旅は道連れ世は情け
数日間森の中を歩き続けてようやく開けた場所に到着する。疎らになった木々の隙間から射し込む日差しがひどく懐かしい気がしたレイリーは大きく伸びをした。
少し遅れて後方から姿を現したアイリスが「急に駆け出しては危険ですよ。」と注意を促すが、浮かれた気持ちは分からなくはないといった優しげな表情であった。
レイリー達が転生した地はエムフェルトに五つある大陸のうちの一つ、エルカルト大陸の最南端で、ザリフ森林を北上して直近の街を目指していた事になる。モース国領に位置するその森林は比較的凶悪な魔物が跋扈し、立ち入った者の方向感覚を狂わせるので、普段であれば人が立ち入らない危険地域であったが、アイリスのナビゲーションによって唯の森林探索ツアーになっていた事をレイリーはまだ知らない。
森林から出たレイリー達がまず初めに向かったのがマピュア村。アイリスの話によると、ここで食糧を補填して宿屋に一泊、その後装備を整える為に製鉄都市イゾルダを経由して港町ミリムアージュに向かうという。
道中アイリスと自身のスキルについて詳細を聞いて、魔物で試したいと言ったらコレを肯定したアイリスが指を鳴らす。一体何をやっているのだろうと思ったらいきなり現れたゴブリンが周囲を囲んだ。
「何をしたの……?」
「ゴブリンを呼びました。」
そう言って一歩退がるアイリスをなんとも言えない目で見ていたレイリーは何か言おうとしたが、やがて諦めて敵の方に居直る。
最初から所持していた短剣を構えて重心を左右に移しながら地面を軽く蹴り跳躍を繰り返す。軽やかなステップから突然風景に溶けるように姿を消したレイリー。それを見たゴブリン達が混乱して周囲を警戒しだす。
一匹のゴブリンがレイリーのいた場所に駆け出そうとした瞬間ボトッと首が地面に衝突する音を周囲に鳴らす。それを見たゴブリン達が逃げ出そうとするがそれも最早叶わない。
やがて全てのゴブリンが胴体と別れを告げた頃に風景から浮き出るようにして姿を現わすレイリー。
「コレが朧と泡沫ねぇ…」
ゴブリンを一瞬で葬った暗殺術を噛み締めるように呟く。
朧が隠密系の最上位の技で姿を風景と同化させて、足音や気配などを完全に遮断する反則のような歩法で、泡沫が地面に現れる魔力の泡で、踏み抜くと弾けて、対象の意識を短い時間強制的に刈り取る罠。
魔物に発見されてからも防衛において効果を発揮するが、魔物を発見した時に先に発動する事でも効果を発揮する時と場所を選ばない良いスキルだった。
泡沫は飛び越えられたら意味がないので扱いが難しいが、踏み抜く様に工夫すれば一瞬の油断が命取りになる様な戦闘において大きなアベレージになる。
因みに朧を使用中に魔法を使用したら即座に位置が暴かれたことから、詠唱文字までは消せないことが判明した。朧からの無防備な敵に極大魔法のコンボは流石に無理だった。
レイリーが装備している短剣は元々この体の所持品らしく、ゴブリンの骨までバターの様に斬れる相当な切れ味だったことから、元はスキルも相まって相当な実力者だったのだろうと考察する。
アイリス曰く自殺する時に使用した短剣らしいのだが、御構い無しに使わせてもらうレイリーだった。
▶︎▶︎
二人がマピュア村に着く頃には周囲は茜色に染まっていた。主に暗殺術の練習をしていたレイリーの所為なのだが、アイリスは顔色一つ変えずに付き添ってくれる出来る女だった。
先ずは宿屋を探し体を休めて食事をしようと思い村を散策し始める。
田舎の村だからなのか、直ぐに宿屋は見つかったが非常に古く、看板にはカビが生え店先には枯れた花が並んでいた。
店内に入ると机に突っ伏して寝ている店員とパイプを咥えて煙を燻らせている男が出迎えた。
「おや、こんな田舎に何の用だ?って宿泊しかねぇか。」
男はカウンターの店員を小突いて起こし、奥の部屋へ消えていった。
「んぁ!?い、いらっしゃいませ!!」
涎を垂れ流すそばかす三つ編みおさげ少女に宿屋に宿泊したい旨を伝える。
「あの、一泊したいんですけど。」
「はい!一部屋銀貨三枚で夕食と朝食付きです!」
少し食い気味に返答してきた少女の言葉に耳を疑い目を丸くするレイリー。しかし、田舎だから物価とか安いのかな?と自分の中で納得し銀貨六枚をカウンターに置く。
「旅は長いので一部屋にしておきましょう。」
そう言って銀貨三枚を手に取りアイテムポーチに収納するアイリス。
動揺するレイリーを尻目に話を進めていく。
「ではコレが二階の部屋の鍵になります。夕食が出来ましたら部屋までお持ちいたしますね。」
「はい、有難うございます。」
アイリスに助けられたレイリーは、一部屋にされた事に何も言えないまま、鍵を受け取り階段を上がっていった。
▶︎▶︎
「ふぅ、結構味気なかったね。」
「塩分濃度が通常のスープの半分に薄められていました。」
「マジで!?」
夕食を食べ終えたレイリーといつの間にかパジャマに着替えていたアイリスが宿の食事について雑談していた。
ハム二枚にスクランブルエッグ、固いパンに薄いスープと余り満足は出来ない内容だったが、値段から考えると背に腹は変えられないなと納得するレイリー。
「そういえばアイリスの服装がいつの間にか変わってるよね…?」
森の中を歩く時は軽装に、街中を歩く時はメイド服に、寝る時はパジャマになっているアイリスに質問を投げ掛ける。
「私のスキルによって物質の形状を変化させて、新しい服を創り出しています。」
「あ、ああ…そうなんだ……」
スキルがスキルを使うっていうのはどうゆう事なんだろうか、とレイリーはアイリスの謎を深めるばかりだったが、それよりも重要な案件があった。
「まぁそれは良いとして、その…いいの?」
「質問の意味が分かりかねます。」
「だから、その…一つの部屋に二人って…」
「構いません。」
シングルベッドに二人が寝る事に抵抗感を覚えたレイリーはしどろもどろになりながら抗議の声を上げるが、意に介してない様子のアイリスを見て諦めた様にベッドに横になる。
野営の時に近くに寝てはいたが、密室で同じベッドというのは流石に話が別だった。
「お、俺は止めたからね!」
そう言って顔を真っ赤にしてベッドの端に寄るレイリー。それを不思議そうな顔で見つめるアイリス。
そのまま三十分の時が経った。
「あの…」
「何か御用でしょうか。」
「いや、寝ないのかなーって思って…」
「私は睡眠が必要有りませんので。」
そう言ってまた直立不動のままレイリーを見つめるアイリス。その様子に耐えられなくなったのか無理やりベッドに寝かせる。
「ず、ずっと見られてたら寝られないから。それに横になるだけで大分楽になるよ。これからまだまだ長いんだからしっかり休んでね。」
そう言って隣に寝直すレイリー。シートを胸元まで上げてアイリスにも掛ける。
「はい。有難う御座いますレイリー様。」
「うん。おやすみ。」
おやすみ、と言ったものの隣に女性が眠っているという状況で爆睡出来る程レイリーの神経は太くなかった。アイリスに背中を向けて寝てはいるが狭い所為か肩が背中に当たっている。
高鳴る心臓の鼓動を聴かれてないだろうかと不安になると更に心臓が鼓動を早める。悪循環である。
それから三十分、吐息だけが聴こえて来るのでもう流石に寝たかなと思い寝返りをうつ。
「うぉあっ!?」
寝返りをうつと、アイリスが目を開けたまま此方を見つめていた。あまりの驚きに悲鳴を上げたレイリーを見て「どうしました?」とアイリスが問いかける。
「な、なんで目を開けてるのさ。」
「レイリー様の心臓の鼓動が早く、体温も上昇が止まらなかった様なので病気の心配があると思いスキャンを実行してました。」
「いや、これ違うから。そういうのじゃないから。」
「???」
「いいから目を瞑って寝てよ。そしたら俺も治るから。」
「畏まりました。」
そう言って目を閉じたアイリスを見て安堵の息を漏らすレイリー。
しかし、目を閉じれば閉じたで、端正な顔立ちや潤った唇、たわわに実った二つの果実に目が行ってしまう。
パジャマから溢れ出る北半球に釘付けになってゴクリッと生唾を飲んでいるとまた鼓動が早まってしまう。
パチッ
「やはり病気の可能性が…」
「わーーー!違う!違うから!」
二、三回同じ事を繰り返してレイリーはようやく眠りに着いた。
眠った原因は呼吸に見せかけたアイリスの睡眠音波のお陰だったのをレイリーはまだ知らなかった。
2017.4.25
中央大陸の硬貨をエルカルト硬貨に変える下りをカットしました。
なぜ再転生をしたのに持ってるんだ?という事になりますので。




