフっぽくてグッドだ。本人にそれ指摘すると怒られるけど。


 なお外見年齢的には十四、五歳と言ったところ。

 俺にとって最も古い記憶である四年前から容姿に全く変化がない。

 二十代らしいが、エルフの成長ってどうなっているんだろうか。


 なお、髪型はツインテール。これは俺の趣味、もとい懇願によるものだ。

 金髪少女にはツインテが俺のジャスティス。

 異論は認める。


「ところで、レナは僕に何か用だった?」


 傍付きとはいえ、自邸では常に一緒にいるわけではない。

 別の所にいたレナが俺の部屋にやってきたという事は、何らかの用件があるのだろう。

 ちなみに一人称が《僕》なのは、年齢を考慮しての事だ。


 俺が尋ねると、レナはぽん、と胸の前で両手を合わせた。

 何かに気付いた、閃いた、という時の彼女の手癖だ。

 ちょっとあざとい気はするけど、可愛いから許される。


「あ、いけない。そうだったわ。夕食の用意が出来たからイオに伝えに来たの」

「ああ、そういえばもうそんな時間だね」


 今日は午睡を挟んだためか、時間感覚がちょっと曖昧だった。

 前世のような機械式時計など存在しない為、時間の管理がなかなか難しい。


「それじゃ、食堂いこっか」

「うん」


 言って、レナがこちらに右手を差し伸べてくる。

 俺はとてとてと歩いて彼女に近づき、その白くほっそりした繊手を左手できゅっと握った。

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