そして時は経ち
ダンジョンから帰還すると、クラン事務所で待っていたメンバーが一斉に迎えた。
心配していたらしく、皆お通夜のようなムードでクラン事務所に待機していたらしい。
以前レイリーが死んだ時もこうだったのかな、と感慨に耽り、謝罪を重ねた。
「生きた心地がしなかったよ…心臓の辺りが冷たくなっていく感覚が、堪らなく辛かった。」
そう言ったダイスに、また心が揺さぶられる。
涙を流しながらすいませんでした、と謝るレイリーをそっと抱きしめて頭を撫でる。
アイリス達も同じように頭を撫でられていたが、昔から変わらない手つきに懐かしみ、眼を細めるのはレイリーだけだった。
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転移トラップ事件以降、レイリーに対する風当たりが徐々に柔らかくなっていった。
ガルファーと、アルフォンスは以前のようにレイリーの事を「兄貴」「レイリー様」と慕うようになったが、もう好きに呼ばせている。
セシリアとシャルトも、ダンジョン攻略に対するレイリーの熱意と、暗殺者というスキルは高く評価するようになり、徐々に打ち解けていった。
一年経つ頃には、セシリアとシャルト、レイリーとアイリスがダブルデートをする程に打ち解けられた。
二人の馴れ初めを聞いたら、どうやらシャルトから告白して、セシリアが何度も振った後にOKを出したようだ。
アイリスとはあの夜以降、徐々に仲が深まっており、一週間に一度は熱い夜を過ごしている。
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そうしてクランメンバー達と仲を深めていき、三年が経過した時の出来事だった。
「このクランもそろそろ百層に挑戦してもいいと思うの。」
アイリスの口から出た言葉に一同は息を呑む。
クランヒエラルキーの頂点を決める祭典。
五年に一度開かれるクランフェスに出場する為に、結果を出さなければならないと判断したセシリアは、新たに加入したメンバー達の実力の高さに手応えを感じていた。
十七歳になったセシリアは、すっかり大人らしくなり、抜群のプロポーションに大人しそうな顔立ちと、ギャップで人を殺せそうな勢いだった。
カエデは更に巨乳になり、戦闘能力が著しく上昇していた。
子供っぽい性格は治っておらず、時々食卓でオカズの攻防戦を繰り広げては、アイリスに怒られている。
クーリアとエリスは、見た目が全く変わらない。
シャルトは薄々気付いてるみたいだけど、何も言ってこない辺り、戦力として、抜けては困る存在になっていると思ってるようだった。
アイリスは、レイリーの成長に合わせて体を成長させていた。
胸が大きい方が好き、と言ったらカエデの持つアイデンティティの一つである巨乳を奪っただけでは飽き足らず、尋常じゃない位の美人になっていた。
街行く人が100%の確率で振り返るほどの美人だ。
レイリーは、十八歳になって念願の男らしい顔を手に入れていた。
一人で食事に行くと、逆ナンをされるので、アイリスと一緒に出歩くようにしていると、美男美女カップルとして有名になっていた。
皆が成長し、最近では八十層まで安定して潜れるようになっているパラダイムシフトは、セシリアとシャルトに、アルフォンス班を加えた九人編成の大部隊で、勝負に出るという。
「いや、セシリアさん達とパーティーを組むのはちょっと…」
レイリーが、反対意見を出す。
どうにか隠し続けてきた自身の魔法を見られるのも困るし、何より小回りが利かなくなるのが面倒くさかった。
「な、なんで?」
「それは……俺達はセシリアさん達と競争したいからです!」
そう言ってアイリス、カエデ、クーリア、エリスを一箇所に集めて宣戦布告をする。
大嘘をつくレイリーの目は、自信に満ち溢れていた。これならいける、と。
「俺達と、セシリアさん達、どちらが先に百層に着くか…勝負です!」
「却下です。」
却下だった。
こうしてレイリー達は、セシリア達と共にダンジョン百階層攻略に向けて動き出した。
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ダンジョン攻略を開始して十日が経過した。
今は九十階層で休憩をしている。
ギルドに【天軍の覇道】が提示した情報によると、百層には邪竜が待ち構えている為、腕に相当の自信がある者以外は挑むべからず、との事だった。
その事を承知して攻略を進めているのだが、セシリアの様子がどうやらおかしい。
一人で黄昏るセシリアの隣に立って、草原が広がる不思議なダンジョンの空を一緒に見つめた。
「どうしたんですか?」
「あ、いや、うん…昔恋人を失った事を思い出しちゃって…」
そう言って俯くセシリアは、ひどく怯えた表情だった。
「百層に潜む邪龍…怖いですか?」
「うん…また誰か死んじゃったらどうしようって…」
今更な事を言うセシリアに少し苛立つレイリー。
その時、もう心がセシリアから離れていることに気付く。
いつの間にか完全に吹っ切れていた事に気付いたレイリーは、軽く微笑みセシリアを励ます。
「うーん、大丈夫じゃないですかね!アイリスも居ますし!」
そう言ってアイリスの方を見ると、こちらに気付いて笑顔で手を振ってくる。
こちらも笑顔で手を振り返すと、食事の準備の途中だったのか、火の魔石を並べて鍋を温め始める。
「アイリス…俺には勿体無い、良い女ですよ。」
「ふふっ、そうね、本当に勿体無い。」
「なんですかそれ!あーもういいです!さよなら!」
そうやって悪戯っぽく笑うセシリアに、一方的に別れを告げた。
長い恋は幕を閉じた。
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レイリー達はダンジョンの百層に辿り着いた。
全員が装備やアイテムの最終確認を行い、顔を見合わせ頷き合う。
ダンジョンの中には不釣り合いな鉄扉に手を触れると、自動的にスライドして扉が地面に埋まる。
薄暗い巨大な空洞が中には広がっており、まるでラスボスでも出てきそうな雰囲気だ、とレイリーは場違いな感想を抱く。
全員が部屋の中に入り暫く進むとズゥン…という低い地鳴りの音が背後から聴こえた。
一斉に背後を振り向くと、開けていた筈の扉が完全に閉まっているのが見えた。
部屋全体が光を放ち、暗かった巨大な空洞を照らす。
すると、その空間の中央部に何か巨大な魔物が丸くなっているのが見えた。
コイツはやばい。
レイリーの全身の細胞が警鐘を鳴らし、血液が冷たくなっていく感覚に襲われる。
しかし、長年の訓練により、考えるよりも先に手が動いていた。
「【膨張しろ 際限なく 荒れ狂え 水流】」
「【収束しろ 熱を奪い 荒れ狂え 暴風】」
全員が冷や汗を吹き出して動けないでいる中、レイリーとアイリスは行動を起こす。
アイリスはアイテムポーチから大量のナイフを取り出し邪龍へ向けて一斉に投擲をする。
大量のナイフが突き刺さり、異変に気付いた邪龍が、巨大な首をもたげる。
【雷神の鉄槌】
大量の雷が降り注ぎ、途中で軌道を曲げながら邪龍の体躯を突き抜ける。
アイリスが突き刺したナイフを避雷針にして、雷が邪龍の体内で暴れまわる。
邪龍が暴れて口を大きく開き、喉の奥が赤熱しているのが見えた。
我に帰ったカエデが、虫の知らせで危険を察知する。
「正面から火炎が迫るでござる!ここら一帯危ないでござるよ!」
カエデが指を滑らせ攻撃の軌道とタイミングを報せると、それを見たクーリアとエリスが頷く。
「わかりました。カルネージコフィン!」
「オッケー!二ノ矢、驟雨!」
カエデとの阿吽の呼吸で、クーリアが黒い球体を指で弾くと同時に、邪龍がレイリー達目掛けて極太の熱線を放つ。
黒い球体が熱線に触れると、一気に膨張して、熱線を消滅させていく。
邪龍の攻撃が不発に終わると、上空から迫る矢の雨が、邪龍の全身を穿つ。
大量の矢に晒された邪龍は、地面に張り付けられ、再び口を大きく開きブレスの態勢に入る。
それを見たレイリーが、詠唱を始める。
「【噛み砕け 氷竜の 大口】!」
邪竜が大きく広げた口より、さらに大きな口を開けた氷竜が邪龍目掛けて牙を降ろす。
上顎と下顎を勢いよく閉じられた邪龍のブレスが、勢いをそのままに、邪龍の口内で爆発する。
黒煙を上げながら力を失ったように、頭部を失った首を地面に叩きつけ、地鳴りを響かせる。
そして完全に沈黙した邪龍を見て、アイリスが戦闘終了を告げる。
「先手必勝、ですね。」
呆然と戦闘の様子を見ていたアルフォンスとガルファーは我に返ると、興奮した様子で駆け寄ってくる。
シャルトは何かを考え込んでいるように、顎に手を当て眉を寄せ、セシリアは目を見開いてレイリーを凝視する。
脅威の去った百層で、一同は自分達の犯した過ちを後悔することになる。




