待ち続けた時を
大樹の街サルマトリアを出発して一ヶ月後、森を抜けて、直近の街に寄ったレイリー達は、そのまま最終目的地であるウィールズに向かう。
一年と数ヶ月振りの自分の故郷に胸が高鳴るのを感じながら、馬車に揺られるレイリー。
和気藹々と旅を続ける仲間達は、とうとうアリアンテス国領を跨いだ。
「はいここからアリアンテスー。」
「ご主人様、大分浮かれてますね。」
「師匠、相当楽しみなんでござるな。」
「そりゃあそうだよ!故郷だもの。」
テンションゲージがマックスのレイリーを生暖かい目で見る一同。
そんな中アイリスがスケジュールの確認を行う。
「レイリー様、向こうに着いたらすぐにクランに加入するのですか?」
「そうだねぇ、父さん達も居るだろうし、最初はパラダイムシフトのクラン事務所かな?」
「レイルの故郷かぁ…きっと優しい人が溢れてるのね!」
両手を胸の前に抱き、遠い空を見つめるエリス。
それを見たレイリーが小首を傾げる。
「なんで?」
「だってレイルが故郷の話をする時、とても楽しそうなんだもの。」
エリスの言葉に恥ずかしくなったレイリーは、頬を指で掻きはにかむ。
知らないうちに自分の中でも、故郷の思い出が強くなっていたのかもしれない、と懐かしい風の匂いに眼を細めて実感する。
「拙者も、師匠のクランとやらに早く入りたいでござる!」
「俺のじゃなくて、俺の父さんのだけどね。」
「やがてご主人様が統治なされるのでは?」
「そんな気はないよ、ただあのクランを世界最強にしたいってのはあるけどね!」
「レイリー様、その為の準備は整っております。」
レイリーが豪語する言葉が現実味を帯びる。
アイリスが導いてくれた仲間達を見ると、皆自身に満ちた目でレイリーを真っ直ぐ見ていた。
これから始まる冒険の第二幕に展望が開いたレイリーは、仲間達を見回し、深く頷く。
「そうだな、皆となら最強のクランを作れる!付いてきてくれるか?」
「「「「おー!」」」」
確信を得たレイリーは、小さく拳を握りこんだ。
それを見たアイリスは胸の内に熱い感情が芽生えていることに気付くが、レイリーの為にならない、とその感情に蓋をしようとする。
大きな変化をしようとしている一同を乗せた馬車は、御構い無しにダンジョン都市ウィールズに向かって進み続ける。
▶︎▶︎
ダンジョン都市ウィールズ。
この街に来る冒険者の目的はただ一つだった。
ダンジョンに眠る宝、素敵な出会い、クランフェスで得られる名声。
それらを求めて集まる冒険者達は胸に大きな夢を抱えてウィールズの門を潜る。
そのためか、人口密度が高いウィールズは、商業が盛んで、魔物の素材を加工して作られる装備などは、他の追随を許さない。
そんな夢と希望の街で、新たな冒険者達がダンジョン挑戦の門を叩こうとしていた。
「えっと…確かここら辺だと思うんだけど…」
「レイリー様、ココで合ってますよ。」
「え!?このクラン事務所!?」
「どうしたでござるか師匠。」
「いやぁ、想像と違うっていうか、記憶と違うっていうか…」
レイリー達は、パラダイムシフトのクラン事務所の玄関前に立っていた。
しかし、以前と違い、周囲にあったはずの建物や、クラン事務所を飲み込んで、一つの巨大な施設になっていた。
(弱小クランだったのに、一年とちょっとでココまで大きくなるのか…?)
とレイリーが顎に手を添え考え込んでいると、見るに見かねたアイリスが声をかける。
「ご主人様、取り敢えず中に入りませんか?」
「え?ああ、そうだね…ふぅ、ドキドキする。」
「では、参りましょう。」
ガチャッ
「たのもーーー!」
シーン…
気合を入れて全力で挨拶をしたのだが、中には誰もいなかった。
以前のパラダイムシフトの事務所と比べ、整理整頓された広い室内をみて、少し寂しい気分になったレイリー。
「なんだ、誰もいないのか…」
「取り敢えずあちらで待機しましょう。」
そう言ってアイリスが指を向ける先にある椅子にそれぞれが腰掛けて、クランメンバーの帰りを待つ。
アイリスも緊張しているのか、珍しく表情を強張らせて、汗を流していた。
ガチャ
「ん?お客さんかな?」
レイリーは今まで考えていた言葉が、全て吹き飛んでいた。
レイリーの父ダイスが、変わらぬ姿で、変わらぬ声で、レイリーに笑顔を向けていた。
喉が詰まって声が出ない、涙が止めどなく溢れてくる。
伝えたいことが山程あるのに、口をついて出るのは「あ…ぁ」や「うぅ…」といった言葉のみ。
困惑した表情でレイリーを見つめるダイスの後ろからゾロゾロとクランメンバーが入ってくる。
「ありゃ?お客さんかなー?」
「どうしたの…って泣いてるわよこの人!」
「あららぁ…僕達に会えたのが嬉しかったのかなぁ…」
「まだそんなに有名じゃねぇだろ、俺達は。」
「だなぁ、姉御達が有名なだけだからなぁ。」
「もしかして入団希望者では?」
エリリア、ダリル、ウィドラルク、オルタス、ガルファー、アルフォンス。
懐かしい顔ぶれが続々と帰ってくるのを見て、やっと帰ってこれたんだ、と実感する。
「おやぁ?誰だいその子は?」
「あ、シャルトさん…恐らく入団希望者かと…」
「へぇ、じゃあテストしてみようか。」
ある人物が入室すると、全員浮かない顔で俯く。
聞き覚えのある声の方を振り向くと、そこにいたのはウロボロスのクランリーダーのシャルトだった。
「え、シャルト…?なんで…」
「おや?僕の事をご存知とはね。何処かであったかな?」
飄々とした物言いに、少し苛立つレイリー。何故こいつがここにいるんだろう?と焦りを募らせていく。
その表情をみて、横に並んでいたカエデとクーリアが心配して声をかける。
「師匠、この人は…?」
「ご主人様…?」
「ああ、そちらの二人は知らないみたいだね。初めまして、パラダイムシフトの副リーダー、シャルト・エルファウストだよ。」
そう言って手を差し出してくるシャルトに悪寒が走る。
ウロボロスのクランリーダーだった彼が何故、オルタスを差し置いて副リーダーと言っているのか。
オルタスの顔を見ると、悔しそうにした唇を噛み締めている。
「ちょっと、そんなところで固まってたら中に入れないよー。」
何度も聴きたいと思い、何度も顔を見たいと思った、想った、彼女のことを。
レイリーは声の方向へ、弾けたように顔を向ける。
そこには頬を膨らませて可愛らしい抗議の声をあげる、セシリア・アーデンルスが居た。




