過去との決別
ガチャ
「ん?…お前は…」
「あ!偽レイリー!何のつもり!?フィリアさんにあんな事言って、許されると思ってんの!?」
決意を固めたレイリーは、パラダイムシフトのクラン事務所へと、足を運んでいた。
以前より風当たりが強くなっているメンバーに、逃げ出したい気持ちを抱きながら、一欠片の勇気を振り絞る。
「す、すいませんでした!セシリアさんのファンだからといって、少しやり過ぎました!」
そう言って土下座をするレイリーを見て、顔を見合わせる一同。
「はぁ、やっぱりそうゆう事だったのね…全く。」
「レディを落とすテクニックとしては下の下だよぉ?」
「ははは、まぁ取り敢えず話を聞いてあげようか。」
ダリルとウィドラルクが呆れた表情で咎め、ダイスが苦笑いを浮かべながらフォローする。
このクランを最強にしたい。
当初の目的を忘れて、居場所を失ったショックで塞ぎこんでしまったレイリーだが、アイリス達の存在を、勘定に入れてなかった自分を責めた。
今では立派な居場所だったのに、目を向けられなかった自分の軽薄さを。
自分を想い慕ってくれていた者の気持ちに気付かなかった鈍感を。
今は自分を支えてくれる彼女達と、このクランを最強にする為に、行動を起こす。
それが自分のお嫁さんになるのが夢だと語った少女への、最大の贖罪と信じて。
「はい、自分でも何であんな事を言ったのか、思い出すだけでも恥ずかしさがこみ上げて来ます…」
喋ると吐き出しそうになる胃液を飲み込みながら、演技を続ける。
理解されなくてもいい、嫌われてもいい。
宿で自分の帰りを待っている仲間達の為に、道化を演じきると決めたレイリー。
「心を入れ替えて荷物持ちでも何でもします。ですからこのクランの末席に加えて頂けないでしょうか…!」
額を地面に擦り付ける。
かつての父親の前で、仲間の前で、友の前で。
そして恋人の前で。
「あ、姉御…俺は許してやっても良いかなぁ…なんて思ってます。」
「私も…まぁ、水に流しましょう。」
何故か目を合わせようとしない二人からの思わぬ助け船に、思わず頬を綻ばせそうになる。
「ガルファーさん、アルフォンスさん…」
「はぁ、まあ男がここまでやってんだ、許してやろうや、な?」
オルタスが、レイリーを憐れみ、同情する。
「二度とすんなよな!」
「まぁ、戦力としては期待出来るからねぇ?」
「そうね、まぁダイスさんが良ければ、だけど。」
エリリアが指を突きつけて最後通告をする。
ウィドラルクがしょうがない、と妥協をしたように両肩を上げ、ダリルが目線を滑らせダイスを見つめる。
「まぁ、今は決定権は僕にはないからね。」
ダイスはそう言うと、セシリアの方に視線を流す。
その場に居る全員が釣られてセシリアに注目する。
「……はぁ、もういいわよ。好きにして。」
「はは、運が良かったね。おめでとう。」
セシリアが手を挙げて降参の意を示すと、シャルトがケタケタと笑いながらレイリーの背中を叩く。
どういう事だ?クランリーダーはダイスの筈なのに、とレイリーは一瞬怪訝そうな表情を浮かべるが、直ぐに意識を切り替える。
「あ、ありがとうございます!粉骨砕身頑張っていきます!レイリー・フィリクスです。宜しくお願いします。」
「宜しくね、フィリクスくん?」
そう言って手を差し出してくるシャルトに、身体中の血液が沸騰しそうになる。
お前はレイリーではない、と言わんばかりにファーストネームを口にする彼の捻じ曲がった性格を、叩き直してやりたかった。
だが、理由は全く判らないが、セシリアの彼氏になっている彼と事を構える訳にはいかない。
アイリス達の顔を思い浮かべ、怒りを腹の底に沈めて笑顔を無理やり作る。
「はい!シャルトさん!」
こうしてレイリーの、第三の人生が本当の意味で幕を上げた。
▶︎▶︎
ガチャ
「ただいま…」
「ご、ご主人様!」
「師匠!」
「レイル!」
「うぉっ!とと。」
クランで荷物持ちから、という条件で加入を許してもらったレイリーが宿に帰ると、クーリア、カエデ、エリスが胸に飛び込んでくる。
いきなりの事でたたらを踏むが、しっかりと受け止めて気持ちを伝える。
「皆、ただいま…心配かけたね……迷惑かけたね……ごめん。」
「御主人様に忠誠を誓った身です。迷惑などとは思っていません。」
「だね、心配はしたけどねー。」
「師匠は立ち直ると信じてたでござる!」
「私も、レイリー様はやれば出来ると信じておりました。」
見失っていた居場所を確かに感じて幸せに胸が満たされる。
レイリーは、しがみつく三人を落ち着かせて、離れた後、アイリスの前に跪く。
「アイリス、過去と決別してきたよ…今日から俺は、レイリー・ファリクスだ。」
「はい。」
「今まで気持ちに気付けなくてごめんね。」
「はい。」
「これからも俺と一緒に歩んでくれるかな?」
「はい。」
「馬鹿でおっちょこちょいで、残念な男だけど、俺と付き合って下さい。」
「…はい。」
そう言ってアイリスの手を取り、指輪を嵌めるレイリー。
アイリスは薬指に嵌められた指輪を惚けた顔で見て、頬を涙で濡らす。
「幸せです…」
「これからもっと幸せにしてみせるさ。」
アイリスは涙を流しながら、花が咲いたような笑顔で頷いた。
「「「えええええええ!?」」」
他の三人は唖然とした表情でやり取りを見た後、同時に叫び声を上げた。
暫く騒がしくなりそうだ、とレイリーはアイリスと顔を見合わせて笑った。




