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異世界の弱小クランを最強にしたい  作者: ピザチュウ
中央大陸帰還編
33/53

中央大陸へ

 港町ミリムアージュを出航した船に乗り込み、ロズヴィレアル大陸を目指すレイリー達は今、大海原の旅を楽しんでいた。


 アイリス曰く、到着までは暫く掛かるらしいので、レイリーは新しい魔法の開発に時間を費やそうと思い、迷惑にならない程度に、海に向けて魔法の練習を始める。


 「【時よ 止まれ】」とか「【空間よ 歪曲せよ】」みたいな魔法は如何やら使えないらしい。


 魔力に質量を持たせたり、空気を流動させたり、温度を変化させたりは出来るのに、そうゆう事は出来ないのか、と初めは残念に思ったが、今でも十分謎現象なので現状満足をしているレイリー


 だが一つだけ、どうしても使いたい魔法があった。


 そう、雷魔法だ(?)


 この世界の魔法は、詠唱する時に魔力を収束させた指先で、文字を綴る事によって発生する超自然現象だが、雷などは直接綴れど発生せず、藁にもすがる思いで昔、ホーネル先生から学んだ両手に其々違う詠唱文字を展開させて、並列させると異属性魔法になるという理論を実験してみた事もある。


 ホーネル先生から習った回復魔法がそれにあたる。


【照らせ 極小の 太陽】

【吹雪け 極北の 暴風】


と縦に並べて綴ると重なり、一つの文字に変化して


【癒しの光】


となる。


 がしかし、それ以外は全て不発に終わっている。


 並行なら簡単なのになぁ、とレイリーは頭を掻いて試行錯誤を重ねる。


 昔、もう直接雷撃てないかなぁと半ばやけくそになって、

「【落ちろ 巨大な 雷】!」

などと森の中で叫んで恥ずかしくなったのは良い思い出だ。



「うーん、うーん。」


「如何しました?」


 船尾で唸っているレイリーにアイリスが声を掛ける。手に林檎の果汁で作ったジュースを二つ持っていた。

 礼を言って受け取り、アイリスと一緒に近くの樽に腰掛けて、林檎ジュースを飲みながら悩みを打ち明けた。



「雷魔法使いたいんだけど、如何やったら良いのか分からなくてさ。」


「四節の詠唱文字を水、風と並列させれば出来ます。」


「えっ!マジで!?」


「はい。」


 頼りになるアイえもんから即レスのヒントを得て、居ても立っても居られなくなったレイリーは、早速海に向けて四節の二重並列詠唱を試みるが、中々上手くいかず、全て不発に終わる。

 すると、後ろから体を密着させてレイリーの手を取り「こうですよ。」とアイリスが文字を綴る。少しドキドキした。


「【膨張しろ 際限なく 荒れ狂え 水流】」

「【収束しろ 熱を奪い 荒れ狂え 暴風】」


 画かれた輝く文字が磁石に引かれる鉄の様に引っ付き、一つになり形を変える。


【雷神の鉄槌】



ドォォォオオオン!


 

 爆音を響かせながら極太の稲妻が雲ひとつ無い上空から突如降り注ぐ。

 海面に叩きつけられた雷はすぐに四散するが、着弾した辺りに泳いでいた魚が死滅し、一斉に水面に浮上してくる。


「す、すご……」


 まさに神の怒りを体現したかの様なその魔法に呆然としていると、アイリスが何処からともなく取り出した網で、船員を総動員して魚を獲っていた。


 大漁だった。


 大量の魚を引き上げ終わったアイリスに今度はレイリーの方から林檎ジュースを差し入れて、再び樽に腰掛けて休憩する。

 その際先程驚きのあまり聞きそびれた疑問を投げかける。


「そういえば、なんでアイリスも日本語分かるの?」


「レイリー様の詳細を識別した際に、日本語も知識として得ています。」


「おま……凄すぎるだろ……」


「お褒めに預かり光栄です。」


 そう言ってスカートの端を摘み優雅に一礼するアイリス。最早レイリーはアイリスなしでは生きられない体になりつつあった。


 因みに林檎ジュースは春人(レイリー)が好きな飲み物だった。






▶︎▶︎






「あ!師匠!見えてきたで御座るよ!」


「ん?お!本当だ!」


 はしゃぐカエデが指差す方向に視線を滑らせると、大きな港町が見えてきた。

 赤を基調とした屋根の家が密集しており、昔テレビで見たポルトガルの港町を彷彿とさせる様な美しい光景だった。


 船を停泊させて、巨大な跳ね橋のようなスロープが船体に架けられる。

 そのまま降りると、入国審査みたいな事ををしていたので、審査員にギルドカードを提示して上陸する。

 予定ではここで二日ほど滞在してから大樹の街サルマトリアを目指して出発をする事になる。

 エルカルト硬貨を全てロズヴィレアル硬貨に換金して、街中を歩き始める。


 二日ほど滞在…。


「感じるぜ…予感がするぜぇ!」


「どうしたでござるか師匠…」


 アイリスが意味もなくその場に留まる筈がない。これは今回も何かが起こるのだろう、とレイリーは高鳴る胸を抑えながら、心の中でウキウキしていた。


「では先ずは宿を探しましょうか。」


 アイリスの先導に従い、宿屋に向かう道中アイリスのルート取りが少しおかしなことに気付く。

 人気の無い路地を抜けながらどんどん街はずれに迷い込むと、貧民街のような場所に辿り着く。

 ボロボロのシャツ一枚だけ着て物欲しそうにこちらを見つめる子供や、昼間から煽情的なネグリジェを着た娼婦のような女性が呼び込みをしていたり、首輪を付けた女の子が縄に繋がれて一列になって歩いていたりした。


 今まで平和な場所にしか足を運ばなかったレイリーに、これはヤバい場所なのでは?と本能が警鐘を鳴らす。


「こちらです。」


 そう言ってアイリスが立ち止まった店を見てみると、今まで宿泊してきたどの宿屋よりボロボロで、薄汚かった。


 中に入るとパイプを咥えた女性がカウンターに座っていた。

 その女性はメイド服を着ているアイリスを見るなり舌打ちをして、「冷やかしなら帰んな。」と、取り付く島もない。


「こちらに二泊したいのですが。」


 そう言ってアイリスが女性の前まで歩いて行き、大銀貨を三枚置く。


「へぇ…アンタ話がわかるじゃない。部屋は二階の一番奥だよ。階段上がってナイフを持つ方ね、わかる?」


 そう言って投げ渡してきた鍵を受け取り、女性の態度を意に介さず、優雅に一礼したアイリスは、そのまま二階へ上がっていく。

 慌てて後を追うレイリーとカエデだった。


 部屋の中に入ると、隣の部屋からベッドの軋む音と喘ぎ声が聴こえてくる。

 どうやら壁も薄いようだ、と冷静になろうとするが、カエデ共々顔を赤くしてしまっている。


「ね、ねぇアイリスさん。」


「如何されました?」


 小汚いベッドを整備していたアイリスに声をかけると、手を止めこちらを振り返る。


「いや、ね…ほら、ここ、ヤバい場所じゃない?大丈夫なの?」


「せ、拙者もなんだか怖くなってきたでござる。」


 喘ぎ声が聴こえる隣の部屋を親指で差しながら、安全性の欠如を訴えるレイリー。

 それに同調するようにおすおずと手を挙げるカエデ。


「なにか問題がありますか。」


 真顔で思い当たる節が無い、という雰囲気を出しながら返答するアイリスに、苦笑いを漏らしながら説明する。


「いや、ここって治安が悪そうじゃない?いかにも金持ってます、って感じの俺達が宿泊したら夜中とか襲われそうじゃないかな。」


「問題ありません。この街の人間が束になってもレイリー様やカエデに勝てはしません。」


「うん、それに、あの…精神衛生上とか…ね。」


 年頃の男女が喘ぎ声が聴こえる部屋に泊まり、娼婦が誘惑してくる道を歩き、ガラの悪い男が溜まる店で食事を摂る、というのはハードルが高いものであった。


「隣人の喘ぎ声が気になるのでした止めてきます。」


 そう言って退室しようとするアイリスをカエデと二人で全力で止める。


「違う違う!そうゆう事じゃない!」

「そうでござる!この街は全体的に危ないでござるよ!」


「…私を信じては頂けないのでしょうか?」


 少し悲しそうな顔を見せるアイリスを見て胸を痛めるレイリー。

 どこか儚げなその表情は、触れれば崩れる砂の城の様な危うさが窺えた。

 最良の選択を選び続けてきたアイリスを疑う行為が、彼女に対する不誠実さを如実に表していたと、レイリーは罪悪感に苛まれる。


 レイリーの為に行動し続けてきた彼女を、少し悪い環境に置かれたから、といって否定するのは、間違いではないかと再考する。


「いや、アイリスの事は信じてるよ。」


 そう言ってアイリスの頭を撫でると真顔に戻った。


「はい、では明日は奴隷館に行きましょう。」


 パンッと手を叩きこの街でのスケジュールを淡々とこなそうとするアイリス。


 この世界奴隷居るのか。っていうか今の演技だったのか。

 色々な腑に落ちない感情を飲み込み、奴隷館に向かう一同だった。


 カエデの目からはハイライトが消えていた。

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