エルフの里の神
大樹の街サルマトリアで、クーリアにスキルを授けて貰うために、神の像の元にやってきたレイリー達の前に現れたのは、少しおっちょこちょいな神様だった。
「それで、何故私を呼び出したのでしょうか?」
「はい。彼女にスキルを授けていただきたく思いまして。」
女神は慈愛に満ちた表情で、クーリアを一瞥すると、一つ頷く。
「え、宣誓の言葉とかは必要無いの…?」
レイリー達は皆顔を見合わせて不思議な顔をする。
「あれは人間が勝手に創り出した儀式です。本来十二歳を超えていなくとも、神に祈ればスキルは貰えます。それはレイリー様が誰よりご存知のはずです。」
レイリーは、忘れもしない恥ずかしい記憶の蓋を開くと、頭を抱えて悶絶する。
その様子を見て女神がくすりと微笑む。
「どうやら彼女が言っていた面白い少年、とは彼のことで間違いないようですね。」
「ファルネア様から既に伝わってましたか。」
慈愛に満ちた表情で、レイリーを見つめる女神の言葉に違和感を覚え、ファルネアについて言及する。
「ファルネア様…?って誰なの?」
「神の一柱、創造を司る女神の名ですよ。」
「レイリー様に私を授けた方です。」
レイリーは、宣誓の時に聴こえてきた声の主を想像した。今の様に姿は見せていなかったが、陽気な神だった印象がある。
「ああ!あの愉快な神様か。…失礼かもしれませんが、貴方のお名前は?」
「ふふふ、私はシュエルピカリュンテュテューティスです。」
自然な流れで聞いた名前が、予想より長い名前だった為焦るレイリー。
宣誓の言葉も覚えられない様な男に、こんな長い名前覚えられるわけないだろ。と心の中で悪態を吐く。
「え?あ、えっと…」
「シュエルピカリュンテュテューティスですよ。」
「ジュエルピカリン…デュエルデス…」
「シュエルピカリュンテュテューティスですと何度も申してますよね。」
「しゅ、シュエルピカリン…」
全く覚えられないで居ると後方に待機していたクーリアが助け舟を出す。
「ご主人様、略称で呼ばれては如何でしょうか?」
「あ!いいね、ピカリンでいこう。」
「それ可愛いでござる!拙者も覚えられなかったので助かったでござるよ。」
「ぴ、ピカリン…ちょっと可愛い…」
不敬かと思ったが、どうやら女神の琴線に触れた様だ。頬を紅潮させて喜んでいる。
「コホン、そろそろ本題に入りましょうか…クーリアよ。」
名前を呼ばれたクーリアが、短い返事を返し、神の前に跪く。
「貴方は……ん、辛い人生を歩んできたようですね。細やかな慈悲ですが、闇魔法のスキルを授けましょう。」
「それは一体…」
「全てを闇に飲み込む汎用系スキルと、移動系スキルを取得出来ます。使い方は自然と判るようにしておきますね。貴方の歩む人生に幸福があらん事を…」
「勿体なきお言葉…感謝します。」
クーリアの体を妖しい光が包み、ゆっくりと収まる。自分の両手を広げたり閉じたりしながら、新しい力の実感を得ていた。
「では人の子らよ、幸福あれ…」
クーリアにスキルを授けた神は、光の粒子となって空気に溶けていった。
暫く余韻を感じていたレイリー達の元に、エルフの青年が声をかける。
「食事の準備が出来ましたので、長の屋敷にお越しください。」
レイリー達は大樹の神像に一礼して、マルスの屋敷に戻った。
▶︎▶︎
「どうでしたか、スキル取得の方は。」
野菜や木の実が中心のヘルシーな料理に舌鼓を打っていると、何処かに出掛けていたマルスが入室して、上座の空いた椅子に腰掛ける。
「お陰様で概ね良好でした。」
「それはそれは…と、私もいただこうかな。」
マルスはアイリスの返答を淡々と受け取り、食事を摂り始めた。
ある程度の未来が見えるので、聞く必要はないが一応、といった雰囲気が伝わる。
「そういえば姿が見えませんでしたが、どちらへ?」
「ああ、貴方方に合わせたい人物が居まして…実はもうそちらの扉の前まで連れてきてます。部屋に招き入れたいのですが、宜しいですか?」
「えっ?」
レイリー達は驚愕に目を見開くが、アイリスだけは真顔のままだった。
断るとは微塵に思ってない、といったマルスの表情が鼻につくが、いつまでも扉の前に立たせるのは失礼だろうと思い、頷き肯定の意思を示す。
それを見たマルスが満足そうに頷き、近くに待機していた青年に耳打ちをする。
指示を受けた青年が部屋の扉を開け放ち、客人を招き入れる。
「あの……その……」
扉の先には、エルフの少女が立っていた。




