セシリアの近況
レイルが死んで二週間が経った。
落ち込んでいたら毎日毎日パパやママが元気出せ、とかレイルが見たら悲しむ、とか言ってた。
死んだら何もない空間に漂うだけだっていうのに、って悪感情が湧き出てくる。
何も知らないパパやママを責めるのは間違ってると思うけど、割り切れない感情が私の心をドロドロにしちゃうの。
ガルちゃんやアルくんも心配して来てくれた。
レイルが残した意思を継いでギルドを強化するとか言ってたけど、笑っちゃうよね。
最初はクランのルール破って喧嘩してた癖に。
ダメだ、ここに居ても心は晴れないし、最悪な事ばっかり考えちゃう。
クランに顔を出そう…
▶︎▶︎
クランに顔を出すと皆喜んでた。
辛かったね、悲しかったねって。
まるで他人事だね、今も辛いし悲しいっていうのに皆は何も感じないのかな。薄情だな。
…いけない、また嫌な事ばっかり考えてる。
早くダンジョンに入って魔物殺さないと。レイルの仇をグチャグチャに壊したら少しは気が楽になるかな。
▶︎▶︎
よりにもよってビルと同じパーティーになった。今はやめて欲しいなぁ。
レイルの最後を指をくわえて見てたコイツを守ろうなんて気は起きないし、そもそもコイツが戦闘中に足滑らすからレイルは死んじゃったんだし。
泣いて皆に謝ってたけど、後悔するくらいなら最初から真面目に訓練しとけば良かったんじゃないかなって思うの。
レイルに聞いてた話だと、真面目さが足りない、とかムードメーカーだ、とか。
それで仲間に迷惑かけてちゃ世話ないよね。
ダメだ、魔物殺そう。
▶︎▶︎
ファイアウルフが居た。コイツがレイルを殺したのかな?もういいよね。後ろで皆連携がどうのこうの言ってるけど、関係ないよね。
ムカつく、ちょこまかと。
グシャッ
そうそう、そうやって腸ぶち撒けとけばいいの。犬の分際で私の言う事聞かないなんて、やっぱりゴミだね。ゴミは燃やさなきゃ。
「やぁ、ダイス。聞いたよ、レイリーくん死んじゃったらしいじゃないか。」
「……シャルトさん。」
ダイスに声を掛けたのは大手クラン【ウロボロス】のクランマスターのシャルト・エルファウストだった。
思いもよらぬ来客にダイス達は目を丸くした。
セシリアは虚ろな瞳で見つめているだけだった。
「君が付いていながら何でそんな失態が起きるのさ。どうせあの時のトラウマを引き摺ってまだ魔法使えないでいるんだろ?」
少し語調を荒げながらダイスに詰め寄るシャルト。その様子はまるで先生が生徒を叱っている様だった。
(誰かがダイスさんに突っかかってる。レイルのパパなのに、まだ心の傷が癒えてないのに。)
「私の魔法は一人の時にしか使わないと決めてるんです。」
「はぁ?それで息子死んじゃったんでしょ?理解出来ないなぁ…折角の宝石の原石を君が殺しちゃった様なもんだよ?」
「……そうですね。」
「なんだよダイス、しおらしいじゃないか。それで息子は帰ってくるのかなぁ!?」
(なんて酷い事言うんだろう。
ダイスさんの胸倉つかんで怒ってる。誰よりも悲しかったのはダイスさんなのに、何なのコイツ。もしかして魔物かな?人型の魔物が下の層からここまで登ってきちゃったのかな?)
「ねぇ、あなた魔物でしょう。」
「え?」
我慢できなくなったセシリアがダイスの胸倉を掴むシャルトに向けて剣を振り下ろす。
咄嗟にダイスから離れて身を翻し回避するシャルトに、舌打ちしながら再び剣を構えるセシリア。
(あ、外しちゃった。中々すばしっこい魔物だなぁ。)
異常な少女の行動に冷や汗が頬を伝うシャルト。ウロボロスという巨大なクランを纏める彼は、冒険者の中でもトップクラスの実力者だ。
そんなシャルトでも気配を察知出来ず一撃を許してしまった。まさに規格外の存在だった。
「な、何するんだ…ん?君はレイリーくんと一緒にいた女の子じゃないか。随分やつれてるから気付かなかったよ。」
臨戦態勢に入っていたシャルトは警戒を解き会話を試みるが、セシリアには届かなかった。
(あれ?そういえばコイツどこかで見た事ある様な……んー、思い出せないや。殺そう。)
「ジャッジメント」
ボンッ
「……!!?ぐぁあああ!」
セシリアの聖魔法によって両手の手首から先を失ったシャルトは人生初の激痛に悲鳴をあげる。
その様子を見たセシリアは頬を紅潮させ、湿った吐息を漏らす。
(ふふふ、いい悲鳴だなぁ。ちゃんと天国のレイルに聞こえる様に鳴いて貰わなきゃ。両手の次は両足かな?)
「皆!この場から離れるんだ!」
ダイスが周囲の冒険者に警告する。
その様子を見ていた冒険者達は蜘蛛の子散らす様に逃げ出す。
呆然と様子を見ていたクランメンバー達もダイスと共にその場を離れる。
「話は通じないみたいだね……ウロボロス!」
シャルトが叫ぶと肉体の表面に亀裂が入り、まるで羽化をする様に姿を変形させていく。
巨大な蛇竜になったシャルトは尾を咥えて肉体の損傷を治す。
「ほら、やっぱり魔物じゃない。」
セシリアはシャルトに向かって駆け出す。
シャルトは魔物になった訳ではなく、自身のスキル【混血の王】によって様々な神獣に姿を変えられるだけだったが、説明をしている暇もなく、そのままセシリアと戦闘に突入した。
▶︎▶︎
「はぁ…はぁ…」
数時間に及ぶ激しい戦闘の末、シャルトは傷だらけで床に転がり、息を荒げて大の字になっていた。
同じ様に満身創痍で剣を構えていたセシリアは急に正気に戻る。
(あれ?私なんでこんな…この人は誰?)
セシリアは手に持っていた剣を離し、血塗れになった両手を見つめて震えだす。
(と、取り敢えず回復しなきゃ…)
「シャインヒール!」
セシリアが詠唱すると眩しい光が辺りを照らし、セシリアの傷とシャルトの傷を一瞬で纏めて治す。
「はは…君はこの僕に情けをかけるのかい?」
「?あの、貴方誰ですか?」
セシリアの一言にキョトンと目を丸くしたシャルトは、可笑しくなって腹を抱えて笑い出す。
(な、なんだろこの人…危ない人だなぁ…関わらないほうがいいかも……あれ?)
セシリアはいつの間にか苛立ちや悲しみが消えているのに気付きシャルトの方を見る。
(この人と思いっきり戦ったから吹っ切れたのかな…?)
「君、名前は?」
「セシリア・アーデンルクスです…」
「僕はシャルト・エルファウスト、宜しくね。」
そう言って握手を交わす二人は可笑しくなってまた笑い出す。
後にシャルトはウロボロスを解体して、パラダイムシフトに入団した後、セシリアと付き合うことになる。




