最大の武器
「あーるー晴れたーひーるーさがりー。ふんふんふんふふふんふふふん!あーるー晴れたー」
「レイリー様、その先が分からないなら歌わないで下さい。」
「お、何だか人間らしくなって来たね。」
「私も学習してますので。」
レイリー達は今、製鉄都市イゾルダを抜けて馬車に揺られている。
どうせ武器も直ぐには出来ませんから、というアイリスに背中を押されてギルドマスターが手配した馬車に押し込まれた。
逃げないように手枷を嵌められて、檻の中に監禁されている。
ミュティは悲しそうな目をしていた。保健所に連れて行かれる野良犬を見るような目だった。
「安心してくれ、危害を加える気は一切ねぇよ。お前が暴れない限りな。」
「トイレも一人で出来ないなんて…くッ!」
「くッ!じゃねーよ、俺の身にもなれよ。何で野郎の糞を至近距離で見なきゃいけねぇんだよ。」
ギルドマスターのベリウスが心底嫌そうな顔で応える。道中町や村が無ければ、馬車から一度降りてベリウスの付き添いで、大も小も済まさなければならない。
音姫の代わりに大きい声でシャウトするしかないが、時々放屁の音が上回る。正直不憫だった。
「そういえばアイリスはトイレに行かなくても大丈夫なの?」
「はい。」
「なんで?」
「排泄物の近くに四次元と通じるゲートを生成して移送転移を行ってるからです。」
「ええ!?……なんかずるいな……ってことは肛門が四次元ポケットなの?」
「畏まりました。レイリー様の肛門を四次元ポケットに改造しますね。」
「ウソウソウソ!ごめん!冗談だってば!ねぇ!やめて!顔怖い!!」
「…因みにそんな事は出来ません。冗談です。」
「この野郎ォ……」
「お前ら静かに出来ねぇのかよ…」
一瞬本当に出来るかと思い込んだレイリーが騒ぐのを見て、呆れた顔で溜息を吐く。
賑やかな道中とは裏腹に、不安を膨らませていくベリウスだった。
▶︎▶︎
「さぁ、着いたぞ。」
二週間にも及ぶ長い道程を終えて、とうとう城に着いたレイリー。
目の下には隈が出来ており、少し痩せていた。
アイリスは一切変化がなく、文句一つ言わずに無表情だったが、レイリーをイジる時だけ少し声色が明るかった。飼い主に似たのだろうか。
「それにしても、なんか城っていうよりドームっていう感じだなぁ。」
「やっぱり記憶は戻らないか…」
予想と全然違う城に驚くレイリーを見て、ベリウスが表情に影を落とす。
なぜこんな反応をされたかというと、道中事情を聞かれたので、
「山賊に攫われた恋人である私を迎えに来て、山賊達を皆殺しにして奥の部屋に入ると、裸で身体中白濁液塗れで気絶していた私を見てしまったのでしょう、あまりのショックで記憶を失ってしまったようです。因みに私はその時から感情が抜け落ちてしまいました。」
とアイリスが説明していた。
それを聞いたベリウスが、「それは…大変だったな…」と神妙な表情で言っていた。少し胸が痛んだ。
やがて門の前までやってきた一同は一度立ち止まる。
「イゾルダギルドのギルドマスター、ベリウス。今日は国王陛下に後拝謁賜りたく馳せ参じました。」
ベリウスが胸に手を当て、一礼をしながら門に立つ兵士二人に用件を告げる。
すると、「どうぞこちらへ。」と片方の兵士が案内をしてくれる。
兵士の案内に従い城の内部に入ると、シンプルな外装と反比例して豪華な内装だった。
壁に掛けられた歴代国王と思わしき肖像画が並ぶ廊下を歩いて行くと、一際大きな両開きの扉が姿を表す。
扉の前で立ち止まり、「ベリウス様ご到着です!」と兵士が叫ぶと扉に手を掛けて押し開く。
中には漫画やゲームなどで見たような豪華な装飾に、玉座まで真っ直ぐ伸びる赤い絨毯。
玉座には王冠を被った老人が頬杖をついて座っている。
「どうぞ中へ。」
兵士の一言を受けたベリウスが入室する前に一礼して中へと入る。それを見ていたレイリーとアイリスも一礼して中へ入る。
国王の前まで移動し跪くと急に緊張してきたレイリー。アイリスは真顔だった。
「よく来たな、面を上げよ。」
「はっ!」
国王の許可を得て顔を上げると玉座の横にその場に似つかわしくないような、暗い目をした人物が立っていた。
闇に溶けるような黒装束は、国王の豪華なマントとは対極だった。
青い髪に黒い瞳、顔を隠すように、鼻まで掛かるマスクを着けている。まるで忍者だった。
「どうだ?久し振りに合った感想は…」
国王がレイリーの顔を見て玉座の横に立つ黒装束に話しかける。
「間違いないでござる。拙者の師匠でござる。」
(うわぁ痛い痛い!何この…あぁ、酷い!)
レイリーを見た黒装束の人物が目を見開き武士語を放つ。あのマスクの下には十字傷が入っているのでは?とレイリーは固唾を呑む。
「ふむぅ、しかし見た目だけでは分かるまい。どれ、一つ手合わせしてみては如何だ?」
国王がレイリーを品定めする様に目線を上下に滑らせる。御意に。と黒装束の男が腰元から短刀を抜き放つ。
「え?いや、心配しなくても本物ですって…」
「御免!」
キィンッ
言葉を遮る様に黒装束の男が放つ一撃が喉元に迫る。
それを防いだレイリーの目の前で、硬質な音を響かせながら火花が散る。
息もつかせぬ連撃が襲いかかるのを防ぎながら、油断すれば殺られる、とレイリーは戦闘体制に入る。
短剣を逆手に持ち重心を低くすると、朧を発動させ景色に溶けて消える。
高速で黒装束の男との間合いを詰めて、顎を横薙ぎに打ち抜こうと短剣の柄を振りかぶる。
「甘いでござるよ。」
レイリーの放った一撃が空を切り、黒装束の男が軽く屈んだ体勢からバク転をしながら、レイリーの顎先へ目掛けて蹴りを放ってきた。
何とか身を捩り避けるが、頬を伝う熱い液体を拭って驚愕に目を見開く。
避けたはずの顔に傷を付けられていた。
「拙者が何度師匠に土を舐めさせられたか覚えてないでござるか?同様に拙者も師匠の癖や戦い方は熟知してるでござるよ。」
そう言って爪先から飛び出した暗器を、地面をトントンと軽く蹴り収納する黒装束の男。
「まさか暗器を隠し持っていたとはな…」
それを見たレイリーは全力を出す必要があると判断して魔法を無詠唱で発動させる。
「なっ!?」
突然吹き荒れた風の刃が、男の黒装束をズタズタに引き裂く。
風が収まる頃には武器を落とし、服が裂けて体のあちこちを晒す。外傷を負わせてない事に安堵して、一瞬の内に間合いを詰める。
「コレで終わりですね?」
そう言って黒装束の男に短剣を突きつけるレイリー。黒装束の男が小刻みに震えて、自身の体を両手で抱いている。
「……御免ね、怖かった?」
そう言って黒装束の男の手を引き立たせると、引き裂けた黒装束からサラシが見えた。
「ん?」
ビリィッ!
サラシが裂けて中からたわわに実った果実が二つボロン!と飛び出す。レイリーが顔を上げると、涙目で震える幼い女の子の顔があった。
「見ないで下さいでござるぅぅう!」
パァン!
走り去ったロリ忍者侍の背中を見つめながら目を細める。まるで何かを懐かしむ様に。
その様子を見てこの戦いで何かを思い出したのでは、とベリウスが身を乗り出し状況を見守る。
男じゃなくて女だった。
巨乳にロリに、忍者に武士。
属性のドーピングが酷いその女性に叩かれた頬を摩りながらレイリーは呟く。
「まさか暗器を隠し持っていたとはな…」
その場にいた全員が溜息を吐き、アイリスはジト目でレイリーを見ていた。
2017.4.24
御座る→ござる
に台詞を変えました。




