クランフェス
レイリー達が長い間抱えた蟠りを解消して、百層から邪龍の素材を持って帰ると、ギルド庁舎で響めきが起こる。
百層踏破のその証は、ギルド庁舎に提示されると、そのままクランフェスへの参加証になる。
それはつまり、パラダイムシフトも、この国の列強の一つに数えられるようになったことを示す。
邪龍の素材を納めた数ヶ月後、ギルドから召集されたパラダイムシフトは、同封書類に記載してあった日時に、教会へ向かった。
▶︎▶︎
「長かったね…」
「そうだね…」
ウィールズギルドのギルドマスター、副マスター、アリアンテス商会の会長、アリアンテス国王代理が一堂に会した神殿に、クランフェス参加者が集う。
クランフェスとは、ダンジョンのタイムアタックの様な大会で、決められた期間でどれだけ深い層に潜れるか競い合い、優勝クランには莫大な報酬が約束される。
パラダイムシフトの面々も、八つのクランの内の一つとして、参列していた。
新進気鋭のクラン【パラダイムシフト】
アリアンテス最古のクラン【賢竜の牙】
少数精鋭派クラン【八岐大蛇】
メンバー数大陸一のクラン【ベヒモス】
情報が一切開示されてない謎のクラン【アヴァロン】
女性メンバーのみで構成された【大和撫子】
前回大会準優勝の【オラクル】
そして、常勝無敗のクラン【天軍の覇道】
各クランの代表メンバー四名で挑む大会。
神殿に集まった者達は必然的に、ダンジョンを百層まで踏破する実力の持ち主という事になる。
ピリついた空気の中、ギルドマスターや、商会長が挨拶をしていき、一際威厳に溢れる男性が登壇する。
「よくぞ集まってくれた、死を恐れぬ英傑共よ。」
その一言で空気が一気に張り詰める。
クランフェスに参加する者達に対する洗礼の様なものだろう、天軍の覇道や、賢竜の牙の面々は、涼しい顔を話を聞いている。
パラダイムシフトからは、レイリー、セシリア、アイリス、クーリアが出席していたが、レイリーはソワソワしていた。
大人数が背筋を伸ばして微動だにしない中、レイリーは一人ソワソワしていた。
凄く目立つ。
「貴殿らに設けられる期日は、明日から一週間、その間にどれだけダンジョンの深層に潜れるか競ってもらう。各クランの代表者には転移陣を配布しておくので、有事の際は使うといい。ただし、使用してダンジョンの入り口に設置した転移陣に帰ってきた時点で失格とする。ここまではよいな?」
全員が真剣な眼差しで頷く。
「ダンジョンの深層まで潜った証明に、魔物の素材を提示してもらう。より深層の魔物を討伐したものが優勝…という事になる。因みにこの転移陣を他クランに向け使用した場合は失格とする。よいな?」
全員が曇りなき眼で頷く。
「最後に…そなたらが勝利を掴む時、新たな時代の門が開かれよう!血液の一滴すら勝利の礎とし、凱旋の旗をこの地に突き立てよ!!」
「「「「オオッ!!」」」」
「…以上、副ギルドマスターからの挨拶を終わります。」
(お前国王代理ちゃうかったんか…)
▶︎▶︎
翌日、ダンジョンの入り口に各クランの代表が列を作る。
レイリーは、この大会における必勝法を思いついていた。
クランメンバーからは白い目で見られたが、目指すは最強、生ぬるい事など言ってはいられなかった。
「ね、ねぇ…本当にアレやるの…?」
「うん、まぁやるよね。普通。」
「ご主人様をこれ程までに恐れた事は未だ嘗てありません…」
「レイリー様、本当に宜しいのですね?」
「ああ…」
全員がスタートラインに着く。
緊張した表情や、笑みを浮かべる者、無表情な者…様々な感情が視線を交わす度に火花を散らす。
目指すは一番、それ以外は敗北だと言わんばかりに、静寂が辺りを支配する。
「それではクランフェスを開催します!」
待機していた魔法使い達が一斉に上空に向かって火の玉を放つ。
すると天高く飛翔した火球が轟音と共に炸裂する。
「はじめ!!」
ギルドマスターの掛け声と共に一斉にダンジョンへと雪崩れ込むライバル達。
レイリー達は、全く焦る様子もなく、ゆっくりとした足取りでダンジョンに潜って行く。
「お、おい…パラダイムシフトのヤツら優雅に歩いてるぜ。」
「なんだ、あの風格は…まるで自分達が優勝すると信じて疑わない目だ…」
周囲の騒めきに耳を傾けず、ただひたすらにマイペースにダンジョンの中に入っていく。
まるで、近所に買い物に出かけるように。
▶︎▶︎
ダンジョンの中に人は居ない、クランフェスの為に人払いが済んである。
「やるなら今…!」
「レイリー様、あちらに有ります。」
「でかしたアイリス!」
「本当に良いのかなぁ…」
レイリーがクランフェス用に編み出した秘策、それはダンジョンに、ランダムに発生する転移トラップを逆手に取った、階層スキップだった。
以前カエデがトラップにかかり、遥か下層まで飛ばされた時に、アイリスが任意の階層に移動できると言ったのを覚えていたレイリーは、クランフェスでやってやろうと考えていた。
「あった!アレだ!」
「タイミングは私が教えますね。」
真っ白い顔が、こちらを見てニヤニヤと笑っている。
見れば見るほど憎たらしい顔だ。
「……今です!!」
アイリスが飛び出すと、白い顔は大きく口を開けアイリスを吸い込む。
そのまま全員飛び込み、大きな口に吸い込まれていく。
▶︎▶︎
「いててて、皆大丈夫?」
「私はなんとか。」
「いったー、お尻打ったよ…」
「レイリー様、少し手違いが起きてしまいました。」
「え?」
「二百層に到着してしまったみたいです。」
パラダイムシフトの優勝が決まった瞬間であったが、問題は魔物を倒せるか、その一点のみだった。




