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異世界の弱小クランを最強にしたい  作者: ピザチュウ
幼少期
4/53

優しくて残酷な世界で

「えー…では、其々お名前と趣味を聞かせて貰っても良いですか…」


「せ、セシリア・アーデンルクスです。

趣味は読書と料理です、宜しくお願いします。」


「レイリー・メイルティーンです。

趣味は魔法の練習です、宜しくお願いします。」



 セリスが「じゃあお願いしますね」と言い残して部屋を退室した。異様な様相の男と一緒の部屋に残されたレイリー達は萎縮してしまっていた。


 各々の自己紹介を終えた後にホーネル先生が目を見開きカラカラと笑い始めた。正直怖い。


「カカカ、二人共素晴らしい趣味をお持ちで…

私はホーネル、趣味は魔物素材の収集です」


 そう言って優雅に一礼するホーネル先生。


 外見に反して淀みなく腰を折り礼をするホーネル先生を見て所作を真似るレイリー達。授業以外でも学ぶ事は多そうだと気を引き締める。


「では早速ですが…授業を始めましょう…」


  ホーネル先生の授業は必修科目の算術と歴史以外に魔術、ダンジョン学、薬学と多岐に渡った。

 中でも魔術の多重詠唱による相乗効果と複合魔法は面白かった。魔法とは両手で其々詠唱する事で様々な幅の広がりを見せるらしく、同属性を並列させると足し算、並行させると掛け算になり、他属性を並列させると混合魔法、並行させると異属性魔法になるらしい。


 更に節ごとに別れている中位魔法以上なら【W】と【B】で風の刃を出すらしいが、通常は


  術者

  W B



 こうする所を



  術者

  W

  B



 と詠唱する事によって射程は狭いが鋭い刃になるらしい。中々奥が深い。


 薬学は医学薬学らしく、どの草や花がどの様な傷や毒に効くのかというもので、サバイバルの基本を叩き込まれているような気分になった。


 熱心に聞いていたセシリアが時々ポーションを作って家に持ってきてくれるが酷い味だった。その事を伝えると味に改良の余地があると察したのか、急いで自宅の製薬台に戻っていったりしていた。


 ダンジョン学はこれまた面白く、どの様な種類のトラップがあるか、どの様な魔物が出るかといった様なものだった。宝箱に擬態した魔物や感圧式の起動トラップの種類、転移、落とし穴、モンスターパレードなど様々だったけど一番気をつけなければいけないのが冒険者を狙った冒険者だった。ホーネル先生も一度ハニートラップに掛かって全素材を失った挙句死にかけたらしい。見た目に反してお茶目な人だ。


 算術は二人共完璧にこなして免除になり、歴史はレイリーがそこそこ理解し、セシリアは完全に理解していたのでこれも免除になった。細かい齟齬はセシリアがホーネル先生が帰った後の勉強会で正してくれて、今では歴史上の事件や権力組織の変革を年号付きで答えられる。因みにこの世界の年号は大戦期、とか黎明期、延冷期などと呼ぶらしい。



 最初は怖かった先生も授業を受けていくほど親しくなっていき今ではセシリアと三人で休日に買い物に出かける程になった。


 外に出てもホーネル先生の授業は続いて、鍛冶屋を始めとした生産系の店の受注システムの解説を挟みつつ買い物を進めたりした。

 鍛冶屋でいえば作成可能装備品リストを見て、指定してある素材と金銭を持ってカウンターで受付をする、など。


 レイリー達が大人になった時に役立つ知識を授けてくれる先生と過ごす日々は退屈な日常を一新させてくれる唯一のスパイスとなっていった。







▶︎▶︎








 そうして一年が過ぎた頃だった。


 いつもの様に魔法学の契約魔法と従属魔法の因果関係について学んでいると先生の体調が悪くなった。その場に倒れるホーネル先生を見て急いで駆け寄り介抱するセシリアと、人を呼びに部屋を飛び出たレイリーの迅速な対応により一命を取り留めた。


 神殿の関係者が先生を運び出すのを泣きながら見送るセシリアを見て、大人びてると思ったけどまだ子供だから弱い所もあるんだなと思い、自分がしっかりしなきゃ、とレイリーは思った。


「先生…大丈夫かなぁ……」


「分かんないけど、何とかなるよ…」


 親達が今後どうするかを話し合っている間、レイリーはセシリアと二人で先生の居ない教室に居た。いつも授業を受ける席に二人で座って今は居ないホーネル先生の授業を受けている様な気分になっていた。会話の間に不意に訪れる沈黙が不安な気持ちを膨らませていく。


「何で倒れちゃったのかな…もしかして魔石中毒かな……」


「うーん…先生が元冒険者だったならあり得るかも知れないけど、だとしたら…」


 だとしたら。


 その先を言えずにいたレイリーを見てセシリアも俯いてしまう。魔石中毒とは、魔物の体内にあるコアが空気に直接触れて出来上がる結晶を魔石と呼ぶのだが、これを砕いた時に舞う魔石の粉を肺の中に大量に入れてしまうとなる病気らしい。


 通常は滅多にかかるものではないが、ごく稀に同じ様な症状で神殿に治療に運ばれていく冒険者の報告を受けた国が私財を抛ちその奇病の調査を行うと、死亡したいずれの冒険者の肺からは堆積した魔石の粉が結晶になって見つかったという。


 具体的な解決法はなく、回復魔法で症状を和らげるしかないのだが、それでもダメならもう助からないと判断され、死亡した後迅速に王国の研究機関に遺体が引き渡されるらしい。


 症状は全身が倦怠感に襲われて、血色が悪くなり顔色が青白くなる。発症から二年前後で急速に肺で結晶化し死亡してしまう。生存率はゼロだ。


「先生薬学でこの話する時、どんな気持ちだったかなぁ…」


「さぁ…わからない」


「死ぬって分かってるのにどうしようもないなんて、どんな気分なのかな…」


「きっと死ぬ程怖いんだろうね…」


「「…………」」


 つまり先生が助かる可能性はなかった。



「「あのさ…」」


「あっ…お先にどうぞ…」


 レイリーが死を経験したことがある転生者だという事を伝えて元気付けようとした時、セシリアと声が被る。セシリアは手を此方に向けて話の続きを促す。


「あ、うん…実はさ……」


ガチャッ





「……二人共聞いて、落ち着いて聞いてね」





 唐突に入ってきたセリスとフィリアによって会話を遮られる。セリスの一言を聞いた時、レイリーは察してしまった。



 ホーネル先生が死んでしまった。









 その後大粒の涙を流すレイリーとセシリアを抱きしめたフィリアの腕はとても暖かく、とても優しかった。

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