平気で断る男
「成る程、記憶喪失か…それは厄介だな…」
「はい、彼はどうやらスキルなどは使える様なのですが、それ以外はもう…」
「うむ、あの物静かな男がまさかこうなるとはな…」
属性モリモリ娘との戦闘を終えて国王に事情を簡潔に説明するレイリー。
途中アイリスの補足説明を挟みつつ、ドラマティックな短編小説が出来上がり、満足した顔で一歩退がると、ベリウスと国王に哀れみの目を向けられている。
「しかし、先程の剣戟を見ているとカエデも中々良い戦士に育ったものじゃ…」
国王がカエデと呼ぶ属性モリモリ娘を高く評価する。もしかして再び国の為にその生涯を捧げよ、とか言われるのを危惧していたレイリーに、一筋の光明が差した。
「俺の後継は立派に育った様ですね…あの実力ならばもうやっていけるでしょう。」
「な、なんと!もしやレイリー…」
「ええ!次代の親衛隊長の誕生です!そして俺は冒険者として生きますッ!」
曇りなき眼で国王を見つめるレイリー、正直王国に束縛されたくないし、ダンジョンに潜っていた方が実入りが良い。早くセシリアに会いたい。などと不敬な思考を巡らせていたが、顔には出さない。
「そうか、分かった…カエデよ!」
「はっ!こちらに!」
忍者のお手本の様に何処からともなく現れて跪くカエデ。国王は一つ咳払いをすると、厳格な表情で質問を投げかける。
「お主は、このワシの直属親衛隊隊長として生涯を捧げてくれるか…?」
「……拙者は…拙者は……」
あれ、なんか雲行き怪しいぞ?とレイリーは眉を潜める。アイリスの顔を見ると真顔だったが、レイリーには分かった。アレは計画通りに事が運んだ時の顔だと。
そしてレイリーの嫌な予感は的中する。
「拙者は師匠について行くでござる!」
「…その理由を聞かせて貰えるか?」
「はっ!失礼を承知で申し上げますと、拙者は師匠に拾われてその生涯を師匠に捧げると誓った身…師匠が生きていると知った今、師匠の元で研鑽を積み、技を昇華させたいで御座る!」
レイリーは目を見開き驚きの表情を見せる。その様子を見て分かってますよと軽く頷くカエデ。
カエデは師匠であるレイリーが暫く音信不通になっていた後ろめたさと、カエデへの溢れる愛で自分を推薦したと思っていたので、レイリーが元の職に戻れる様に尽力したつもりでいた。
頷くカエデを見てレイリーは、何してくれてるんだ。と全く理解してなかった。
「ううむ、分かった。其方らは此れ迄命を懸けてこの国、そしてこのワシを救ってくれた。その英断に報いるとしよう!」
そういった国王はカエデを国王直属親衛隊から除名し、好きに生きるが良い、と一言残して謁見を終了させた。
結論から言うとカエデが仲間になった。
▶︎▶︎
それから二週間かけて製鉄都市イゾルダに帰ってきた。
帰りの道中はカエデも増えて賑やかさに拍車がかかっていた。ベリウスの胃にダメージが蓄積していった。
イゾルダに着いてギルド庁舎に立ち寄り冒険者登録を済ませ、ギルドカードを受け取った。勿論三人分。
その後鍛冶屋に寄りましょう、と提案してきたアイリスの言葉に従って、ラウルの店に向かった。
「すいませーん。レイリーでーす。」
店に入ると誰も居なかったのでレイリーが声をかける。
すると奥から窶れたラウルがヨロヨロと出てきた。
「ああ、レイリーさんでしたか……丁度今、お届けに参ろうかと思ってたんですわぁ……」
そんな状態でか?と思ったが口にはしない一同。空気が読める面々だった。
「それで、例の品は?」
「ええ、此方です。」
そういって店の奥に案内されると注文した武器と防具が置かれてあった。検品の為に一つ一つ手に取って見てみる。
見た目、品数、強度、全てアイリスの可が出たので満面の笑みになるレイリー。すると余分に短刀と鎖帷子が作られているのに気付いた。
「あれ?コレは頼んでないけど…」
「ああ、其方は興が乗ったので余分に作った武器です。売っても莫大な値が付くでしょうし、使っても恐ろしい効果を発揮しますよ。」
そういって胸を張るラウル。
おかしい…話が出来すぎている。
丁度レイリーとの戦闘で武器を痛めてしまった属性モリモリ娘が店の外に居る。
まさかここまで全て織り込み済みで事を進めてきたのか?とアイリスの方を見ると、優雅に一礼していた。
アイえもんはやっぱり凄かった。
▶︎▶︎
「え?これ拙者に!?良いので御座るか!?」
「え?あ、うん。いいよ。大事に使ってね。」
「はわわわ…師匠ぉ…」
感極まった顔でレイリーを見つめるカエデ。その目には涙が溜まっていたが、調達したのはほぼアイリスなので、複雑な気持ちだった。
その後、吟風亭で一泊した後に、食料や旅に必要な道具を大量に買い揃えて、次の目的地である港町ミリムアージュに向けて出発した。




